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「終焉」

 私は、認識を間違えていたようだ。いや、気づくのが遅すぎた、というだけの話であろうか。
 
 どちらにせよ、最早逃げも隠れも後戻りもできないのは明白だ。


 「龍脈が汚れていた」から、聖杯が汚れたのではない。

 「聖杯が汚れていた」から、龍脈が汚れたのだ。


 まさか、優勝賞品そのものが原因だったなどとは、とんだ盲点である。おい開催者、商品の点検ぐらいしとけ。・・まぁ、その管理者もすでにこの世にいないらしいので、今更の訴えであろうが。
 だから万能の願望器なんて、信用ならないんだ。悪態を吐いても、答える声はない。いや、近くに人はいるのだが、あまりの事実に言葉もないようだ。私とて、絶句していられるならずっとそうしていたい。けれども、現状はそうはさせてはくれないようだ。
 
 
 目の前で怨嗟の声を響かせるどろりとした大量の泥が、聖杯という器から溢れてくる。
 恨み憎しみ悲しみ狂気絶望嫉妬、ありとあらゆる負の感情を「泥」という形で現界させ、そうして町を覆い尽くさんとその魔手を伸ばしている。あれに触れてはいけない。触れてはあるのは死という絶望のみ。よしんば生き残れたとしても、泥の呪いで蝕まれていくことに変わりはないだろう。
 そもそも、聖杯のシステムそのものが歪みの原因だ。東洋でいうなら、蠱毒という呪いの術式となんら相違のない、他者の願いを貪り為す奇跡。そんなもので叶う願いなど、歪んでしまうのも仕方ないだろう。
 あぁ、だから、本当に、なんでも願いが叶うなんて眉唾ものの存在なんて、信じちゃいけないんだよな。
 溢れていく泥が町を覆い尽くしていく。それが完全に町を飲み込めばどうなるかなど、わかりきっていた。そうして、それが為されれば、この土地が真の意味で死ぬだろうことも。

 選択肢はここにある。手元の手札を切ってしまわなければならない。選べ。未来を。結末を。

 
 後ろを振り返る。私の後ろには、二人の男が立っていた。いや、一人は、愕然と地に膝をついて、その瞳を見開き、その死んだ瞳に泥と炎を映して絶望していただけだけれど。もう一人は、やはり茫然と、地獄と化していくだろう町を、見つめていたけれど。――もしもここに、私一人だけで、あったのならば。

 
「―――令呪を持って命じる」

 手の甲が熱を持つ。赤い光が輝きを増して、はっとしたように視線が注がれた。主、と後ろで焦ったように呼び掛けられる。それに振り向いて、目を見開くランサーと、思考が追いついていないかのように、茫然としている衛宮切嗣を視界に収めた。

「ランサー。セイバーのマスターを連れてこの場から離脱。その後、聖杯を介することなく、座に戻りなさい」
「主!?」
「なっ」

 
 驚愕に目を見開く衛宮切嗣とランサーを見つめて、小首を傾げる。赤い光がランサーの包むと、彼はひどく焦燥に駆られたような必死の形相で首を横にふった。

「主、なりません!!逃げるのならば、あなたも共に!!」
「な、にを考えてるんだ君は!ここにいれば、君まであの泥に飲まれるんだぞ?!」

 そういいながらも、ランサーは令呪の魔力に抗えないかのように、衛宮切嗣に手を伸ばしていた。しかし、懸命にそれを抑えようとする姿に、困った子だなぁ、と苦笑を浮かべる。

「ランサー」
「ある、じ・・・!」
「忠義を、尽くしたいと、言っていたね」
「・・・っ」
「なら、お願いだよ。私の願う通りに。私の望みのままに。・・・私を主と思うのならば、どうか私の願いを叶えて」

 ひぐ、とランサーの喉が鳴った。見開いた琥珀の瞳は一瞬暗く淀み、僅かに開いた唇が何か物言いたげに震え。けれど、最後には言葉を飲み込むようにきつく噛みしめると、喚く衛宮切嗣を肩に担ぎ上げた。ひょい、といとも容易く俵担ぎされた本人はぎょっと目を剥いて暴れたが、まぁ、普通の人間とサーヴァントの力量差なんてそれこそわかりきっているので、無駄な抵抗というものだ。そのままくるりと後ろを向いたランサーに、見えないだろうけれど笑みを浮かべる。
 俵担ぎにされた衛宮切嗣は、丁度私と向かい合う形になったが、私の顔を見るとひどく苦しげな顔をして唇を噛んだ。

「ここに残って、どうするつもりだ・・・!」
「できることをします。・・・あなたも、今、あなたにできることをしてください。きっと、あなたの手を待っている人がいますから」
「・・・っ」
「ランサー」
「はっ」
「お願いね」
「・・・・御意」

 短い返事を残して、ランサーの姿が消える。英霊のスピードなんぞ目で追えるわけがないので、まぁきっと走り去ったんだろうなぁ、と思いながら迫りくる泥を振り返った。

「・・・二人がいなきゃ、逃げてたかもね」

 一人だったら、怖くて怖くて、死にたくなくて。逃げだしていたんじゃないかなって。思うけど。まぁ、結局、現実はここに一人で残っているのだから、IFなんて意味のないことだ。

「――巡れ、天の声」

 ウェイバー君が戦線離脱していてよかった。さすがに事の顛末を伝える術はないけれど、彼のことだからきっとなんらかの形で気づくだろう。そうすれば、彼が聖杯をなんとかしてくれないかなぁ、って思ったり。こんなもの、さっさと廃止になっちゃえばいいのにね。

「――響け、地の声」

 ソラウは怒るだろうか。泣くだろうか。アーチボルトの家は大丈夫だろうか。まぁ一応時期当主候補は決めてたし、刻印も戦争前に返却してたから問題はないと思うけど。やっぱり、戦争なんて何が起こるかわからないね。まぁ、こんなことになるとは誰も予想だにしてなかったとは思うけど。友人の泣き顔は辛いな、と思いながら、眩い光に、目を細めた。



「彼の者を、封ぜよ」







 

 あの日、生き残った人はいう。


 真っ白な龍が、冬木の空を昇って行ったのだ、と。






・・・ごめんなさ・・・!いや、ハッピーエンド予定のはずなんですけど、どうしてもこのオチが思いついちゃって・・・!
というか多分成り代わり傍観主の通常エンドってこれじゃね?と思ってます。
原作通り、とはいかなくても大筋がそんな感じでラスト自分を代価に召喚して浄化。冬木は被害にはあうけど原作ほどじゃない。って感じの終わりで。
うん。正直生き残るよりこっちのが方がしっくりきます。いや生き残ったハピエンもありですけどね?!
だから、言ってるじゃないですか・・・傍観主が生き残りルートならIFでイレギュラー参戦がないと難しいって・・・。
まぁイレ鱒ルートでも、バットエンドは多分これと同じ形になるかと。泥溢れて傍観主浄化ルート。
あるいは聖杯の異常にもっと早く気づけたら生き残りルートが開けるとか。まぁゴルゴのせいで色々おじゃんになりそうな気もしますけど。うん。バットエンド書きやすくてどうしようか。まいったねこりゃ!
てか余事のハピエンって、傍観主生存系でどうやって作ればいいのか。どっちかというと他のキャラは生き残っても彼女だけあぼんしてそうなんですけど・・・。
遙か3じゃないけど、どのルートでも最終的にあぼん、みたいな・・・。うん。さて、ハピエンルートでも考えてくるかな!


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