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斜め45度ぐらいで。

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「アオの境界線」

 だだっ広い海のど真ん中に落とされなかっただけマシと思った方がいいのだろう。
 深みのある青色と岩肌に叩きつけられる波が白く泡立つその光景を、海に突き出た崖の上から見下ろして、どこまでも真っ直ぐ、いや、多少膨らんで見える水平線を見つめながら、しかし感謝などしてやらねぇ、と溜息を零した。
 潮風に制服のスカートと水平を模した襟が煽られながら、真っ直ぐ見つめていた海から視線を逸らし背後を振り返る。そこは鬱蒼とした森になっていて、時折怪鳥なのか怪物なのか動物なのかよくわからない鳴き声が聞こえてくる始末。森の中から不気味な声が聞こえてくるのは異世界トリップの必須条件なのだろうか。心底いらねぇそんな条件。静か過ぎても不気味だが、かといって明らか地球上の生物としてあっちゃいけない鳴き声なんてものも望んでない。極々一般的な森の静けさというものが欲しいんだけど、と零してもその希望を叶えてくれる人間も存在も、ましてや聞いてくれる生き物が近くにいることもない。
 虚しい、と一人ぼやきながら、首筋に掌を押し当て、前に向き直ると、ざっぱーんと叩きつける波を音を聞きながらとりあえず食糧と水の確保に走ったほうが無難ね、とばかりに踵を返した。
 今更嘆いたところで現実は変わらない。今更驚いたところで事実はなくならない。
 胸中にあるのは慣れと諦めと怒りと不満と今後の展望で、恨み辛みも一生なくならないけど、それだけに感けていられるほど不幸に酔いしれる暇もない。
 なんたって異世界トリップ数回目。真理の付き合いも同じ数だけ。そりゃ慣れるでしょう色んなことに。そりゃ慣れなきゃ生けていけないでしょう異世界で。だから私は歩みを止めない。だから私を考えを止めない。
 目指すは帰還。探すのは愛しき世界へ戻る方法。求めるのは暖かな居場所。どこにいっても何をしたって、最終目標も目的も、ちぃっとも変わらない。それが私の在り方で、それが私の生きる意味。

「とりあえず、恐竜の肉って美味しいのかな」

 巨大トカゲなのかそれとも別の生き物か?とりあえず地球定義で「恐竜」だろうと思われる巨大生物を見上げながら、そういや私ここでどれだけ動けるのかしら?と首を捻った。
 まずは腕試し。そこが最初か、と拳を握った。セーラー服で巨大生物とバトルだなんて、ほんとシュールな展開ね!







 とりあえずお約束な感じで、ここは陸地は陸地でも孤島のようで、しかも原住民もいなさそうな無人島で、不思議危険凶暴な巨大生物が跋扈しているところで、とどのつまり私超孤立無援な状態なわけだ。
 おいおい、これじゃ情報も得られないじゃないか。ここがどういう世界でどういうところで現在地はどことか通貨はどんなのだとか、その他諸々色んなものが得られない。ちょっと絶望的だなおい!
 まぁ、とりあえず錬金術とか魔術とか小宇宙とかは特に問題なく使えたので、生きるのに困りはしないけど帰るのにはすごく困る。錬金術でこしらえたログハウス(素材は腐るほどありましたので)で、優雅にお茶(になりそうな植物を乾燥とか発酵とかさせて試行錯誤。割りとイケル)を啜りながら溜息を一つ。
 優雅に孤島生活してる場合じゃないんだよ。快適に生活環境整えてる場合じゃないんだよ。いや必要ではあったんだけど、しかしそれにしてもなぁ、と果物を齧る。
 真っ青な色の果物ってすげぇ不味そうだったんだけど、ほらそこは異世界。普通毒々しい色って毒ありじゃん?っていう常識を覆す美味しさだったので最近では抵抗なく食べてます。でも見た目がやっぱり嫌なので、皮は高確率で剥いてあります。面倒だとそのまま食べる時もあるけど、見た目えぐいよなあ。
 しゃくっと、林檎みたいな食感で果物を齧り、咀嚼するとごくりを嚥下する。甘い果汁と芳香が香る中、致し方ない、と椅子を引いて立ち上がった。

