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「ハピバ!」

「・・・なにやってんだ、お前ら」

 頭上からかけられたまるで不審人物を発見したかのような訝しげな声に、楽譜に落としていた視線をあげると、くっきりと眉間に皺を刻み込んだやや目つきの悪い三白眼気味の目がこちらを見下ろしていた。目つきは悪いが、顔自体の造作は文句なく素晴らしい。精悍な、男らしいと言える見慣れた顔を見上げて、苦笑めいてへらりと顔を崩した。

「膝枕?」
「みりゃわかる。なんでこんなとこで、しかも林檎相手にやってんだって意味だ」
「なんでも誕生日のお祝いラッシュで疲れたらしいですよ。休憩とか言って膝枕を要求されたので」
「休憩って・・・それでお前が素直に応じるなんて珍しいな」

 大抵なぁなぁで躱すだろ、と言われて、そうだったかな?と首を傾げる。ソファは私たちが占領してしまっているので、仕方なく、日向さんは会話しながら向かいの椅子に腰を下ろして、呆れたように目を半目にした。

「そうだろう。押しに弱いようで押し返せるところは問答無用に押し返してるくせに、よく言うな」
「大抵押し返せないことばかりですから、自覚もできないんですよ。まぁ、今回に限っては月宮さんも誕生日ですし、時間も限られてますから多少は融通もきかせないとなぁと思いまして」

 朝から色々と引っ張りだこのようだったので、さすがにちょっとお疲れ気味みたいだし。いくらお祝いごととはいえ、こうも重なるとやっぱり負担はそれなりに、といったところだろうか。現場に行けばいっただけ祝われれば、そりゃ疲れもするだろう。ファン人気だけでなくスタッフ人気も高い人はこれだから大変だ。人間関係が良いに越したことはないけれども、やっぱり疲れるときは疲れるよねぇ。コミュ力高いって、そう考えると羨ましいけど羨ましくないな。ただでさえ人目を集める職業な分、色々大変なのだろう。
 太腿の上に載っている月宮さんの桃色の髪を撫でながら言えば、日向さんは手に持った冊子をぱらぱらと捲って、だからってなぁ、と渋面を作った。

「自分の部屋ならまだしも、まだ事務所ん中だぞここは。誰が見てるともしれねぇってのに、林檎もお前も何考えてんだ」
「いや、実を言うともうすでに何人かに目撃されてるんですよね」
「はぁ?!」
「でもまぁ、逆に堂々としすぎてて、普通に話しかけられて「仲良しだね」ぐらいで終わってますよ。邪推もされましたけど、なんてか、そこは月宮さんのキャラというか・・・高い女子力のおかげで難を逃れたと言いますか・・・」

 普通に女子同士が戯れてる感じにしか見えなかったらしい。女装アイドルで銘打っているだけあって、堂々とじゃれていればあんまり話題にも上がらないようだ。これが日向さんなり一ノ瀬君たちであったりすればそれはもう邪推の嵐だろうが・・・そういう点でいえば月宮さんはお得なキャラなのかもしれない。まぁ、煙が出るときゃ出るだろうが。
 それにここはシャイニング事務所内なので、そこまで目立つわけでもないのが更に助かっている点だろうか。しみじみといえば、日向さんはなんともいえない複雑な顔で膝の上でむにゃむにゃと寝息をたてている月宮さんを見つめて、頭を抱えるようにして開いた冊子に額を押し付けた。あ、タイトル見えた。

「それ、次のドラマの台本ですか?」
「あぁ。学園もののな。見るか?」
「いえ。こっちも曲作らないといけないんで」
「あぁ、例の。大河ドラマの主題歌だったな」
「いきなり大仕事ですよねぇ。なんで私に回ってきたんだか・・・」

 これ別の人の仕事じゃね?と思いつつ、社長から回ってきたなら受けるしか私に選択肢はなく。色々事務仕事も(主に社長のせいで)立て込んでいるというのに、ここのところ睡眠時間削り取られまくりだ。むしろ月宮さんよりも私の方が誰かに膝枕してほしいぐらいだ。できれば七海さんか渋谷さんの柔らかくってむちむちすべすべの太腿でお願いします。え?目線が親父臭い?若くて美少女な女子が大好きなだけだ!よくよく考えれば月宮さんだって見た目美少女だけどぶっちゃけ柔らかくもふわふわもしてないんだよね!日向さんほどがっちりもしてないけど!いやでも、あれはあれで筋肉美味しい・・・。鍛え抜かれた腹筋及び大胸筋諸々も大好物ですじゅるり。

「あのおっさんが認めてんだ。精々気張れよ稼ぎ頭」
「それ、そっくりそのままお返ししますよ。大体稼ぎ頭は七海さんとS☆Rでしょう」

 あとQ★Nね。月宮さんと日向さんはあまりにも当然すぎて省くけど。にこりと微笑み、うぅん、とわずかにぐずるかのように声を出してごろりと寝返りを打った月宮さんに、おや、と瞬きをこなす。お腹に顔をくっつけるようにして密着してくる月宮さんの頭を軽く撫でてから、その行動を機に会話はこれでおしまい、とばかりに再びに楽譜に視線を落とした。
 日向さんも、軽く肩を竦めてから、場所を移動するでもなくその場で台本を広げて読み込んでいく。恐らく、ここに日向龍也という第三者がいることによって、更に他の人目に触れても火種にならないように配慮してのことだろう。まぁあと、他に行くところもあんまりないんだろうけど。執務室にいたら結局仕事に忙殺されるんだものなぁ。

「そういえば、今日月宮さんところに集まるんですか?」
「メールはよこしといただろ?ケーキの準備しておけよ。こいつ、お前の作ったもん楽しみにしてんだから」
「了解です」

 でもお店で買った方が美味しいと思うんだけどなぁ。そう思いつつ、鉛筆片手に、楽譜に芯を滑らした。









林檎ちゃんお誕生日おめでとー!ってことで、全く祝ってない感じですけどハピバ記念。
相変わらずお誕生日ってこと忘れてて慌てて小噺書きましたよメンゴ!
あと、日向先生のときもぶっちゃけ日向先生が出てこないハピバ小噺だったので、同じ感じになるように主に日向先生との会話のみでいってみました。(え?祝い方間違えてる?)
でも膝枕してるんだから、前回の日向先生よりはマシな扱いされてるよね!
まぁどっかの休憩室で休憩してる三人でも想像してくれればいいかなぁと思います。
てか書いてて思ったんですけど、あれこれ、先生ズ、何気に傍観主のところに集まるようになってね?って・・・。無意識に、こう、静かなところというか落ち着くところというか休憩するところに傍観主の近くを選んでる気がしてならない。マイナスイオン神子様パワーのせいですか?何気なく集まってそしてちょっと気力を回復してから仕事に向かってそう。あくまで自然になんとなく集まってそう。お前ら同学年の友人同士か!と言わんばかりのナチュラルさで溶け込んでそう。あれプリンスさま・・?(本当の同学年のニアミスっぷりよ)
えぇと、とりあえず林檎ちゃんハピバ!色々ゴメンネ!





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