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「四月。略」

 デスクの前で項垂れている日向さんを見つけたら、速やかにスルーすべし。・・・なんて、さすがに実行に移すには薄情すぎる。しかしながら、面倒事である可能性が否めない場合、躊躇する私の心情も慮ってほしい。常識人だと思わせておきながら、日向さんってば結構鬼畜というか躊躇なくいたいけな元教え子を面倒の渦中に引きずり込むのだから。案外やることが酷いってのはここに入社してからの私の経験談である。あの人確信犯だよ結構。いや、今まで一手に引き受けてきた分、分散できそうな人員を見つけたら早急に巻き込もうとしているのはわかるんだけど。私も多分同じ立場ならアリジゴクのごとく引きずりこもうとするだろうけど。
 でもほら?引きずり込まれる側としたら?足蹴にしてでも逃げたいわけで?・・・とはいっても、お世話になっているのは事実である。とりあえずコーヒーの一杯ぐらいは差し入れしてあげるべきだろう。その結果巻き込まれたとしても、うん。しょうがないって、諦めるよ・・・。できるだけ無茶な配役にならないことだけ、尽力しよう。
 そんなこんなで、給湯室はちょっとばかり遠かったので、近くの自販機でコーヒーを購入して、何か書類を前にして頬杖つき眉間にきっつい皺を刻んでいる日向さんに声をかけた。

「お疲れ様です、日向さん。コーヒー買ってきたんでよければどうぞ?」
「ん?あぁ、中村か。悪いな」
「いえいえ」

 少し冴えない顔色で、眉間の皺を解すように親指を人差し指で目頭を揉みこみ、丸めていた背中を伸ばした日向さんは本当に疲れているようだ。そういえば、今日向さんは刑事ものの連ドラの撮影があったんだっけな。そんな時期に書類を前にして苦い顔とか、果たしてどんなトラブルがあったのやら。自分用のカフェオレも購入していたので、まぁ気分転換の雑談程度に、少し離れた二人掛けのソファに腰をかけてプルタブをカチン、と音をたてて持ち上げる。それに誘われるように、日向さんも缶コーヒーのプルタブに指をかけて、カチン、と音をたてて缶を開けた。

「なんだか随分とお疲れのようですね。撮影そんなに忙しいんですか?」
「それもあるけどな・・・頭の痛い問題が山のようにあるんだよ。さしあたって、あいつらのやらかしたことへの後始末とかな」
「あいつら?」

 え?社長ではなく?日向さんからの口から出るとしては珍しい発言に首を傾げると、日向さんは無言で書類を持ち上げ、こちらに差し出した。ちょっと距離があったので、仕方なく立ち上がり日向さんの手から書類を受け取る。あんまり見たくないよなぁーと思いつつちらり、と日向さんを見るものの、彼はすでにこちらから視線を外して缶コーヒーに口をつけていた。せめてもうちょっと説明してくれたらいいのに、と思いつつ、受けとった書類に目を通して・・・私はうわぁ、とばかりに顔を顰めた。

「いつかはやらかすんじゃないかと思っていましたけど・・・やっちゃいましたね」
「やっちゃったんだよ。ったくあいつらは・・・いや、厳密に言えばあいつ、か?どっちにしろ頭が痛い・・・」
「心中お察しします」

 そうとしか言いようがない分、私は書類をそっと日向さんに返して苦笑を浮かべた。いや、うん。いつかやらかすだろうなって、薄々は感じていたよ。でもできれば杞憂であって欲しいな、と思っていたのも本心で。
 でも結局起きてしまったのだから、もうすでに後の祭りというものだ。猪突猛進というか、配慮が足りないというか・・・。

「屋上に業者のヒトが入ってたの、こういうことだったんですね」
「まぁ、四ノ宮・・・砂月、だったか?あいつが学園でやらかしてたことに比べれば極々僅かなもんだけどな」
「でもやってることは器物破損ですからねぇ。あれほど言ったのに・・・感情で動くところはまだまだ子供ですね。今度はなにに目くじら立てたんだか」
「人的被害がないだけマシと思わないとな。それに社長がしでかすことに比べりゃ微々たるもんだ」
「ダメですよ日向さん。そこ基準にしたら全てにおいて「大したこと」じゃなくなりますよ。これは由々しき問題だと考えないと。少なくともこれから売り出そうとしているアイドルが器物破損とか暴力行為なんかしては大問題になってしまいます」
 
