忍者ブログ

斜め45度ぐらいで。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「弱ペダネタ1」

 この年齢を迎えるのは何度目だろう、と机の上に置いた小さな三面鏡を前に制服のリボンの歪みを直しながらふと考える。思えばこの年齢に到達する前になんらかの事情で死んでしまうこともあったので、存外に数は少ないかもしれない。最高で何歳だったかな、と過去を思い返すも、苦々しい気持ちになったので思考を止めた。自分の死んだ年を思い返すとか悪趣味極まりない。そもそも思い返す記憶があるのがあれだとかいう根本的問題はすでに何百回と繰り返しているので今更か。ネガティブにはなってもポジティブには到底なれそうもない、と思いながらハンガーにかかっているブレザーを手に取り袖を通した。ストライプの入った青いブレザーの前をとめて、机の横にかけてある学生鞄を手に取る。ほぼ鞄の重量分ぐらいしかないような(つまり鞄そのものがそこそこ重い)それを持ち上げると、隙間がありまくる内部で恐らくペンケースだろうものががさがさと揺れる音がした。





 学校の入学式などどこも似たようなものである。保護者と在校生の真ん中を左胸にコサージュをつけた状態で歩いて着席。ステージ上の演説台で生徒やら校長やらの話をきいて、そそくさと退場して教室に向かう。退屈といえば退屈だし新鮮といえば新鮮。初めての場所というのは人も建物も環境も何もかもが目新しい。けれども入学式という行事も高校という学校も数回繰り返せばもうイイヨ、と匙を投げたくなる。よく青春をもう一度、とはいうがぶっちゃけそれそこそこ人生を全うした人が言える言葉だよね。入学式が終わりある意味自分のテリトリーともいえる教室に戻ってから、すでにいくつかのグループができている光景をやや後ろの方から眺め、行動が早いなぁ、と関心した。元々知り合いだったのかそれとも社交的な人種だったのか。どれかはわからないが早々にぺちゃくちゃと会話を楽しんでいるのは純粋にすごいと思う。
 人生経験はあれどそこまで積極的に関わろうとはしない、コミュ障とまではいかずともそこそこ人見知りをする、というまぁ別に目立つこともない自分の性格を考えながら、でもとりあえず近くの誰かにでも声をかけてみようか、と視線を横に流した。趣味趣向の合う相手というのはおのずと発見できるものなので、実を言うとそこまで心配していない。いや、同類ってなんとなくわかるよね。うん。さておき流した視線の先は男子生徒だったので、あ、これはないな、と即座に跳ねた。跳ねた、が、なんとなく観察するように男子生徒を眺めやる。坊主頭?野球少年なのだろうか。あれ、でもこの学校野球部あったっけ?・・・まぁ運動部とはほぼ関わることはなさそうなのでそこまで重要視することもないか。
 それにしもて首が結構太いな、鍛えているのだろうか。制服の上から骨格がわかるほど精通はしていないが、それでもなんとなくブレザーの下の大胸筋あたりが盛り上がっているように見えるので、結構マッチョ系とみた。腹筋割れてる系男子か。そんなことを考えていると、こちらの視線を感じたのか、不意に男子生徒がこちらを振り向く。向かい合って目があった瞬間、睫毛長!!と思った私に、その男子生徒は首を僅かに傾げた。

「・・・えっと、何?」
「え、あ、・・・別に、なんでも」

 ・・・・・・・・・・・・コミュ力低い!!いやでも初対面同士なのだから別に可笑しくはないはずだ。加えて性別の違いというものが余計に会話を難しくしていると思ったが、これも何かの縁だろう、と少し居住まいを正して口元に笑みを浮かべた。

「えーと、中村透子です。〇〇中学校からきました。どうぞよろしく」

 挨拶は対人関係の基本とばかりに話しかければ、一瞬目を丸くした男子生徒は戸惑ったように視線を泳がせて、それからはにかむように口元をほころばせた。

「泉田塔一郎、です。えーと、出身校は××中学校で、趣味はロード。よろしく」
「ロード?」
「ロードバイク。知らないかな?自転車なんだけど」
「ごめん、よく知らないな。どんな自転車?」

 うむ。好青年。律儀に丁寧に返した上にちゃんと次の会話内容もふってくる彼に、話しかけやすそうな男子生徒だなぁと思いつつ首を捻った。自転車などママチャリとかマウンテンバイクとかなんかそんなのしか知らないよ。まぁしかし趣味が自転車とはなんと健康的且つ爽やかな青年なんだ。きっと部活動に汗水たらして打ち込む素晴らしい青春を送ることだろう。無縁の世界だわーなんて思っている私に、男子生徒・・・泉田君はえーとね、といいながら鞄から携帯をだして何事かを操作していた。しかしガラケーか。今時の子はスマフォかと思っていたがガラケーの子もいるんだね。

「こういうの。カッコいいだろ?」
「あぁ、なんか見たことあるある。というか今朝も見た気がする」

 なんか集団が乗っているのを。そうかこれがロードバイクなるものなのか。へぇ、と相槌を打てば、あぁそれは自転車競技部だね、と泉田君はにこりと笑いながら携帯をしまった。

「自転車競技部・・あぁ、インハイで優勝したっていう」
「そう!この学校の自転車競技部は強豪校として有名で、すごく強くて速いんだ。ここに入るために入学する生徒もいるぐらいで」
「・・・泉田君もそこに入部予定?」
「あ、わかる?」
「わかるよ。熱の入りようが、ね」

 これでわからなかったらそりゃど天然かよほど察しが悪いかだよ。そんな話をしていれば、どこからかこの会話を聞いていたのは別の男子生徒が「何?お前も自転車部入るの?」などと泉田君に話しかけてきたので、そこで私と泉田君の会話は終了。ロードバイクの話で盛り上がり始める彼らを横目で見てから、私は教師がくるまでの間の次の話し相手を物色し始めた。とりあえず最初の出だしは自己紹介からで大体大丈夫そうだな。そして後ろを向いて目があった女の子に、にっこりと笑いかけたのだった。





PR

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]