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大きな手に引かれるまま乗り込んだ車の中は、冷え込む外とは裏腹に暖かな空気に満たされていて、冷え切った体にはありがたいことこの上なかった。ガチガチに固まっていた体の筋肉が解れていくような、凍えていた指先に血が再び巡っていくような、熱が戻ってくる感覚に無意識に手袋越しに両手をすり合わせると、私を助手席に座らせたまま何処かに消えていたお兄さんが、がちゃっと運転席のドアを開けて乗り込んできた。
雨に濡れた肩と丹精な横顔を無意識に見つめると、彼は運転席に乗り込んで、シートベルトを着ける前にほら、とこちらに向かって何かを差し出してきた。
「寒かっただろ。これでも飲んどけ」
「・・・ありがとう、ございます」
彼の大きな手では余る缶も、私で両手を使って包み込むように持たねば釣り合わない。手袋越しとはいえ、じんわりと伝わる暖かさに、これを買いに行ってくれていたのか、としばし席を外していた理由を悟り、きゅっと缶を握りしめた。
暖かいレモンティーの缶が、身に染みる。わざわざ飲み物買ってきてくれるとか。なんなのこの人もう本当いい人。
そしてありがたい。ぶっちゃけ暖房のきいた車内というだけでも長いこと寒空の下にいたわが身には天国にも等しい状況だが、この上飲み物まで恵んでもらえるとは。軽く泣きそうになりながら、手袋を外して直接缶の暖かさで手を温めつつ、プルタブに指をかけた。力をこめるものの、悴んだ指先は思うように動いてくれない。かち、かち、と何度か爪でひっかくような音をたててトライするものの、思いのほか堅いそれはうまく持ち上がらず、私は少しだけ眉を寄せると、しょうがない、と早々に諦めた。しばらくこれで手を温めて、満足に動くようになったらまたやろう。
ちょっと感覚が麻痺してて動かしづらいんだから、あったまれば問題ないはず。諦めて両手で包むように缶を握りしめているとするりと不意をつくようにそれが上から抜き取られた。手の中からなくなった暖かさに瞬き、慌てて振り返れば案の定、お兄さんが缶を握っていて、私から缶を取ったお兄さんは、無言でぷし、と音をたてて缶をあけて、再び私に差し出した。
「ほら」
「お、お手数おかけいたします・・・」
たかが缶ごときに人様の手を煩わせるとは・・・!いや、本当は開けれるんですよ。子供ですけど缶ぐらいあけれますし、ただちょっと今は手がかじかんでるからやりにくかっただけで、いやもう本当人様の手を煩わせるとか・・・!
あけてもらった缶を受け取りながら、普段簡単にできることなだけに、他人の手を煩わせたことが申し訳なくて、眉を下げるとお兄さんは眉を少し動かして、くしゃ、と頭を撫でててきた。
「ガキが遠慮すんな。ほら、冷めちまうぞ?」
「・・・ありがとうございます」
さっきから私ありがとうしか言ってない。そう思いつつ、湯気のみえる飲み口に誘われるままちびりと口を押し当てると、あったかい、というよりはむしろ熱い飲み物が口の中に入ってきて、ゆっくり飲んでよかった、と心の底から思った。これで勢いよく飲んだら確実に火傷するところだった。けれども口に含み、喉を通過する暖かさに無意識のうちに安堵の吐息を零すと、ハンドルに体重を預けてこちらをじぃ、とみていたお兄さんは、ふっと笑みを零して口を開いた。
「温まったか?」
「はい、すごく、あったかいです」
「そりゃよかった。さて、と・・・じゃぁ今から送るが、お前、家はどこだ?」
ちびちびと火傷しないように口に含みつつ柔らかな声にはて、この声聞き覚えがあるなとは思いつつも浸っていると、落とされた問いかけにぴくりと動きが止まった。
「ん?どうした?」
「いえ、なんでも」
