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「嘆きの声が届けない」

 目が覚めて見た医師の顔は見慣れたそれではなかった。全く見知らぬ顔が覗き込み、淡々と脈をはかる。陽に触れることの少ない肌はどこか青白く、筋のように浮かぶ血管の青さが目に付くぐらいだ。
 その手に指を這わせ脈を測り、差し出された体温計で熱を測る。その間に見回した室内に並ぶ顔すら一新されいて、胸中に浮かぶ黒い何かに眉を寄せ耐えるように瞼を閉じた。
 一通りの診察を終えた医師はほっと安堵の表情を見せた。その安堵も患者の無事に安堵するそれではなく、己の無事に安堵するそれであった。その表情にまた追いつめられるような心地がして息苦しさに小さく口をあける。ひゅぅ、と息を吸い込めば慌てたようにどこか具合が?と問われた。それに私は咄嗟に口を閉じると、小さく口角を持ち上げてどこも、と答える。少し疲れただけだといえば、医師は絶対安静を告げて席を立った。
 変わりにナースがベッドに寄り、水差しからコップに水を注ぐと粉薬を差し出された。それを受け取り口に含むと、すぐに水で粉を喉奥に流し込んでいく。粉薬は咽るような気がして好きではなかったが、我がままを言う気力も、持てるはずが無かった。いや、我がままを言う資格などあろうはずもない。
 抗うこともなく薬を飲んでそのままベッドに横たわれば、甲斐甲斐しくナースの手が毛布を首元まで引き上げ整え、そうして後ろに下がっていく。そのナースの顔色さえ緊張を張らんでどこか青く見え、私はその顔色から逃げるように窓の向こうに視線を向けた。
 直射日光を避けるためだろう。レースカーテンの向こう側はよく見えないままで、淡く注ぐ光に僅かに目を細めれば、とろりとした睡魔が押し寄せてきた。薬の副作用か何かであろうか。それすらも今は都合が良いと思う。そのまま抗うことなく瞼を閉じ、睡魔に見をゆだねた。それは紛れもない逃げではあったが、逃げなければ今の私は自己を保てない。変わっている顔ぶれが辛い。胸中に押し寄せる罪悪感に吐き気すら覚えたが、それを表に出せばそれこそ私はまたしても追い詰められることになる。だから逃げるように、ただ逃げるために、瞼を閉じた。そうして見た夢が、幸福なものであるはずがないと、わかってはいたのだけれど。





―――――
熱出して倒れたその後。淡々と表現してみましたけれどそれは周りに人がいるからで尚且つ傍観主の精神的に結構まいってるからです。
ほんとはもっと欝っぽくしようかと思ったんですけれども、傍観主案外そういう欝っぽいところは誰にも見せないっていうか見せるの某赤い人の前ぐらいだったんで自重。むしろ自嘲。
多分黙って微笑むだけ。その顔みて水樹さま達がそろそろマジヤバイと思って行動するんだと思います。
何も言わないけど目でわかる、みたいな。


 

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