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このにーさん、金持ちか。いや、金持ちに違いない。通された部屋で、お兄さんが慌ただしく部屋の暖房をつけていく中、非常に肩身の狭い思いでふっかふかの皮のソファの端っこに座って私は顔を青ざめさせた。・・・正直ソファは皮よりも布製のものの方が好きだったりするが、まぁどうでもいい。これも年数は感じるがなんか物自体はよさげだよな、としげしげと値踏みをしつつ、あの人何者、とコートを脱いでさらにはジャケットも脱ぎ、白いワイシャツにネクタイを緩めたパッと見サラリーマンに見えなくもない恰好のお兄さんを盗み見て、いぶかしげに眉を潜めた。普通のサラリーマンと違うのは、お兄さんが無駄にイケメンで尚且つシャツの上からでもわかる鍛えられた体と、何より纏う空気が一般的な会社員とは一線を隔しているような気がするからだ。あくまで気がするだけで実は会社マンかもしれない。あれか、エリート系か。キャリア組ってやつか!
そもそも私の住んでいたアパートと比べることがどうだろうか、という問題ではあるが、それにしたってこのマンションはあれだ。外観、内装ともになんか高級感溢れている。ここに入るだけでなんかホールにコンシェルジュ?だっけ?みたいな人がいたし、セキュリティはなんかすごそうだったし、ごめんあまりにも馴染みがなさすぎてあれなんだが、とりあえず住む世界が精神的にも物理的にも違う、と思う。
そんな住む世界が違うと言わしめた場所を、お兄さんは慣れた様子で(住んでるんだから当然か)行動し、部屋中の、というかリビング?の暖房をつけたあと、大人しくしてろよ、と一言言い残して再び何処かに消えた。
ふふ、こんなところで動き回れるわけねぇだろ、とやっぱりびくびくしながら(庶民と貧乏根性は健在です)ちらちらと部屋を観察する。・・・とりあえずでかいテレビに興味が引かれつつも、そういえばテレビなんぞこの世界でみたことねぇなぁ、とぼんやりと何も移していない真っ黒な画面に映る自分を見つめてため息を零した。
この世界ではどんな番組をしているのだろう。新聞すらもとっていなかったので、番組内容も私が知ることはなく、液晶画面の向こう側の世界がどんなものなのか、興味と関心がわいたが他人様の自宅で勝手にテレビをつけるわけにはいかない。諦めて視線を再び部屋の周囲に巡らせるとがちゃりと音をたててドアが開いた。びくっと反射的に肩を揺らして振り向けば、お盆を片手に持ったお兄さんがいて、私はきょとりと目を瞬かせた。何持ってきたんだろう、この人。
「なんだ、そんな端っこに座って。もっと真ん中に座りゃぁいいのに」
「・・・すみません」
「怒っちゃいねぇよ。ほら、腹減っただろ。・・とはいっても、大したもんじゃねぇけどな」
「ぅえ?」
ソファの端で縮こまるようにして座る私をくすっと笑いながら、お兄さんはソファの前のローテーブルにお盆をおいて、子供の手にはちょっとばかり大きすぎる割り箸を差し出した。
それを受け取りつつ、テーブルに置かれたものを見て、私は割り箸を持ったまま困惑したように眉を下げた。
テーブルの上にはインスタントラーメンが置かれていて、ぴっちりと蓋こそされているものの、空腹には辛い香りをさせて食欲を誘う。ピークを過ぎたとはいえ、目の前に食べ物を見せられれば反応するのは当たり前で、多分口にいれれば止まらなくなるんだろうな、ということは容易に察しながらも、どさ、と私の隣に座ったお兄さんを見上げた。
お兄さんが座った反動でぎしぎしとスプリングが跳ねて私の体も揺れたが、お兄さんは気にもしないで笑みを口元に浮かべる。
「悪いな、こんなもんで。今冷蔵庫に碌なもんがなくてな。それにすぐできるものっていったらこんなもんしか思いつかなかったんだよ」
「いえ、それは、いいんですけど・・・」
「なんだ?このメーカーのは嫌いだったか?」
「そんなことはないです。えっと、・・・頂きます」
食べてもいいのだろうか、という躊躇だったのだが、お兄さんは明らかに私に食べさせる目的でこのカップ麺を用意したらしい。お兄さんの分はないのだろうか、と思ったが、一つしか用意されていないところ、食べる気はない、のだろう。自分一人だけ食べることにいささかの抵抗は覚えたものの、早く食わないと伸びるぞ、と急かされてはいつまでも躊躇しているわけにはいかない。お腹も減っていることだし、ここは素直に好意に甘えておくべきだろう。
おずおずと手を合わせて頂きます、と小声で言ってから、憎たらしいほどに小さな手で大きな発砲スチロールの器を支えて蓋をぺりぺりと剥がす。途端むわっと沸き立つ湯気に美味しそうなチキンスープの香りが鼻腔を刺激して、ぐぅ、とお腹の音が鳴った。・・・・・・・・・・・・・・鳴るなよ・・・!幼子としては正常な反応でも中身は成人越えのいい歳した人間だ。普通に腹の虫の声など聴かれたくはない。いさささかの気まずさでちら、とお兄さんを横目でみれば、どうしたことか。面白いのを堪えるような、ただただ微笑ましいような、どえらい穏やかな目でこちらを見ていたので、逆にいたたまれなくなって急いで視線を外した。なにあの保護者の目・・・!
