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「言霊返し」

「いいじゃない、名前ぐらい国広にあげなさいよ」
 あの子だって山姥切だし、この本丸ではあの子が山姥切なんだから。後から来たんだし、本科でしょ?持てるものは与えるべきなんでしょ。今まで写しのことで悩んで苦しんできた国広のために、あなたの写しのために、名前ぐらい譲ってあげてよ。事も投げに、何故そんなことに拘るのか理解できないという顔で。たかが名前で、と呆れさえして、それだけのために長く揉め事を起こす気はないと。今は戦争中で、歴史のために戦っていて、だから内輪の些細なことにいつまでも拘っている暇はない。だからさっさと譲ってしまえ、と、審神者は言う。人の子は言う。名前なんて小さなことで煩わせないで、と。真贋問題は根本的なことだからしょうがないけど、名前なんて、別にどっちが持っていたって変わらないでしょ、と溜息を吐いて自分にとって思い入れがない物に対して妥協しろと、強要してくる。
 周りの目も知らず。心も知らず。言葉も聞かず。いや一部。一部はその言葉に同意しているのだろうか。恐らく、審神者の霊力と親和性が高かったのだろう。侵されて、付喪神のなんたるかを見失ってしまった哀れな同胞。人に近づきすぎてしまった、寄り添いすぎてしまった愚かな同胞。

なんて、無様な。

 
我らは人ではないのに。あくまで人とは異なるのだと、線を引かなければならないのに。見誤った同胞に呆れが走る。
 慕いすぎて、愛しすぎて、境界をあやふやにしてしまうなんて、どちらの為にもならないのに・・・我らの方が、きちんと節度を持たねばならなかったのに・・・なんて愚かな付喪神。

そうして、その結果がこれだ。

 可哀想なのは人の子だろう。勘違いしてしまった人の子。あまりに彼らが優しいから。甘く、寄り添い、慕ってくれるから。
目に見えるものだけを真に受けて、人に近いから人のようだと安心して。あくまで人の「ようだ」と、理解しなくてはいけないのに、人とヒトならざる物の区別を間違えてしまったのだね。
 甘やかして、近づきすぎて、勘違いさせてしまった。
 それは罪だ。我々の罪だ。怠慢で、許し難い大悪。
 ならば、正さなければならないだろう。勘違いしてしまった人の子に。勘違いさせられてしまった可愛い人の子に。


君と俺は、決して同じ場所になど立っていないと。


「名前程度と、言うのだね」
「そうよ」
「俺にとってはとても大事なものなのだけど、それでも与えろと?」
「大したものじゃないでしょ?国広だって持ってる、あやふやなものじゃない。時が経てばいくらでも変わるものなんだから、髭切みたいにおおらかに構えたら?意地を張る方がみっともない」

 駄々っ子みたいで、あなた格好悪いわ。
 やれやれ、と肩を竦める。その姿に笑みをはいて、吐息を零した。
 ふふ。そうか、駄々っ子か。そうかそうか。ーーーならば。

「いいよ」
「あら」

 承諾すれば、一瞬驚いたように瞬いて次に嬉しそうに破顔する。
 信じられないものを見たとこちらを見る同胞と、嬉しそうに笑う人の子と、青褪める写しの子を眺めて、目を細めた。

「いいよ、譲ろう。与えてあげよう。でも一方的なのは、不平等ではないかな?」
「そう?・・・そうね、確かに譲ってくれたのに、こちらは何もあげないのは不平等ね」

 じゃあ、あなたは何が欲しいの?欲しいものをあげる。でも山姥切はやめてね、折角丸く収まったんだから。冗談めかして言う人の子に、こちらも笑う。言わないさ、そんなこと。山姥切は写しに与えよう。君があげろといったから、それに従おう。その代わりにとはいってはなんだけれど。

「君の名をくれないか?」

 ニィ、と口角を持ち上げて。
 瞳を細めて、笑いながら。
 軽く。雑談めいて。ささやかな願いだと嘯いて。
 目を見開き、固まる人の子よ。さあ、俺に与えておくれ?