「船でも漂着しないかと思ったけど、そう都合よくはいかないしねぇ」

 あるいはどこかバカンスにきた人とかがこないかなぁとか(無人島だけど綺麗な砂浜とか入り江があったので、その気になればリゾート地でもいけるはずだ。ただ生き物がおっかない。・・・やっぱリゾートは無理か)淡い期待をしていたけれど、まぁそれも所詮「淡い期待」だ。つまり、限りなくありえないこと。物事がそう都合よく展開するはずもないので、いい加減腰をあげなければならないだろう。
 そもそもこの世界に「人間」と呼べる存在がいるのかどうかも疑わしいところだが・・・少なくとも言葉を交わせるだけの知能を持った生き物はいると思いたい。この際天使とか悪魔とか人じゃなくてもいいから、知能の高い生き物に会いたいわー。でないと元の世界に帰るきっかけも見つけられないじゃないか。

「まずはー船をこしらえてー食糧と水を準備してーあとは気ままに陸地を目指すっきゃないよねー」

 なにせ羅針盤も方角も地図も地理も、この世界のことなんてなんにも知らないのだ。気ままに当てもなく、ただただ流されるほか術はない。海のど真ん中で放浪とか死亡フラグ乱立だが、きっとなんとかなると思いたい。あくまで希望。しかし、希望に縋らなきゃ一生このままだ。それは勘弁願いたいので、結局は動くしかない。
 ただ生きたいだけならば、この島から出ようなんて思わない。このまま、もしかして人が来るかもしれない、という希望を抱いて過ごすだろう。けれど、私は違うのだ。ここでただ生きていたいのではない。死にたいわけじゃないけど、私の目標はあくまで帰る事。そのためには、無謀でもなんでも、動かないとどうにもならない。
 いつか来るかもしれない存在を待っていられるほど、私は強くはないのである。







 船を作ったところまではいい。材料はやっぱり腐るほどあるので、あとは知識と記憶を総動員させて船を練成すればいい。出来上がったのは大きくはないけど、それでも航海するのにはまぁなんとかなるんじゃね?というぐらいのそこそこ立派な船だ。
 あとは保存の利く食糧(燻製とか干物とか)と準備して、あと野菜とか果物も準備して、水は海水から精製できるので(反則技って便利ね!)まぁ問題なし。一折り準備ができて、さぁ出航か、と思った矢先に。

「・・・すげぇ出鼻挫かれた」

 水平線の向こうから、大きなお船がやってきた。えー今から出かけるところだったのに今更人間と接触フラグかよー。ちぃ、ならもう少し早くこいや、と舌打ちしている間に、見る見る内に近くなる船。
 大きい船だなぁ、帆が張ってあるって事は帆船ってことねぇ。この世界はエンジンとかそういうのはない世界なのかもしれないな。文明的にはそこまで開発が為されてない?はて、それともただの趣味か。船一隻からでも読み取れる情報、世界観を掴もうと思考をめぐらせる中、見えてきた帆船の、膨らんだ帆に着目する。・・・・・・・・・おぉ?

「まぁ、なんてファンタジー」

 ジョリー・ロジャーとか、いきなり危険な臭いがプンプンだ。白い帆の、ど真ん中に描かれた髑髏マーク。私の常識と知識がこの世界でも通じるというのなら、あれはつまり悪役が使うシンボルマークだ。
 海の上の髑髏マーク。それの意味するところは、地球で当てはめるのならば、すなわち、海賊を意味する。
 はて、この世界でもそれは通じるのかしら?そう思いながら、海岸に船を止め、碇を下ろした海賊船を見上げて私はどうしたものかなぁ、と首を捻った。
 海賊、ならば悪役。悪役ならば話合いなど問答無用、とばかりの展開になることも考えられる。わざわざ危険なものに近づく道理はない。このままあれを無視して当初の予定通り出航するのも一つの道だ。
 いやだがしかし。折角の情報源を無駄にするのは惜しい。とっても惜しい。できるならばやっぱりここがどういったところだとかどういった世界だとか知りたいし、久しぶりに人間とも会話したい。あわよくば地図とか羅針盤とかそういったものも貰いたいし、お金だって必要だ。
 あぁ、悩むわぁ!とりあえず、少なくともこの船を見られて島に人がいるかも、とは思われるだろうし、我が家を見つけられれば人間の存在は確定だ。海賊船が何故こんな無人島にきたのかは知らないが、さてもとにかく、情報収集が先である。

「さぁて、どうしようかなぁ」

 我が家で一服しながら、いっそ奇襲でもかけてあの船乗っ取ってやろうか、なんて。ちょっと面白そうとか思ってないんだからね!
 そうそれは、ドアがノックされる、ほんのう数時間前のこと。

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