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父はいない。記憶にもない。生まれた時から自己をしっかりと形成している自分に姿をみた記憶さえもないということは、それなりに事情のある出産だと推測される。
母はいる。一応一緒に暮らしてはいるが、あまり話したことはない。母はいわゆる夜のお仕事をしていて、夜家にいることは少なく昼間でさえも寄り付くことはあまりない。家にいない母と、コミュニケーションをとれというのは齢十にも満たない幼子の体では無理な話だ。まぁ、本当に心身ともに幼子であれば今頃児童養護施設にでもいるんじゃないかというぐらいには、育児放棄をされまくっている真っ最中なのだが。
偶に家に帰ってきたとして、母が私を興味を示すことはない。一応彼女の腹から出てきたはずなのだが、どうも母性本能が少ないのか、もとより望まない子供だったのか。父親はいない、夜の商売をしている女、とくれば、まぁ、なんとなく事情も察せられるというものだが。一応、生活費らしきものは定期的に机に置いてあるし、乳児期にはまぁ母乳ではなくとも世話はしてもらえていたのだから、それなりに世話しなければ、という意識はあるんじゃないかと思うのだが・・・。
まぁ、あれだ。私が年齢に見合わず、与えられる金銭でやりくりできちゃってるのが問題なのかもしれない。しかも下手に理性が発達してる分、母親への接し方というか、話しかけ方というか、そういうのを考えちゃってうまくコミュニケーションを取れないのも悪いかもしれない。普通の子供ならばいくら邪険にされているとはいえ果敢にアタックするところを、遠慮して何もできないのだから、疎遠になるのは仕方ない。
あるいは、そんな子供らしくない私を、彼女も気味が悪がってあえて近寄らないのかもしれない。悪循環。まぁ、生活は裕福ではないけれど前世に比べれば一つ所に留まっていられるし、危険らしい危険はないし、おおむね快適といえるかもしれない。まぁでも、・・・・昔の方がよかった、と思わないでもないけれど。
そんな、ほぼ関わったことがないといえる母親が、ここ最近私を連れてよく外に出る。近くの公園だったり、キッズコーナーがあるデパートだったり、場所は様々だが、いまさらコミュニケーションを図ろう、という魂胆でもないだろう。家に帰るたび、物が減っている部屋をみて、おおよその察しはついていた。それでも何も言わずに、小さな手で包丁を握ったり洗濯をしたりしながら日々の細々としたことをこなすのだが、来るべき日というのはどんな遅くとも来るものだ。
「透子、行くわよ」
「はい、お母さん」
手を握ることすらない。呼ばれるままついて行って、車の乗せられて知らない道をいく。今日は見慣れた公園も最近お世話になっているデパートも素通りして、まったく知らない道をくねくねと進んでいく。
会話のない車内は沈鬱だが、車窓を眺めることで誤魔化して、今日はやけに遠くに行くんだな、と思った。
「・・・どこにいくの?」
「いいから黙ってなさい」
話しかけてもそっけない口調で切り捨てられる。溜息を小さく零して口を噤み、再び窓の外をみた。
知っている道も覚えのある道も消えて知らないビルと家と道路ばかりになっていく。やがて車は知らない住宅街に入り、小さな公園の前で停車した。・・・なぜ公園。ここまで遠出して公園なのか、と思いながら促されるまま車を降りて公園に入る。冬の冷たい空気が肌を刺し、ダッフルコートに顔をうずめてちろりと上目に母をみた。
「ここで遊んで待ってなさい」
「・・・お母さんは?」
「私は用事があるの。いい子にしてたら迎えにくるわ」
そういって、初めて母が頭を撫でた。ぎこちない手の動きだったが、初めて頭に触れた手に目を見開けば、赤くい口紅に染まった唇が笑みを浮かべている。そういえば母の笑顔すらあまり見たことがなかった。その笑みを目に焼き付けるように見つめて、こくりと頷いた。いい子、といって、母はまた頭を撫でる。
その優しい手つきをかみしめて、車に戻っていく母をじっと見送った。車に乗り込み、一回だけ車内からこちらを見た母は、しかしすぐに視線を外して走り去る。小さくなっていく車をその姿が見えなくなるまで見送って、はぁ、と息を吐いた。白く濁る吐息にが空気に消えるのを見て、あーあ、と足元の小石をけった。
「うそつき」
迎えにくる気なんて、もうないくせに。おおよそ察しはついた。子供が自力で帰るには遠い場所、いい子にしてたら迎えに、なんて、ありきたりな嘘をついておいていく。おそらくもう母が私を迎えにくることはないだろう。片づけられていく部屋と時折家にくる男の影が目にちらついて、再度あーあ、とため息をついた。
せめてどこか施設に連れて行くという選択肢はないものか。知らない公園で取り残されるのは、子供どうこういう前に一人の人間として寂しく思う。まぁ、とりあえず「いい子」で待っていて、本当に迎えにこなければ交番にでもいくしかないだろう。
結論をつけて、雪が隅っこに積もる公園の中を、くるりと反転してブランコに近寄った。積もった雪を払い落として、冷たいそこに座ってぐずつく空を見上げる。手袋越しに錆びついたブランコの鎖を握りしめると、きぃ、と鎖同士のこすれる音がした。
「・・・雨にならなきゃいいけど」
こんな寒空の下ろくな屋根もないなか雨に降られたらリアルに泣くぞ。きぃ、きぃ、とブランコを鳴らしながら、それにしても寒い、と凍えるように息を吐き出した。
幼児傍観主と日向先生の話が書きたくて。とりあえず最初の出会い編だけ書いてみようかなぁって。思ったら出会うまでいかなかったっていうそんなお話です。
転生設定なので、日向先生と接触するには日向先生が知人に無理やり傍観主を預けられるか(ギャグ的に「俺達今から世界一周旅行に行ってきます☆よろしく!」みたいな感じで)こういう感じでもないと一緒にはいられないかなって思って。結果、こんな薄暗い設定になった。
とりあえず日向先生にせめて拾われるところぐらいまでは書いてみたいなぁ。書けたら。頭の中では出来上がってるけど、難しいかなー。
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