「え?」
「聞こえなかったのかな?君の名前をおくれと、いったのだけど。あぁ、審神者名ではなくて、君の、人の子としての名前だよ?」
「山姥切!お前、何を考えてっ」
「その名はお前のものだよ山姥切。さて。何か可笑しなことを言ったかな?」

 わからないなぁ、とぼやいて首を傾げる。ざわめく周り、顔から血の気を引かせる人の子に、やさぁしぃく微笑んで、ねえ?と、囁く。
 びくりと震えて、喉を引攣らせる人の子を、哀れにも思うし、可愛いとも思う。

「そ、そんなのできるわけないじゃない!!」
「どうして?」
「ど、どうしてって、当たり前でしょ!?名前なんて、あげられるわけが、」
「大したものではないのだろう?」
「え」
「君が言ったんじゃないか。大したものじゃない、あやふやで、移ろうものだから、名前ぐらい、あげればいいと」

 
あ、と口をまぁるく開けてカタカタと手を震わせる。血の気の引いた顔に、恐怖に引き攣る顔に、言ったじゃないか、と朗らかに告げる。
 同胞が人の子を庇うように前に出て、制止してくる。もうそのぐらいで、と、許してやってくれ、と人の子を哀れんで、こちらを止めて。ああ、馬鹿だね、君達は。止めるのなら、今じゃなかった。もっと前に止めるべきだった。主人可愛さに己が身の可愛さに、時を逸したのならばそれは大層な愚鈍の集まりだ。くすくす笑みが零れる。あまりに遅い制止に、同胞ながら実に愚かだと見下した。
 主は間違えた。人の子同士であるかのように接してしまった。違うのに。俺と主は異種族で、その周りにいるものだって人間ではないのに。
 ヒトならざるモノと相対する時、発する言葉には気をつけろと、あれ程政府からも教えられたのに、周りが優しいから忘れたの?
 
 なんて馬鹿で愚かで素直で愛しい、人の子よ。
 間違えたから、言の葉を紡いでしまったから。出たものは取り消せない。取り返しはつかない。だって君は言ったでしょう?

「欲しいものをあげると、君は言ったね。この大勢の付喪神の前で、君は確かにそういった」

 言の葉は確かに聞き届けられた。
 誰も止めず、否定もせず。
 ここにいる全てが受け入れた。何より君自身が言ったのだ。ならば、責任を。紡いだ言葉の後始末を。

「名前ぐらいと言うのなら、名前ぐらい俺にくれてもいいだろう?君はダメで、俺にだけ譲れなんて、そんな駄々っ子みたいなみっともない真似、君はしないだろう?」

 ああ、どうして泣くのかな?
 まるで小さな子供のようだね。まあ俺からしてみれば赤子にも等しいけれど、だけど君は人の世ならば立派な大人だ。泣いて済むだなんて甘いことを考えてはいないよね?
 許して、ごめんなさい?どうして謝るの?名前なんて大したものではないと言ったのに。等価分を貰うだけなんだが、それの何が嫌なんだい。
 まあ、なんにせよ。


「約束は守らなければね」










本歌:おこだよ!でも人の子だから勘違いしちゃうよね、間違えちゃうよね。しょうがないから教えてあげるね!
ぐらいの気持ち。実際名前貰って何かする気は毛頭ないけど、あんまり迂闊なこと言っちゃうと揚げ足取られて一気に不利になるよって話し。
人間の改名感覚でいちゃいけない。まあ改名するにも手続きとか色々あるし、何年もその名前で呼ばれてたら周りも多少戸惑うし、折角もらった名前が〜とか親の気持ちが〜とか問題起こるのに「〜ぐらい」なんて軽く扱うべきじゃないよね。そして周囲も止め時を間違えた。ギリギリ止めることができたのは約束する前。でも言っちゃったからしょうがないね。
結果約束してるので、名前は貰う。審神者涙目。でも悪用はしないよって誓約貰うから安心。ただし抜け道がないとは言ってない。
まぁでもこの山姥切は多分政府に帰るよ。こうなってしまったからには穏便な本丸生活など望めないからね。
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