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「目を逸らすことしか、できなかった」

 偶には外にでも出てみようかと思って、家の周りを少しだけ歩くつもりだったのです。
 何故だかご近所さんとは縁遠く、周囲には家というものがない家ですが、一応旦那様が生活物資などは調達してきてくれますので別段気にしてはいなかったのです。あぁそれでも誰かと話したいなぁとか、買い物行きたいなぁとか、そりゃ多少の不満はありますけど。町に行くのもちょっと遠いですし、旦那様曰く外は危険で一杯、だそうですので。
 ・・・・まぁ、正直にいうと、外は危ないから絶対に出るなといった旦那様の目が全然笑ってなかったというかなんかこう、雰囲気が可笑しくてですね。あぁこれ逆らっちゃいけない感じだ、とおぼろげながらに悟りまして。
 
 オッケーわかった危険には飛び込まないぜ!ってことで、それが「外」なのか「内」なのかはともかく、昔から自己保身だけは強かったので危ない橋は渡らないようにしていたのです。
 でも、そうですね。魔が差したとしかいいようがないでしょう。長らく平穏でしたので、危機感が薄れていたのも理由の一つです。ですから、まぁ気楽に外に出ておりまして。ちょっとした散歩のつもりだったのですけど。えぇ、本当に、なんでもないことのはずなんですけど。

「どこに行っていた?」

 笑ってる。嗤ってる。口元は弧を描いて、目は弓なりにしなって。笑ってる。穏やかに。問いかけは柔らかに。けれど、掴まれた手首が。手首をつかむ手が。みしみしと、それは、狂気的なほどの、力で。

「外、に、」
「何故?」
「ちょっと、散歩、で」
「ほう。散歩か」

 あ、やばい。なんかよくわからないけど、今、声が、低く、

「透子」
「・・・っ」
「――ほんとうは、でていくつもりであったのではあるまいな?」

 笑う笑う笑う嗤う嗤う。彼が笑う。朗らかに笑う。底冷えするような冷たさを孕んで。ただ、嗤う。問いかけに、咄嗟に首を横にふる。実際、そんなつもりなどなかった。ただの散歩だ。帰ってくるつもりだったし、出ていく理由がない。どうしてそんなことを聞くのだと、最早感覚すら薄れてきた手首に空恐ろしさを感じながら問いかければ、いやなに、と彼はうっそり口元を歪めた。

「ちょっとした確認だ。すまなかったな、透子。痛かっただろう?」
「書、文・・・」

 掴まれていた手首が解放される。血の気が戻ってきて、じんじんとした痛みが熱とともにぶり返してきた。見やれば、くっきりと赤黒い手形が残っている。その手を取って、彼は手首にやんわりと唇を寄せた。自分のつけた痕にそっと唇を触れあわせ、労わるように/慈しむように。いとおしげに、キスをする。まるで、幸せの証を見つけたように、彼の瞳は綻んでいた、けれど。
 赤黒い痕に幸福を見出すその姿は、決して真っ当ではないのだろう。手首から腕を伝って這い上がり、顔を寄せてくる彼を見つめながら、私はそっと目を伏せた。
 それはただの過剰な愛情表現なのだと、見て見ぬふりをするべきか。とりあえず、今後は外に出れそうもないなぁ、と切り取られた窓の外をちろりとみて、ため息は、丸ごと全部、食べられてしまった。





ヤンデレルートアサシン先生バージョン。彼の「~じゃ」とか「儂」という一人称は老年期入ってからとするならば、若いころはそうじゃないんだろうなぁ、と思って。でも古風な言い回しでないとそれっぽくないので、難しいね!
コメで兄貴はR18的ヤンデレで、アサシン先生は監禁系ヤンデレとあったので。
兄貴はわかりやすくすごい執着みせるけど、アサシン先生はチラリズムで見せてくるのかなって解釈をしてみた。
どっちにしろ傍観主の諦めスキルがなければ全力で逃亡フラグが立ちますよね。傍観主がそれでもしょうがないなーって受け入れてくれるから彼女の身は安全なわけで。真っ当なら多分最初から逃亡計画企ててるでしょうね。そして失敗して本格的に監禁されるんでしょうね。多分これまだ軟禁の状態だと思われ。アサシン先生と一緒なら町にも出してもらえるよ・・・多分・・・。


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