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斜め45度ぐらいで。

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「図書館ラヴァーズ」

 自転車置き場に自転車を置き、前の籠にいれていた鞄を取り出して中身を見れば、チカチカと光る携帯を見つけて眉を寄せた。嫌な予感しかしなかったが、届いているからには見なくてはどうにもならないので、眉を寄せて着信を確認してみれば案の定友人からだった。なんかどっかのメルマガとかお知らせとかそんなのの方が現状すごく嬉しいのに。溜息をつきつつ中身を読み、もう何度打ったか知れない返事を送信し、ぐっと長めにパワーボタンを押して携帯の電源を切る。
 液晶が真っ暗になりうんともすんとも言わなくなった携帯を持ったままダウンジャケットのポケットに手を突っ込み、ようやく人心地ついたとマフラーに埋めていた顔を出して上を仰いだ。吐いた息が白く濁るのを尻目に、爽快に晴れ渡る空にこちらは曇天だよ、と肩を落として止めていた足を動かす。
 微かな機械音と共にウィン、と左右に開く自動ドアを潜り抜け、ずらりと室内一杯に並ぶ本棚とその中に敷き詰められるように収まる本が作り出す静寂の空間へと足を踏み入れる。
 まばらに人も見えたが、喧騒、いや人の声から程遠い空間は数日前から機械音に悩まされていた私の耳には優しく、溜まらずほっと安堵した。寒さに強張っていた筋肉も効き過ぎるぐらい効いている暖房に緩んでマフラーを取ると無造作に鞄に突っ込み、カウンターの前を抜けて陳列する蔵書に視線を走らせる。
 ここならばいくらメールや電話に反応がなかろうといくらでも言い訳は可能だ。元より仲間内ではそういった反応にはずぼらというか、携帯なのに携帯していないことで返事も遅い私にその手の苦情がきたことはないのだが。なにせ事前に返事は遅いよ、と言っているのだし。一応外に行くときは持ってはいるんだけど、家の中だと部屋に置きっぱなしにしていることが多く、自室にいないことも多いので必然的にメールに気づくのが遅くなるということだ。
 夕方のメールの返事が深夜の時間枠になることなんてザラにある。気づけば返すんだけどねー。しかし今回ばかりは気づいても返したくないぐらいに面倒だ。
 知らず溜息を零しながら、適当に本棚の間を歩き、趣味でラノベや児童書を流し見しながら、懐かしい本を手に取る。夢◎清◎郎シリーズとか、怪◎クイ◎ンシリーズとか、色々。小学生向けなのでやや大きめの文字だったりするが、正直こっちのが目にも優しい気がする。
 手に取ったり戻したり、そんなことを繰り返しながら間を抜けて、目的は一応読書感想文用の本だ。
 夏だろうが冬だろうが春だろうが関係ない。国語担当教科の担任の趣味により、国語の課題に読書感想文がつくのは一年時からの通例だ。実際読書は大事だと思うので問題はないのだが、しかし課題だといわれると読む意欲というのが失われるんだよねぇ。専ら読むのはどっちかというと気軽に読めるラノベ系だし。
 いや、一応文学的なものも読むんだけど・・・やっぱりどっちかというとラノベがねぇ、読みやすいし。
 しかしまさか課題にラノベの感想文など出せるはずもなく(そんな勇者もいるかもしれないが)、今まで読んできた中から適当に抜粋もしていいのだが、どうせなら何か新しく読むのもいいなぁ、と思って。
 一応メール地獄から開放されたいが為だけにきたのではないと、弁解しておく。あぁもう本当に、・・・この前は本当にまいった。お手上げというしかない。
 まさかなー。ここがあの世界だなんてなー。しかも迷宮とかさー。マジ勘弁してよ。いや別にいいんだけど、何故そこで私に接触を図ってきたのかがわからない。ここ数日考えてみたことだが、まさか彼らが私のことを知っているとは考えにくいのだ。リズ先生ならいざ知らず、あそこにいたのは白龍と譲。後から朔もいたのかもしれないが、生憎とダッシュであの後は逃げたのでどうなったかは知らない。だが、彼らが私のことを知るはずが無いのだ。だって、私のエンディングはすでに終わっており、あの流れから運命の迷宮に繋がることは皆無だからだ。大団円エンドに近くはあろうとも、私が死んだ時点で、その先はない。
 つまりあの彼らがここにいるはずがなく、ついでに言えばよしんば別時空の私がもしかして運命の迷宮のルートを辿っていたのだとしても・・・私に対してあのような反応をする意味がわからない。言っておくが確かに似ているけれど今の私の顔立ちはぶっちゃけ違うものだ。生まれた腹も提供された精子も違うんだから当然なんだけど・・・。てか私がいるのに私に抱きつく意味がわからん。それに。

