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斜め45度ぐらいで。

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「こちら自宅待機組」

 水を張った盆に月を浮かべる。満たされることのない黄金色が、底の見えない水面に歪みを帯びながらゆらゆらと揺れ動いた。やがて、それは静かに静かに落ち着いていく。波は引き、波紋は消え、歪みは正され―――水底に映るのは、最早月などではない。最初に写し取った夜空の姿は消え、まず見えたのは赤と黄の二槍と持ったボディスーツを身にまとった自身のサーヴァントの姿。アングル的に斜め上ぐらいから見えたそのやや伏し目がちにも見える横顔は美辞麗句を書き連ねたところで表現するには難しいだろう。相変わらずのイケメン、いや美形、というべきか。むしろ美貌というべきか。
 琥珀色の双眸を縁取る長い睫、すっと通った鼻筋に彫の深い男性的な色気を匂わせる作り。女性的に見えなくもないが、全体を見れば間違いなく男の顔であるそれは、やはり彼の貴人とは別物だな、と思う。彼の人はどちらかといえば男性的というよりも女性的な中性さを匂わせる美貌であったのだろう。両性を窺わせる中性的な美貌は、なるほどこの槍持つ騎士よりもより耽美な危険性を孕んでいたのかもしれない。無論、文官であったが故に、あの騎士のような男性さを見た目から窺い知れることが難しかった、というのもありそうだが。
 
 ランサー、騎士というだけあってすっごい鍛えられた肉体!って感じがするもんねぇ。また、彼の恰好もその肉体美を惜しげもなく晒すようなものであるから、ついつい目が盛り上がった胸部の筋肉だとか、筋肉の陰影が見える二の腕だとか、太ももだとか、割れた腹筋だとか、その辺に目がいくわけで。正直顔よか体に目が行くよ?
 
 しかし気になるんだけど、ケルト時代にあんな感じのボディスーツってあんの?それともあれは英霊仕様なの?英霊になると服装までクラスチェンジしちゃうものなの?・・・ファンタジーだからなんでもありなのかなぁ。
 ぼんやりと考えながら、すっと水鏡に手をかざして払う仕草をする。そうすると、ランサーは遠ざかりより広く周囲を見渡せる。そうして、ランサーと対峙する側には、鎧を纏った金髪碧眼の美少女が威風堂々と立っていた。
 その後ろにはこれまた目を引くような美女が立っている。印象でいえば、まるで雪のような女性だ。恰好もほぼ白で埋め尽くされているのもそうだが、長く腰まで伸びた髪は白を見紛うほどにきれいな銀色をしている。
 表情が緊張にひどく強張っており、どこかぎこちない。戦場に慣れていないのだろう。まぁ、普通に過ごしていればこんな殺し合いなど無縁なのだから当たり前だが。
 あの美しい、争いごとには縁のなさそうな女性があの少女サーヴァントのマスターなのだろうか?あれほどの美貌と、聖杯戦争に参戦できるほどの実力があれば、大概のことはなせそうなものなのに。それ以上に何を望むのか―――理解しがたいな。
 元より聖杯にかける望みのない自分からしてみれば、こんな危険しかない戦いに進んで参加しようなどという自殺志願にも等しい行いを平然とこなす人たちの願いなど、到底理解できるものではないだろう。
 そんな、自分の手で叶えることができないほど途方もない願いなんて―――ない、とは言えないか。私も、ないわけじゃない。叶えて欲しい望みはある。叫びたいほどに願う祈りがある。けれども、同じぐらいに死にたくないという願望があり、結局、手を伸ばせずじまいだ。だって、私は命が惜しいのだから。
 
 生き汚いな、とわずかな苦笑を浮かべつつ、さて、考察に戻ろう、と意識を戦争に向ける。
 あのサーヴァント、ともすれば美少年に見えなくもないが、あれはきっと女の子だろう。はて。あんな覇気のありまくる女の子の英霊なんぞ誰かいたっけかな。女性の英霊、しかもランサー相手にあぁも堂々と現れるぐらいだ。多分接近戦に自信があるのだろう。ということは、キャスタークラスではないな。穴熊するようなタイプには見えん。というか出てきてる時点で絶対違う。アサシンでもないだろうな。暗殺者があんな堂々と出てきちゃ色々ダメな気もするし。いや、いいんだけど。暗殺者が正々堂々闘っちゃいけません!とか決まってるわけじゃないからいいんだけど、しかし突っ込まずにはいられないというか。・・・まぁ、とりあえずアサシンも除外して。んでもってランサーと正常な会話をしてるしきりっとした眉に意思の強い目には確かな知性と理性が窺い知れる。あの感じからしてバーサーカーもない。そうなると残るクラスはアーチャー、ライダー、セイバー―――あれ?

「セイバー・・・?」

 なんだろう、見たことがあるような。不意に焼けつくような感覚がじりっと脳裏をよぎったが、それを深く追いかける前に体から魔力が抜けていく感覚を覚え、あぁ、と嘆息した。一瞬外していた視線を再び水面に戻せば、ランサーとセイバーがぶつかりあっている。あぁ、うん。楽しそうだなランサー。パスから抜けていく魔力と共に、こちらに押し寄せてくるランサーの荒ぶる感情の波があまりに高揚として溌剌で、喜々とした感情を伝えてくる。
 これもこれで理解しがたいものがあるな。

「・・まぁ、今は他のマスターがいないか確認するか」

 恐らく、この戦いはほとんどの陣営に感知されているはずだ。ならば、どこかに偵察として何かしらの影があっても可笑しくはない。できればサーヴァント情報もほしいなぁ、と思いつつ、ちゃぷりと水面に指を差し入れた。








現場にはいかない傍観主。いやだって、安全なところにいたいよねって!まだこの段階だと正式勝負!ってよりは様子見だし。なので情報収集を頑張ります。まぁ、この後なんか色々鯖が出てきて大方陣営の把握ができるわけですがね。

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