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◎水鏡の花 水夢の花編 海賊ショート連載 「白髭さん家のお食事事情」アップ。







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◎水鏡の花 水夢の花編 海賊ショート連載 「白髭さん家の掃除婦さん」アップ。
◎お礼小噺追加




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「嘆きの声が届けない」

 目が覚めて見た医師の顔は見慣れたそれではなかった。全く見知らぬ顔が覗き込み、淡々と脈をはかる。陽に触れることの少ない肌はどこか青白く、筋のように浮かぶ血管の青さが目に付くぐらいだ。
 その手に指を這わせ脈を測り、差し出された体温計で熱を測る。その間に見回した室内に並ぶ顔すら一新されいて、胸中に浮かぶ黒い何かに眉を寄せ耐えるように瞼を閉じた。
 一通りの診察を終えた医師はほっと安堵の表情を見せた。その安堵も患者の無事に安堵するそれではなく、己の無事に安堵するそれであった。その表情にまた追いつめられるような心地がして息苦しさに小さく口をあける。ひゅぅ、と息を吸い込めば慌てたようにどこか具合が?と問われた。それに私は咄嗟に口を閉じると、小さく口角を持ち上げてどこも、と答える。少し疲れただけだといえば、医師は絶対安静を告げて席を立った。
 変わりにナースがベッドに寄り、水差しからコップに水を注ぐと粉薬を差し出された。それを受け取り口に含むと、すぐに水で粉を喉奥に流し込んでいく。粉薬は咽るような気がして好きではなかったが、我がままを言う気力も、持てるはずが無かった。いや、我がままを言う資格などあろうはずもない。
 抗うこともなく薬を飲んでそのままベッドに横たわれば、甲斐甲斐しくナースの手が毛布を首元まで引き上げ整え、そうして後ろに下がっていく。そのナースの顔色さえ緊張を張らんでどこか青く見え、私はその顔色から逃げるように窓の向こうに視線を向けた。
 直射日光を避けるためだろう。レースカーテンの向こう側はよく見えないままで、淡く注ぐ光に僅かに目を細めれば、とろりとした睡魔が押し寄せてきた。薬の副作用か何かであろうか。それすらも今は都合が良いと思う。そのまま抗うことなく瞼を閉じ、睡魔に見をゆだねた。それは紛れもない逃げではあったが、逃げなければ今の私は自己を保てない。変わっている顔ぶれが辛い。胸中に押し寄せる罪悪感に吐き気すら覚えたが、それを表に出せばそれこそ私はまたしても追い詰められることになる。だから逃げるように、ただ逃げるために、瞼を閉じた。そうして見た夢が、幸福なものであるはずがないと、わかってはいたのだけれど。





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「ギブアンドテイク」

 異世界に行くのは構わない。最終的に帰る手段はあるのだから、ちょっとした旅行だと思えばそれはさほど苦に思うことはないからだ。けれども、これは頂けない。本当に、毎度毎度、何故にこうも運命とやらは人をイラつかせるのか。

「多くは望まないわ」

 腰を落ち着けた椅子がぎしりと軋みをあげる。大きくスリットの入った衣服から見える足は現代風でいうならトレンカの黒で覆われて、足先はやはり黒い靴に収まっている。目の前に座りテーブルの上に両肘を置き、組んだ手で口元を隠して眼鏡の奥からこちらを見る男の値踏みの視線を鼻で笑いながら、唇をゆがめた。

「私は探している人物がいる。あなた達はその情報を例え欠片でもいい、私に与えること。若しくは見つけたら手厚く保護すること。傷一つ、髪の一筋、心の一欠けら、損なうことも許さないわ。全くの無傷で、心身とも健康に扱うこと。それ以上は望まない。その代わり、私は探し人が見つかるまで、あなた達に力を貸しましょう」
「本当にたったそれだけでいいのか?」
「たったそれだけが望みよ」

 だから、たったそれだけの望みなのだから、叶えなければならない義務にも等しいのだ。難しいことなど何一つ願ってない。無茶なことなど何一つ言ってない。だからこそ、何が何でも叶えてもらわなくてはならないのだ。
 組んでいた足を戻して、かつんと床にぶつける。肘かけに手を置き、すっと立ち上がれば視線も合わせて動いてきた。

「まぁ、あまり目立つ気はないから堂々発表とかはしないで欲しいけど。以上が私の条件。勿論呑んでくれるわよね?センゴク元帥」
「・・・その程度の願いで済むなら上々だ。欲がない奴だ」
「そう?欲塗れよ」

 ただ、何に重きを置くかは人それぞれじゃない?それが他人にとってみれば取るに足らないことであれ、そうでないことであれ。ただ私にとってそれは、何よりも優先するべき事項なのだから。

「探し人の特徴は」
「蒸し栗色の髪に飴色の瞳。肌は真っ白できめ細かく、まるで御伽噺に出てくるお姫様か天使みたいな絶世の美少女。服装は基本白のスカートが多いでしょうね。名前は白銀瑪瑙。あぁ、写真があるからこれ配布してくれればいいわ。悪用はしないでね」
「するか。・・・・・・・・・本当に人間か?これは」
「一応ね。ふふ、可愛いでしょう?こんなに可愛いとヤバイ奴らにも目をつけられそうで気が気じゃないの。まぁあの子天性の逆ハー体質だからなんだかんだ無事だとは思うんだけど、万が一があっても嫌だし」
「逆ハー?」
「こっちの話よ。それじゃ。私はもう行くわ。あぁ、これが連絡用の伝電虫の番号。何かあればそれでよろしく」

 ひらり、と紙切れ一枚をぴっと相手に飛ばせば、なんなくそれを受け止めて男は溜息を吐く。その顔にはまだ何かあるんじゃないかと疑ってかかるような剣呑な光があったが、生憎とそれ以上ここで望むものなど皆無だ。
 立場上限界まで頭を回さないといけないとはいえ、あまり裏の裏のそのまた裏まで日頃から読んでいると、その内血管がぷっつん行くんじゃないかと思う。どうでもいいけれど。
 軽く肩を竦めて暗い室内から出れば、そこは白い廊下が真っ直ぐに伸びている。馬鹿みたいに重苦しい造りだ。その中をかつかつと音をたてて歩けば、時折制服を着た男共と擦れ違う。誰もがこいつ誰?みたいな顔をしてくるのが鬱陶しいが、知られていないことは都合がいい。

「しかし、この海のど真ん中でどこから探せばいいのやら・・・」

 あぁ全く、なんだってこう、異世界にきたらあの子と離れ離れにならなくちゃいけないのか・・・!ちっと舌打ちを打って、私は苛立ちも露に前髪を掻き揚げた。




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◎水鏡の花 水夢の花編 海賊ショート連載 「始まりの朝がきた」アップ。






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