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今日の空は大層鬼畜だ。潜り込んだ滑り台の下で、しとしとと降り注ぐ雨音を聞きながらため息を吐く。この公園にもっと雨宿りができるような形の遊具があればよかったのだが、あまり広くはない公園にある遊具などたかが知れていて、せいぜいブランコと滑り台、砂場にジャングルジムと木馬、ぐらいだろうか。滑り台にしても、もうちょっとこう凝った作りであればもっと雨宿りに適していたのだろうが、ありふれた形の滑り台は、下にこそわずかなスペースはあるものの、ゆっくりと落ち着けるようなそれではなく背もたれもない骨組みに腰掛けるぐらいしかできない。それもあまり後ろにのけぞっては早々に雨粒の餌食となるので、動けるスペースなど極僅かだ。
重ねるならば、ちょっとでも横風が吹けば容易く雨は吹き込むだろう。じんわりと浸食する水たまりに靴をぐちょぐちょに汚しながら、どうしたものか、とぼんやりと考えた。
雨の冷たさに体は冷える一方で、幸い空腹はピークをすぎたせいか何も感じない。まぁ一日二日抜いたところで死にはしないからそれはいいんだけど、寒いのはきついよなぁ。
適度に時間をつぶしたら交番でも探して保護を願おうかと思っていたのに、見知らぬ場所でははっきりとした交番の位置もわからず、その状態で雨の中動き回る勇気はなかった。これで交番が見つからなかったら確実に風邪フラグが立つところだ。今でも十分立っているが、まぁすぶ濡れでないだけマシとしよう。
ちょっぴり湿っているのは仕方ないこととして。それにしても母も、天気予報ぐらい確認して行動を起こしてほしいものだ。そうしたらまだマシだったものを・・そもそも真冬に放置というのが考え物だが。
もうちょっと贅沢を言うなら、暖かくなってからがよかった。贅沢をいうところが違う、といわれそうだけれども、高望みはしないのが懸命だと思うんだよね。
ざあざあと雨粒さえも見えない暗闇で、この雨で公園に残っていた雪も溶けるだろうか、とぼんやりと考える。雨が雪に変わればまだ動きようもあるのに、変わる気配のないそれにはぁ、とため息を吐いて手を組んだ。
手袋をしても冷えた指先がぐっと互いの手の甲に食い込んで、なんともいえない温度を伝える。
雨が止む様子はなくて、これはこの状態で一晩を明かすフラグなのか、と沈鬱な気持ちになった。・・・横になれるスペースも体を完全に預ける余裕もないこの状態で一晩とか。寝たら死ぬぞってことですねわかりたくありません。
つらつらとくだらないことを考えながら、しかし現状その辺の家にでも突撃かまさない限りは選択など無きに等しく、どうしたものかなぁ、と再度ため息を吐いた。よそ様に突撃するのは気が引ける。しかし、しなければ中々に最悪な現状では一晩を過ごすのはきつい。ある程度齢を重ねた体ならばまだしも、幼子の体で徹夜がちょっときつい、かもしれない。今が何時かもわからないし・・・多分深夜にはなってるかなぁとは思うんだ。家についてた明かりもすげぇ乏しくなったし。
暗いことに恐怖はない。それは慣れ親しんだものであるし、別に暗闇が私に対して牙を剥くことはないからだ。それに明かりに乏しいとはいっても、街灯にはぽつぽつと明かりはついているし、まったくの暗闇であるということはない。まぁ、雨のせいでいつもよりかは確かに暗いのだけれど。
「雨、かぁ・・・」
しとしと、ざあざあ。滑り台を叩く雨音や、重なるように絶え間なく聞こえる雨音に目を閉じる。うっかり寝てしまいそうだが、この不安定な体勢で本気で寝ることはないだろうから、少し休む気持ちで、雨音に耳を傾けた。
静かとは程遠い、雑音に溢れた世界。じんわりと斜めに降った雨が服を湿らせながら、正直今の状況では鬱陶しいことこの上ない雨だけれど、しかし先生は好きだったんだよなぁ、と思う。
別に濡れるのが好きだとか、そういうことではないと思う。雨の中動き回りたいとか、そういう思考ではなかったと思う。雨の何が好きだったのか、今でさえもわからないけれど、あるいはこの雑音が心地よかったのかもしれない、と思う。静寂によく似た、しかし五月蠅いほど聞こえる雨粒が地面にたたきつけられるこの音。
包み込むように世界を覆うそれらを、あの人は好んでいたのかもしれないし、もっと別の理由なのかもしれない。考えたってわかるはずもないことを考えて、閉じていた目をゆっくりと開ける。
映る世界は相変わらず暗闇で、時折遠くに照らされた糸を引くような雨の軌跡が見える。たったそれだけの寂しい世界で、唇を震わせた。
「・・・そして ぼうやは ねむりについた」
所々外れる音程は仕方ない。あまり細かく覚えていないし、そんなにたくさん聞いたわけではないからだ。