 いや、常識的に考えてどっちもやらかしちゃダメなことなんだけどね?内輪だけで今のところ済んでいるしからいいようなものの、これが外で行われてみろ。グループだけじゃなくて会社の問題にもなり得るのだ。いやまぁ、ちゃんとそこら辺の分別はついていると思いたいんだけど・・・某野外ライブの話を聞く限り、どうにも不安が拭えないといいますか。
 とりあえず、基準そこに置いちゃいけない、と真顔で注意を促すと、日向さんははっとした顔つきで、ぺしり、と額を叩いた。

「あぁ・・・そうだったな。あの人を基準にするべきじゃねぇな」
「危ないですね。ここの常識と世間の常識は異なるんですから、そこは敏感にならないといつかものすごい見落としをしますよ?」
「肝に銘じとく」

 いや本当に、大したことないと言ってるこれも世間的にみたら大したことですからね?ここ基準で考えてたら、うっかり対処を間違えることだって有り得るのだ。そこは引き締めていかないと、今後が大分不安である。やだよ、何か問題起こして会社倒産とか。露頭に迷うのは勘弁です。

「まぁ、無難にこの器物破損の弁償代は全額ではないにしろ、ある程度四ノ宮君の給料から差っ引くべきでしょうね」
「だな。親御さんにも連絡いれるべきか・・・」
「忘れがちですけど普通に未成年ですもんね、彼ら。連絡はいれておくべきだとは思いますよ。一応金銭に関わる問題ですし。子供のしたことを親が把握してない、っていうのもどうかと思いますし」

 まぁ、事を荒立てるのはあまり気分が乗らないが、最低限の報告はしておくべきだろう。まぁ、過去を振り返って四ノ宮君ももう一人の人格について親御さんが何も知らないはずはないだろうし、まぁ、そんなに物凄く衝撃的なこと、とはならないはずだ。他人様の家庭事情まで知らないから如何ともしがたいが、成人もしていないまだ親の庇護を要する立場なのだから、多少気まずかろうと報告をしないでおくわけにはいかない。こうやって、多少なりとも問題が上がってきているのだから。言わば義務である。

「それだけ対処すればさすがにブラック四ノ宮君も自重するでしょうし。何より「那月君」の方にも迷惑がかかるんです。嫌でも自重しますよ」
「あいつらも、子供とはいえ仕事をこなすプロだからな。いつまでも内輪の我儘が通るなんて考えじゃ困る」
「それが社会人ですからね。あ、そうそう日向さん。これ、鈴木さんから預かってきた書類です」
「ん。わかった。目を通しておく」
「はい。それでは失礼します」

 とりあえず当初の目的を済ませ、話にも一段落ついたので暇乞いの挨拶をして踵を返す。おぉ、という日向さんの返事を受けつつ、飲みかけのカフェオレの缶を通り過ぎざま手に取って、カツカツと足音をたてて部屋の外に出た。
 まぁ今回はネットの破損程度だったし、壁やら床やらベンチやらが破壊されなかっただけまだマシ、と思わないといけないんだろうなぁ。でも普通そんな事態になるなんてこと早々めったにないんだろうけどなぁ。

「時々基準がわからなくなるよね、ホント」

 あー、突拍子もない人たちと接すると時々常識を見失いそうで怖いわー。ふぅ、と憂いのため息を吐いて、しみじみと、この会社にいると色々やばい気がする、と実感した瞬間であった。





七話裏小噺?いやまぁ、一期のさっちゃんに比べて全然大人しいとは思うんですけど、あんなに全力で暴れまくったら余所ではやっぱりダメだよなぁ、とか。あのネットどうしたんだろう、とか。(屋上にあったものを無理やり剥がしたのなら、やっぱりそれは器物破損だよなぁ、とか)冷静に考えてみた結果、まぁ、いくらかの責任は負わないといけないだろうし、まだ未成年なんだから親にも報告しないといけないかなぁ、って。もう学校じゃないし、一応働いているんだから、やっぱりそれなりの対応ってのはしていかなくちゃ!
そう思ったらこんな会話になったでござる(´・ω・`)・・・・それにしてもうちの子はプリンスたちと同期の癖に教師組としか交流してませんね!まだあってないから仕方ない!・・・ノリ的に最終回で再会ってなりそうですよねーあは!



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