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「希う」

 俺は、いつもあなたのその小さな背中ばかりを見ている気がするのです。
 ねぇ主。そんな小さな背中で、一体何を守ろうとするのですか?
 ねぇ主。そんな頼りのない華奢な体で、一体何が守れるというのですか?
 ねぇどうして俺は、いつもあなたの背中ばかり、見送らなくてはならないのですか。
 俺はあなたのサーヴァントではないのですか。あなたを守る槍ではないのですか。あなたの騎士ではないのですか。守ってねと言っていたではないですか。私がいなくてはならないと言っていたじゃないですか。命を、預けてくれると、言ってくれたじゃ、ないですか。なのに、あぁ、どうしてですか主。どうしてあなたは、いつも、いつもいつもいつも。

「主!!」

 不可視の壁に叩きつけた拳が痛みを帯びる。じんと痺れるような痛覚で、けれどその先に手を伸ばすことは叶わない。例えば後ろで驚いたような気配があったとしても。戸惑いの視線が向けられていたのだとしても。それに答える暇があるのなら、今目の前に立ち塞がる小さな背中に手を伸ばしたかった。
 なのに、まるで我々を庇うように包む大きな不可視の結界は、その先を堅く拒むように俺と主を隔てるばかり。溢れた泥が、主の小さな体を飲み込む様を、ただ見ていろとばかりに、押しとどめるばかりで。

「主、主、主、主!!!」

 殴りつけたところでこの壁は破れないのだろう。ともすれば声すらも遮っているのかもしれない。それは少女が作りだした、守るばかりの優しく残酷な壁なのだから。振り返りはしない小さな背中は、いつかを思い出させて絶望が胸に飛来する。あぁ、主。どうして。

「主ぃ・・・!」

 小さな背中を守る権利が欲しかった。最期まで共にいさせてくれる弱さが欲しかった。その華奢な体を、この背に庇う強さが欲しかった。例えこの世界で、あなたがマスターではなかったのだとしても。あなたを守れる、その全てが欲しかった。喉が裂けるぐらいにあなたを呼んで。こちらに留まって縋りついて。いっそ、最期まで振り向かないでくれれば、俺はただ嘆くばかりでいられたのに。
 振り返ったあなたが僅かばかり目を見張る。それから少しだけ、困ったように微笑んで。懐かしむように瞳を細めたりなんかするから。
 あなたは、最初から全てを知っていたのだとわかってしまったから、尚のこと。

「――――っ!!!」

 白い光が目を焼いた。神々しいばかりに荘厳な龍が空を昇る。誰もが言葉を失くす中、崩れ折れるように膝をついた。小さな背中はもうそこにはない。龍が全てを持って行ってしまった。泥と一緒に、無力だったはずの少女を奪って空を翔けた。



 俺の忠義は形ばかりだと謗られた。お前の忠義とはなんなのだと問い詰められた。
 当たり前だ。俺の忠義は今生のマスターになど存在しなかった。形ばかりだなどと当然のことだったのだ。知らなかったのは英霊であるが故。気づかなかったのは異なる世界線だったから?
 ならば、俺はマスターに請おうか。その手に持つ契約の証の一画を欲しようか。泥がなくなろうとも留まるこの世全ての悪のために、この聖杯が使い物にならないのだというのなら。
 この記憶を持って、座に戻ろうか。いつか再び、この時空に呼ばれたときに。
 今度こそ、あなたを守りきるために。


 

例えば色んな時空で結局最期がこうであったとき。彼に記憶がログインしたら、こうなるのかな。
てか成り代わり編で座に戻った時を書こうと思ったのに↓のすいーつ()ネタを考えてたらこうなったよ。

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