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「暗闇に転じる」

「透子ちゃん」

 部屋でパラパラ絵巻物を眺めていると、入り口の方から快活な声で呼びかけられて顔をあげる。部屋と廊下の境界線で、逆光になりながらもにっこりと満面の笑みを浮かべている望美ちゃんに私はつられるようにして笑みを浮かべた。

「望美ちゃん?どしたの」
「うん、あのね。ちょっと一緒に出かけない?」
「今から?」

 小首を傾げて、躊躇いがちに。そう問いかける望美ちゃんに目を丸くして、逡巡するように彼女から視線を外に向けた。太陽はもう中天を過ぎて大分傾き、そろそろ夕暮れ時も近づいてくるような時間帯だ。あまり出かけるような時間帯ではないだろう、怪訝に見やれば、望美ちゃんは部屋の外でパン、と手を合わせて懇願した。

「お願い、どうしても透子ちゃんと一緒に行きたいところがあるの」
「んー・・・まぁ、いいけど・・・」

 夕飯までに帰れば問題はないだろうし、彼女もそこら辺のことはわかっているだろう。頑なに断るのもなんなので、多少気が乗らないながらも了承すると、望美ちゃんはパァ、と表情を明るくさせてよかった、と安堵に胸を撫で下ろした。私はその様子を見ながら絵巻物をくるくると巻いて元の状態に戻し、机の上に置いてからすくっと立ち上がる。ぱたぱたと張り付くスカートを叩いてから、てくてくと望美ちゃんの傍までいくと彼女は笑顔で私の手を掴んだ。

 ぞくり。

「・・・っ」
「透子ちゃん?」

 体中に、鳥肌が立ったような気がした。不思議そうに顔を覗きこむ望美ちゃんの顔を、反射的に凝視しながら、つぅ、と繋がれた手を見下ろしてごくりと喉を鳴らした。・・・なに、今の。

「どうしたの?」
「なんでもないよ。えぇと、どこに行くの?」

 背筋に走った悪寒のようなもの。一瞬で緊張した筋肉に、心臓が嫌な音をたてる。なに、この、感じ。言葉で言い表せない不安感に視線をきょどきょどさせると、望美ちゃんの心配そうな顔が映って咄嗟に首を横に振った。私の下手な誤魔化しも、あえてそれに突っ込まないことを選んでくれたのか彼女はそっか、と微笑んでぐいっと私の手を引っ張った。正直、ありがたかった。ここで突っ込まれようものなら、なんと誤魔化せばいいのか苦労したことだろうから。
 だって、なんというのだ。こんな、こんなこと。手を握られた瞬間。

 彼女を、気持ち悪いと思っただなんて。

 失礼すぎる、と望美ちゃんに手を引かれながら首を小さく横に振って溜息を零した。気持ち悪いって、かなり最低な暴言だと思う。でも、あの時感じたものは、なんだか、本当に、気持ちが悪かったのだ。今は全然そんなことないのに。変なの、と思いながら、何時の間にか邸から外へと出ていて、私はあれ?と首をかしげた。

「・・・皆は一緒に行かないの?」
「皆が一緒の方がいいの?」
「え?いや、そういうわけじゃないけど・・・」

 でも、あんまり二人っきりで行動することはなかったように思う。振り返った望美ちゃんの透き通った翡翠色の双眸に若干怯みながら、言葉を濁しつついいのかなぁ・・・?と首を捻った。
 いや、別に二人で出歩くのが嫌ってわけではないんだよ。むしろ女子同士として思う存分エンジョイしたいと思ってるんだよ。でも、ただ、そう、ただ、彼らに何も言わず、何も告げず、会いもせず。こうして二人で外に出るなんて、なかったから。何かしら、彼らはついてきていたものだから。
 なにしろ彼女は神子様で、彼らは八葉で。護衛の意味もあって、基本的に出歩くときは誰かしらついてくるのが通説だったから。だから、今、この時間帯で。どことも告げぬまま、歩いていく彼女と共にいるのは、なんだか、ひどく違和感を感じた。・・・違和感、だった。
 それがどんな違和なのか、わからないまま、私は引っ張られるように彼女についていき、そういえば、嫌に歩くスピードが早いと思った。いささか小走りになってしまい、咄嗟に望美ちゃんにもっとゆっくり、と声をかけたが彼女は急がなくちゃいけないの!というだけでスピードは緩めてくれなかった。
 ・・・そんな急がなくちゃいけない場所なのか?指定時間のある場所なのだろうか。それとも単純に急がないと夕飯に間に合わない距離なのかも。あぁ、それなら納得。そう思いながら、見慣れない場所をひたすら彼女について歩く。何時の間にか放されていた手は横でゆれ、彼女の背中を見ながらひたすらについて歩き、やがて辿り着いた場所は、どこかの河川敷だった。
 五条・・・?いや、違うか。橋ないし。普通の河川敷に、沈みかけた夕陽が赤々と燃えて、河の色を真っ赤に染め替えていた。きらきらと反射する様も美しい。ほう、と思わず吐息を零しながら私は彼女を振り返った。