怪訝な声に首を横にふって答えながら、ぐいっと缶を傾ける。家、か。・・・帰ったところでどうにもならない現状がつきつけられるだけだろうとは予想しつつも、現状それ以外に選択肢はないんだよな、と冷静に思考を巡らす。
まさか捨てられたんですとは言えないし、言われたところでお兄さんも困るだろうし、わざわざ送ってくれるという人にそんな面倒事に巻き込むわけにもいかない。警察連れてってくださいって言えばいいかなぁ、と思ったが、家に送ってくれる気満々の人に警察へ、というのもどうなんだ。いや問題はないか?別に。
てか本当、今の私の立場って・・・。コメントのしづらいわが身の境遇に遠い目をしつつ、まぁ、家まで送ってもらって別れた方が問題は少なくてすむか、と結論づけて、返事を待っているお兄さんを振り向いた。
「××町××番地〇〇アパートっていうところです」
「××町・・・おいおい。随分遠いな。どうやってそんなとこからここまでこれたんだ」
「気が付いたら・・・?」
と、答えるほかない。もはやお兄さんの中では迷子確定なのか、どこか感心したような疑うような、探る視線を貰いつつ素知らぬふりでレモンティーを口に含んで誤魔化しながら、ごくりと喉を鳴らした。酸味と甘みが絶妙です。美味しいなぁ・・・。
「・・・まぁ、いいが・・・。じゃあ行くぞ、シートベルトはしっかりしてろよ」
「あ、はい」
子供に追及しても仕方ないと思ったのか、理由よりも送るべきだと判断したのかわからないが、話題を切るとお兄さんは自分の体にシートベルトを巻き付け、私にもしっかりと注意を向けてから、ゆっくりと車を動かした。
ブルルン、とエンジン音のあとに動き出す車のフロントが水を弾く。ライトに照らされた道が昼間の様子と違うことを感じながら、ライトに照らされて見えた糸を引く水滴と、玉になってフロントガラスに張り付く水玉が、走る速度によってどんどん広がっていく様子をぼんやりと眺めて、明日には警察にでも自ら行くしかないかなぁ、と今後のことに思考を巡らした。うん。面倒だなぁ、本当。それでも、働き口さえ見つかるはずもない子供の身では、一人で生きていくことなど、できるはずもないのだ。
そんなことをぼんやりと考えながら、次第に落ちてくる瞼に、あ、これやばい、とぐっと目に力をこめた。車の暖房とか振動とか、今までの疲労とか。諸々が今きた。どっときた。やばい、眠い。寝そう。寝れる。むしろ寝たい。
うとうとと落ちてくる瞼と飛びそうになる意識を必死に繋ぎ止めていると、横からくくっと小さな笑い声が聞こえて、とろんとした目で横をみた。運転をしながら、ちらりと横目でこっちを見たっぽいお兄さんはその低く心地の良い声を響かせた。
「眠いんなら寝てていいぜ?ガキにはつらい時間だもんな」
「でも・・・」
「俺は気にしねぇからよ」
これでも中身成人してる、とは無駄な反論である。実際すごく眠いので、襲いかかる睡魔に抗いつつも、低い声で寝てろ、と言われたら、抗う気持ちすら根こそぎ奪われていく心地がした。うわぁ、なにその安眠ボイス・・・。
とろりと沈んでいく意識に、見知らぬ他人の車のなのに、とか、わざわざ送ってもらってるのに、とか、そんなことを考えながら、いつの間にか、ぷつりと意識はそこで途切れてしまった。
車の中って、なんでこうも眠気を誘うのでしょうか・・・。
今回のお話の個人的ポイント。
・助手席
・日向先生に缶ジュースの蓋をあけてもらう。
・魅惑の安眠ボイス。
以上でした!あと車の中って眠くなるよね。暖かいと余計に眠いよね。
ちっちゃい萌えばっかりちりばめていて申し訳ない。てか個人的趣味すぎて申し訳ない。日向先生の車の助手席に座れるってすごい幸せな気がする。てか先生の車って、なんだろうな・・・。私車よくわからないので言葉にできないよ!
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