暖かな視線にここ最近馴染みがなかったので微妙に緊張しながら、器ごしにも熱いカップ麺を少し動かしづらい大きな割り箸で食べていく。ちょっと時間を置きすぎたのか麺は確かに多少伸びていたが、問題ない。
ずるずるとすすりながら急にあったかいものを食べたので出てくる鼻水をずずっと吸い込んで、染みわたるようなスープの暖かさと空腹を満たす醤油の味にほう、と人心地ついた。カップ麺うめぇ。
空腹は最高の調味料とはいうが、確かに、お腹が減っていれはただのカップ麺も極上の味に思える。まぁ通常でもこのカップ麺は普通に美味しいと思うが。それでも満たされる感覚は何物にも代えがたく、ずるずると麺とスープをすすって着実に胃袋を満たして体の中から温めていく。
インスタントも久しぶりだよなぁ、と思いながらごくごく、とスープを飲み干して、私は割り箸とカップ麺の容器をテーブルにおいた。
「ごちそうさまでした」
「おう。お粗末さん」
美味しかった。ぷはぁ、と満足の息を吐きだして満たされた胃袋に満足していると、お兄さんはくつくつと笑いながら、お盆をもってカップ麺を片づけようとするので、はっと気が付いて慌てて両手を差し出した。
「片づけるぐらいは自分でします!」
「あぁ?あー・・気にすんな。それよりもお前は風呂入ってこい。そろそろ湯も入ったころだろうからよ」
「お風呂?・・いやいや!私よりもお兄さんが先に入るべきですよ!」
ぽん、と頭に手が置かれてゆっくりしてこいよ、なんていうお兄さんに言うことには心惹かれるものがあったが、部屋の主を差し置いて先に入浴とかできるわけがない。そもそもお風呂に入っていいんだろうか。いや、入れるものならば入りたいですけど、しかし他人様の家なわけだし・・!てかこれはあれか。確実にお泊りコースなわけ?ありがたいですけど!
眉間に皺を寄せて躊躇する私に、お兄さんは少しだけ考えるような素振りをみせて、あぁ、と納得したように頷いた。
「一人じゃ入れねぇのか?一緒に入ってやろうか」
「一人で入らせていただきます」
ちょ、おま!確かに私今お子様ですけど!年齢的に親と一緒に入っててもなんら不思議のない年頃ですけど!だからといって一緒になんて入れるわけがない!何度も言うが(内心だけで)、私の中身は外見年齢を大幅に裏切ってるんだってば!即答で拒否すると、その早さにお兄さんはちょっと驚いたような顔をしつつも、そうか、といって再び頭をポンポンと叩いた。・・・子供扱いって、びみょーな気分になるよね・・・。
至極複雑な心境で、半ば売り言葉に買い言葉の勢いで入浴することに決まってしまったが、やっぱり内心ではいいのかなぁ?と首を傾げざるを得ない。大黒柱差し置いて見知らぬ子供が風呂入っていいのか?まぁ本人がいいっていってんだからいいんだろうけど、でもなぁ。しかしなぁ。それになぁ。
「・・・私、着替えとか持ってないです」
「あーそうだなぁ。・・まぁそこはなんとかするから、餓鬼は気にせず温まってこい。雨にも濡れてたんだから、早く温まらないと風邪引いちまうぞ」
「でも・・・」
「なんだ。やっぱり一緒に入りたいのか?」
「いや違いますけどね。・・・・わかりました。お先に入らせていただきます」
・・・・まぁ多少、イケメンの裸体!と思わないでもないけれども同時に自分の体(幼児体型とはいえ)を見せるわけにはいかない。というか見せたくない。気おくれしながらも、私諦めのため息を吐いてお兄さんを見上げた。
背の高いお兄さんを見上げるのは骨だが、これだけは聞かなくてはいけない。
「お風呂場って、どこでしょうか?」
そこ知らなきゃ入りようがないですよ、お兄さん。
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