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傷つけたいわけじゃない。死なせたいわけじゃない。
守りたい。死なせたくない。なんの憂いもなく笑っていて欲しいと思う。
そう思うのに、それとは裏腹にその手が真っ赤に染まる瞬間をまた見たいと思う自分は、どこか壊れてしまったのかもしれない。
傷も剣だこもない、まっさらの掌を見つめて瞳を眇める。同じ小さな柔らかい手なのに、この手はあの恐怖を知らないのだと思えば違う手なのだとまざまざと見せ付けられる。
視線をあげれば戸惑う瞳。顔立ちも作る表情も同じなのに、その瞳の奥にあの澱んだ暗闇がないことに落胆を覚えた。
何も知らない君を望んだ。何も知らない君を選んだ。そこに伴う痛苦こそを対価として、何もしらないままの君を再びここに引きずり込む犠牲をまた君に課して。
そうして得た今に、僅かな後悔を覚える。失ったままに耐えられないと選びながら、再び現れた君に落胆を覚えるなんて、なんて身勝手な言い分だろう。
でも、君は知らないじゃないか。君はあんなに脅えていたのに。あんなに嫌がっていたのに。あんなに頑張っていたのに。血反吐を吐きながら、輝きすら知らないと俯いて歯を食いしばっていたのに。
俺と同じように、ただ臆病に見てみぬふりをしていたのに、どうして君だけ忘れてしまったの。
どうして君だけ、何もかも知らない、真っ白な時間を得られたのか、それが羨ましいと同時に憎たらしい。どう足掻いても得られない自分とは違い、何も知らない彼女に非などあろうはずもないのに、それでも憤りを覚える自分はなんて醜い。何もかも、自分の責なのだとわかっているのに、それでも、叫ぶ思いは隠しきれなかった。
俺と似ていた君が愛しかった。俺に近い君に安堵した。神子だと言われていても、神に選ばれた人間だとしても。君は俺に似ていたから、輝く周りとは違っていたから。それに救いさえ覚えていたのに、君は徒人になってしまった。
今いる神子は君とは似ても似つかないよ。力強く真っ直ぐで、花のように鮮やかで。諦めを知らないかのように。挫折も絶望も縁遠いものであるかのように。前を見据える姿は光り輝いて、眩しすぎて恐ろしい。
すぐ隣にいた君とは、似ても似つかない。ねぇ、透子ちゃん。
「君が、よかったな」
「え?」
「君が、よかった。君で、いて欲しかった。・・・・しょうがないことだけどね」
それでも今の君を守りたいと思う気持ちに、嘘偽りなんてないのだと、果たして信じてもらえるだろうか。
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