「望美ちゃんが見せたかったのって、これ?」
「うん。綺麗でしょ?河の色が真っ赤に染まって」
「確かに、真っ赤だね。すごい綺麗」

 彼女が急いでいた理由はこれか。なるほど、確かに時間指定のある絶景ポイントというわけですな。空も川も家も全部赤に染めている光景は感嘆しか浮かばず、見惚れるようにじりじりとその色をなくしていくその刹那まで、食い入るように鮮やかな夕暮れを見つめた。

「・・・・こんなに綺麗なら、皆も連れてくればよかったのに」

 それとも、皆は見たことがあって、私だけが見たことなかったのかな?だから、私だけ連れてきたのだろうか。思わずぽつりと呟いた言葉に、望美ちゃんは肩を揺らして、それからそうだね、と小さく頷いた。

「今度は、他の皆を連れてくるよ」
「それがいいよ。・・・じゃぁ、そろそろ帰ろうか?」

 夕陽もベストタイムは過ぎたのだろう。最初にみたときほど赤くはならない周囲に、徐々に闇の帳が落ちてきている。変える頃には真っ暗になっていそうだなぁ、と思いながら彼女を振り返ると、私は口元に浮かべていた笑みを消して、ひゅっと息を呑んだ。

「ねぇ、透子ちゃん。知ってる?」
「・・・何を?」

 ぞわぞわと、何かが背筋を這い回る感覚がする。可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい。なんで彼女を見ると背筋の震えが止まらないのだろう。なんで彼女の声を聞くと逃げ出したくなるのだろう。なんで、こんなにも、彼女を、怖い、と。

「こういう時間って、黄昏時っていうんだって」
「あ、うん。そうなんだ」
「別の呼び方だとー・・・あれ?なんだっけ?」
「・・・・逢魔時?」
「あ、そんな呼び方もあるんだー。透子ちゃん博識!」

 いや、一般常識とまでは言わないけど割と知られてることじゃなかろうか。にこ、と彼女が笑う。すごいすごいとはしゃいだ声で、彼女が、・・・・・・・・・彼女、が?

「でもねぇ、私が聞いたのはそれじゃないんだ」
「・・・・」
「誰彼って、いうんだって」
「・・・たそ、かれ?」
「そう。そこにいる彼は誰だろう。良く分からないって、そういう、明かりの乏しい時間」

 誰彼の時間。濁ることのない音で、紡がれる言葉。
 そこにいる人は誰だろう。顔が見えなくて、首を傾げる。すぐ近くにいるのに、その人の顔すらおぼろげになってしまうような。誰が、誰か、わからなくなるような、そんな、昼と、夜の合間の。
 すぐ、隣の人の、顔、さえも。

「ね、透子ちゃんは、私の顔、見えてる?」

 微笑んでいるのだろう、顔は。けれど、何故だろう。口元しか、見えなくて。釣りあがった口角が、嫌に赤く毒々しくて。わからない、と、口にしかけて、ふと、後ろを振り返った。


 暗転。




 

下の続き。某漫画も引用しつつなお話になったよ!別に術使ったわけじゃないけどね!
漫画って為になるね!雑学に近いけどね!この続きは考えてないからこれで終わりだよ!後味悪いね!


 

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