「望美ちゃんが、いたよね・・・」

 足を止め、ぽつりと呟く。だって最初に白龍が抱きついていたのは確かに望美ちゃんだった。あのゲームの公式主人公で、あの様子ならば彼女が神子であることは間違いない。なら私のあの体験はなんだったのさ?って話だが、そこは考えるとなんかパラドックス的なあれやそれに陥りそうでわけわかんないので放棄し、彼女がいるのならば益々私関係ないよね、ということになる。つまりどうあっても、私が彼らにあんな熱烈な抱擁やら泣きそうな顔やらされる理由がないのだ。むしろ逆。それするの私。いややらんけども。関わりたくないから。
 ・・・・考えてもサッパリわからん・・・。友人たちから「あれは何事!?」的なメールがひっきりなしにくるわけだが、正直私の方が「あれは何事?!」だ。てかさー・・・噂になってるよねー確実に。終業式の日にさ、生徒も大勢いる校門でさ、なにやらかしてくださったんだろうねあの無駄にイケメンズは。
 明らかな地味キャラが派手な面子といるだけで目立つってのに!あぁ冬休みでよかった!これで普通に学校があったら居た堪れなさ抜群だったよ!休みの間に沈静化してくれるといいな・・・。
 全く、本当に、面倒この上ない。ぐったりと本棚によりかかりながら、表情を消して薄くなった背表紙をぼんやりと見つめた。

「なんで、かな」

 関わりたくない。遠いところにいたい。あんな厄介事はもうごめんだ。二度と、もう二度と。繰り返したくないことで、忘れたいことで。だけど、――――会えて、嬉しくなかったわけでは、ないんだ。
 二度と会えないと思ってた。会えるはずが無いと思ってた。だけど出会った。声を聞けた。嬉しくないはずがない。どんな夢物語のような出来事だったとしても。確かに私は彼らと時を刻んだし、仲間であったし、大切であった。だから、喜ぶ気持ちがないなんて、言わない。言わない、けど。それ以上に、根付いた恐怖心は深くもぐりこんで抜けそうに無いのだ。
 平凡でいい。平凡がいい。平穏でいたい。平穏であるべきだ。派手すぎず地味すぎず。そこらの学生となんら変わりなく、退屈だ受験だ就職難だといいながら、それなりに幸せだと感じられるものを得て、生きていければ。それだけでよくて、それだけが欲しくて――物語のように、ドラマティックな人生なんて、本当に、いらないのだ。

「・・・・てか他の面子もいるってことだよねぇ」

 あぁぁぁ・・・・。思わず本棚に縋りついてずるずると座り込む。・・奴らの行動範囲などわかるはずがないので(とりあえず迷宮がある神社には絶対足を向けまい)、遭遇しないことを祈るばかりだ。てか早々行動範囲が重なるかよ、とは思うんだけど。有川家と春日家の住所なんて知らないが、近くはないだろうし・・・。町中で会うなんてそんな滅多なこと確率的にも低いだろうし。
 唯一の接点なんて学校ぐらいで、まぁ、多分今後遭遇することはないだろう。休み中に解決することで、新学期が始まればことは全部終わった後だ。うん。なんとかなる気がしてきた。ちょっと他のみんなに会ってみたいな、という気もしなくもないが、やはり妙なことになるのも嫌だし、会うというよりも見かけるぐらいで終われたいいなぁ。はぁ、と溜息混じりに俯いてぐったりと肩から力を抜いた。