ただ時折、アレンが歌うのを聞いたことがあるぐらい。アレンのきれいな歌声が、寂しそうに紡ぐその子守歌を、とつとつとかすれるように紡いでいく。
そして ぼうやは ねむりについた
いきづく はいのなかの ほのお
ひとつ ふたつと
うかぶふくらみ いとしいよこがお
だいちにたるる いくせんの――――
「家に帰れって、言っただろうが」
「・・・っ」
不意に聞こえてきた飽きれたような声音に、びくりと肩を揺らして歌を止める。ひくついた喉で視線を巡らせれば、今日、一度だけみた黒いコートがまた視界に入って、手袋の下で拳を握った。
「お兄さん・・・?」
「ったく。迷子なら迷子って素直に言え。こんな夜中になるまでこんなところにいるとか・・・どんな意地っ張りだよ」
そういいながら、もうサングラスをする気はなかったのか、見えた素顔は眉間に皺を寄せたイケメンで、やっぱりまだ若かった、とどこか的外れなことを思う。いや、しかし、どうして彼が再び私の前に現れたのか。
あれっきり、もう見えるはずもないと思っていた、というかあれ以降頭の中にすらなかった存在に意表を突かれて目を丸くすると、お兄さんは切れ長の目で軽く私を睨んできた。いや、本人に睨んだつもりはないのかもしれないが、目つきがあまりよろしいとは言えないので、多少、迫力があるのは否めない。
反射的に肩をびくつかせた私に、お兄さんはあー、と低い声を出して頭を掻き毟り、少しだけ眉を下げると滑り台の下に背中を丸めて頭をいれ、ほら、と手を差し伸べてきた。黒い皮の手袋に包まれた大きな手が、目の前に差し出される。それが、あのときと重なって、どくん、と心臓がざわめいた。
「ぁ・・・」
「送ってやるから、こっちにこい。いつまでもんなとこにいたら風邪引くぞ」
「・・で、も、」
「まだ母ちゃん待ってるなんていうのか?もう十二時も過ぎるぞ。意地っ張りもそこまでにしとけ」
聞き分けのない子供に諭すように。優しい声音で、ほら、と再度主張するように手を伸ばされて、その大きな手を見つめて、持ち上がった手が、だけど、躊躇った。
なぜ躊躇ったのかはわからない。その人が見知らぬ人であったからかもしれないし、単純に他人に迷惑をかけることに気が引けたからかもしれない。あるいは、その手が、私の望む人のそれではなかったからかも、しれない。自分の中に明確な理由は存在せず、けれどとるのに躊躇している私に、お兄さんはため息を吐いて、出した手を引っ込めた。あ、と思わず声を出せば、代わりにポケットを探ったお兄さんは何かを取り出し、それを私に差し出す。きょとんとして首を傾げれば、お兄さんはこれでももっとけ、といって私にそれを渡した。
反射的に受け取ったそれは、黒い携帯電話で、ますます意味がわからなくて首を傾げる。・・・なぜに携帯を手渡す。あぁ、あれか。家に連絡しろとかそんな?いやでも、かけたところで繋がらんしな。
「あの・・・?」
「それをお前に預けておく。俺の個人情報とか色々入ってっから、何かあったらそれもって交番なりなんなり行けばいい。だから、ちょっとの間俺を信じてくれねぇか?」
「・・・・え」
そういって、少しだけ困ったように眉を八の字にしたお兄さんに、私は言葉をなくして携帯とお兄さんを見比べる。・・・え?
「あーっと、そうだな。名乗ってもなかったな。俺は日向龍也だ。嬢ちゃんは?」
「中村、透子、です」
「そうか、透子。俺を信じてくれるか?」
信じるもなにも、別に不審者だとか、変質者だとか、誘拐犯だとか、そういうことを考えていたわけではなくて、というかほぼ何も考えてなくて、ただどうしたらいいのかなって思っていただけで。
別に、お兄さんに対してどうこうっていうつもりはなかったのに、お兄さんは私の躊躇いを「見知らぬ他人についていくのは抵抗がある」と解釈したのだろうか。黒い携帯をぎゅっと握りながら、この人、なんてお人よしなの、と茫然とお兄さんを見つめた。確かに子供を見捨ててはおけないだろうが、だからといって携帯を預けるとか、どんだけ人がいいんだ。普通はこんなことやんないよ。じわじわと押し寄せてくるものにきゅっと唇を引き結んで、ひたすらに私の返事を待つ人に、むしろこれを無碍にすることがこの人に対してしちゃいけないことだよな、と私はお兄さんの差し伸べる手に、そっと自分の手を重ねた。
その瞬間の、安堵したかのように笑ったお兄さんは、正直イケメンすぎてときめくレベルだった。おぉう。久しぶりにイケメンみたせいか、なんか妙に照れるんですけど。
拾われました。まだ続きはあるけどどこまで書いたらいいのか・・・落ち着くまで書くべき?
しかし正直楽しい。先生かっこよす。ときめくわー!
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