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生温い風が頬を撫でる。蒸し暑く、湿った空気が午前中の熱気により温められ、不快感を覚えるほどの湿気を含んで撫でていくのだ。しかし、不快なのはそんな温さや湿気のせいだけではない。
もっと根本的に、その空気は「気味が悪い」のだ。淀んだ陰湿な気配を多分に含ませて、ぞわぞわと背筋を這い上がるようなねっとりとした空気に、眉宇を潜めて顔をあげる。―――何か、よくないものがきている。しかも、結構性質が悪い系の。
目を細め、その気配の発生源を見やり――眉間の皺を深めた。
「おいおい、なにやってんの・・・」
さて、スルーしちゃっていいものか。
■
・・・とはいったものの、それが知らぬ相手ならばいざ知らず、多少なりとも関わりのある人間が相手となれば見捨てるわけにもいかない。まさか明日教室にいって生徒が一人減ってたとか洒落にもならんし。寝覚め悪すぎるってーの。取り越し苦労ならいいのだが、と思いながら発生源――自転車競技部の部室の前までやってくると、周囲を取り巻く陰湿な気配に、あ、これ本格的にヤバイわ、とぺしり、と額を叩いた。何をやらかしてこんなやばげなもの呼び寄せたのかは知らないが、本物呼んじゃうとかマジ勘弁。元々学校ってそういうもんだけどさー。
あぁ、嫌だなぁ。これ下手に充てられると私ぶっ倒れるんだけど、と思いつつペットボトルのキャップをあけてから、部室のドアに手をかけた。がちゃり。ノブを回して、ぎぃ、と蝶番の音をたててドアを引く。
そして、一気に押し寄せる陰気な空気をびしばし顔面といわず全身に浴びながら、私は振りかぶるようにしてペットボトルの中身を盛大にぶちまけた。無論、「対象物」に向かって、だ。
500mlの中身の半分ぐらいをかぶった「それ」は、ヒギィイィィィィイと形容しがたい悲鳴をあげて悶絶するように艶のない金髪を振り乱してのたうち回る。
しゅうしゅうと被ったところから湯気が立っているので、結構効果はあったらしい。ただの水なんですけどね、これ。一応力は込めておきましたけど、そこらの水道水なんですよこれ。いやん私ホント昔に戻りたい。
「え、あ、な、中村さん・・・!?」
「やぁ、泉田君。お疲れ様」
顔面蒼白にしながら、引き攣った顔で目を丸くしてこちらを振り返ったクラスメイトに、場の雰囲気にあっていないと自覚しながらも気の抜けた返事を返す。ついでに片手をあげながら、こいこい、と手招きをした。
「なんだ!?どういうことなのだこれは?!」
「泉田ぁ!!どうなってやがんだァ!?」
最早パニック状態です、と言わんばかりの錯乱した状態で怒鳴り散らす見知らぬ先輩二人。まぁ部室の中には他にも数名いるのだが、その数名はもはや声も出せないぐらいにびびっているので、存外彼らは余裕があるのかもしれない。でもとりあえずそんなこたぁいいのでこっちきなさい。
未だ動けもせずただただ目を見開くばかりの泉田君にため息を吐いて、腕を掴んでこっち側に引き寄せる。ついでにその横にいた黒田君もひっつかんで引っ張りこんだ。体格差があるとはいえ、構えてもいない体を引き寄せるのは容易く、うわっと声をあげてよろけた彼らを背中に庇い、その近くにいた先輩に視線をやった。
「助かりたいなら私の後ろにきてください。そこで騒いでる人たちも含めて」
「おめさん、一体・・・?」
「詮索無用。早く!」
そろそろあれも復活しそうなんで早くきてくれませんかね?!悠長に問答してる場合じゃないんですよマジで!!眉をキッと吊り上げて言えば、彼も状況が状況だからか、余計な口を閉じてぎゃあぎゃあと叫ぶ二人と固まりきっている一人を乱暴に押しやって、私の近くに駆け寄ってくる。そして全員がこっち側にきたのを見越して、私は半分残っていた水を足元に、線を引くようにしてまいていく。そうすると、髪を振り乱してぼざぼさにした、ぎょろりと大きな青い目をしたフランス人形が、こちらに飛びかかろうとしてしかし近づけずに足踏みをした。まるで、水の線が壁になっているかのように、こちらに近寄って来れないのだ。その光景をみて、背後でごくりと誰かが唾を飲み込んだ。
「・・・・とりあえず、逃げようか?」
「なんとかすんじゃねぇのかよ!?」
いや、正直人前であんまりやりたくないっていうか。なんていうか。目が細くて目つきも悪い、ぶっちゃけ「あれヤンキー?」みたいな先輩に怒鳴られて、私は首をすくめて苦笑いを零した。・・・やっぱり、どうにかしなくちゃダメ、ですよねー。
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