「あの・・・どこか、具合が・・?」
「え?」

 不意に、後ろから遠慮がちに声をかけられ、びくっと肩を揺らしながら後ろを振り向く。その瞬間、限界まで見開いた目を誰が咎められるだろう。同様に、向こうも大層驚愕を浮かべていたが、ぶっちゃけそれを注視できるような心境ではなかった。さらさらと頬を掠める紫色の髪。昔はもっと長かったはずだ。後ろで結わえて、解くと女の子みたいで可愛くて。今は襟足でそろえるように短くなっていて、羨ましくなるぐらいのキューティクルとストレートが見せ付けられるように彼の顔の横を滑っていく。オレンジ色の狩衣は、オレンジ色のトレンチコートに変わり、茶色のブーツが足元でちらちらと見える。・・・・・・・・・・・・そんな。

「あつ、・・・っ」

 開きかけた口を咄嗟に閉じて、慌てて立ち上がる。びくっと肩を震わせ、一歩足を引いた――敦盛さんの、伸ばされかけた右手など気にかける余裕もなく。
 私はきつく鞄を握り締め、はくはくと無意味な開け閉めを繰り返す口で、たどたどしく返事をした。

「だ、大丈夫、です・・・ちょっと下の方の本見てただけなんで!」
「あ・・・」
「そ、それではっ」

 頭の中が真っ白だ。鮮やかなオレンジのトレンチコートにくらくらしながら、物言いたげに唇を震わせ、くしゃりと顔を顰める彼から顔を逸らして急いでその場を離れる。不意に、指先が、手を掠めたような気がしたけれど。待って、なんて声は、聞こえない。例え、彼がそれを言いたそうに、手を伸ばしていたのだとしても。背を向けた私に、彼の声なき言葉など、届くはずも無くて。
 混乱する頭でもかろうじて図書館内で走ってはならない、という約束事だけ守り、それでもできるだけ早足でカウンターを通り過ぎ、自動ドアを潜ると一目散に自転車置き場に走る。
 なりふり構っていられない。乱暴に自転車の籠に鞄を突っ込み、支えを足で蹴飛ばして跨るとぐるっと反転して全速力で自転車を走らせる。どうしようどうしようどうしようどうしよう。頭の中でぐるぐると同じ言葉ばかりが回って心臓がばくばくいっている。まさかまさかまさかまさかまさかこんなことって!

「早々に接触とかマジありえん・・・!」

 そういえば敦盛さんって図書館イベントかなんかあった気がするーーー!!!そんなことを思いながら、町中を自転車で疾走した。いや、最早爆走に近かったかもしれない。
 混乱する頭では、最早突然の接触に対する動揺しか浮かばず、その時、彼がどうしていただとか、あの後どうなっただとか、考えることは出来ずじまいで。とりあえず、図書館にはしばらく行くまい、と硬く決意した。


 彼の、泣きそうな顔など、知りもしないで。




―――――
in迷宮敦盛さん遭遇編。
図書館で遭遇でした。完璧不意打ち。会うこともなかろう!と思った瞬間に遭遇した傍観主の頭の中は真っ白だったに違いありません。敦盛さん的にも譲たちから話は聞いててもまさかここで会えるとは思ってなくて、どうしたらいいかわからないまま逃げられた感じかと。
傍観主は相手を観察している余裕などないので彼の諸々を見逃したまま逃げてます。相手のことなど、考えてもない。仕方ないといえば仕方ないにしても。

基本的に最初以外はこんな感じで短時間の再会っていうか遭遇って感じになると思います。なにせ傍観主が情緒に浸る余裕がないので。あぁでもそうもいかない人達が若干名いそうですがね。ネタ的にも。
そんなこんなで敦盛さん編でした!


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