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夕焼けが空を焼く。木枯らしが吹いて冷たい手で頬を撫でると、さらりと髪の間を潜り抜けて遠ざかった。その拍子に乱れて頬に張り付く髪を手櫛で軽く整え、ふぅ、と吐き出した息が白く濁る。
あぁ、すっかりと遅くなってしまった。燃える空の端が、すでに藍色に染め代わっていく様に軽く眉を下げる。がさりと片手に持ったビニール袋が音をたて、ずっしりとした重みを感じながら、ランサーに怒られるかな、とため息を零した。・・いや、怒りはしないか。心配はしていそうだけど。小言なんかも言うことはなく、ただ心配を伝えてくるだろう英霊に、それはそれで堪えるよな、と思いながら早く戻らなければ、止めていた足を動かしだす。
英霊とは、高度な次元の存在であるはずなのだが、どうして彼はあぁもへりくだるのだろうか?いや、騎士という生前から、その性質が仕えられるものではなく仕えるものだということは理解している。けれども、だ。彼ら英霊は通常の使い魔や、術士が扱う式とも違う存在だ。そこに確かな自我と力、能力、魂の形があるわけで、存在の格でいうならば現在の生きた人間よりも遙かに高みに位置しているというのに、こんな一介の魔術師程度にあそこまでへりくだる必要はないはずである。害を為そうと思えば、彼らは一瞬で私たちを葬ることもできるはずなのだ。確かに、この身には彼らを縛る誓約があるが、しかしそれも発動する前にことを為してしまえばわけはない。そうできるだけの力があるのだから、正直サーヴァントとマスターは決して対等ではないのだ。ただ、彼らにも彼らの目的があるから、安易に行動はできないんだろうけれど。新たなマスターを見つけることは、簡単なことではないのだし。
でも、だ。これだけ考えただけでも、英霊が人間にへりくだる必要はないと思える。ましてや召喚したの私だし。へりくだるにこれほど似つかわしくない相手も早々いないだろう。
騎士が仕えるものだとしても、なんていうか、もっと人選べば?と言いたい。騎士って、こう、もっと自分に誇りがあって、仕える相手にも相応のものを求めてて、というか自分が仕えたい!っていう気持ちをもってこそ初めて心から膝を折れるってもんじゃないのか?生前の彼の上司だとて、彼自身が尊敬して、敬愛していたからこその忠義だと思うのだが・・・私、ランサーにあんなへりくだられるほど何かいいとこ見せたっけ?
彼の琴線を動かすほどのことをした覚えがないといのに、あの怖いぐらいの忠誠・・・忠誠?心はなんなのだろうか・・・時々彼の真意は読めなくてほとほと困るが、まぁ被害らしい被害といえばあの魅了の黒子とあの顔とそのうざったいぐらいのへりくだりっぷりなので、問題はない。はずだ。今のところ顔の問題も魅了の問題もなんとかなってるし。
「ランサーってよくわからんわぁ」
一度本人に聞いてみるべきかな。なんでそんな私にへりくだるの?って。なんか理由がわかればまだ納得、は、多分できるはずなんだけどなぁ。まぁ、理解できるかどうかはさておいて。
「まぁ、今日は移転先も見つけたし、それでなんとかランサーをかわして・・・ん?」
別の話題をふればあいつも食いついてくるだろ。そうでなければご飯で釣ればいい。最近食事時のランサーが異常にそわそわしているというかご飯時の目の輝き方が半端ないし。なんだかアレンを思い出すよ・・・。あ、これか。餌付けか。餌付けの成果か。・・・いやでも餌付けし始めたの最近だしなぁ。実家じゃ早々キッチンに立たせてもらえなかったしなぁ。簡単なお菓子ぐらいしか作らせてもらえなかった。お仕事とっちゃうから仕方ないことなんだけど。
つらつらとそんなことを考えていれば、不意に通りかかった公園で小さな人影を見つけて足を止める。ブランコだろうか。鎖から釣り下がった板の上に、ぽつんと取り残されたような寂しげな姿。薄暗くなった公園に、その影以外の姿は見えず、そりゃもう夕飯時だし暗いしなぁ、と思いながら、あまりにもその姿が寂しげだったから、なんとはなしに公園に足を踏み入れた。がさごそとビニールの袋を鳴らしながら、キィキィと鎖の擦れる音をたてて前後に揺れる人影に近づく。近づくにつれて、ざわざわと肌に感じる空気に不快感を感じたが、その原因の追究する前に、影の前に立った。
影は、小さな女の子だった。冬だというのにマフラーも手袋もしていない姿はただ寒々しいの一言に尽きる。おい親。なんつー恰好を小さい子にさせてんだ。どういう神経してんの!?それにぎょっとしながら、むき出しの手で冷たいだろう鎖に触れているのにも眉を潜めつつ、紫色をしたワンピースに身を包んだ幼女は、前に立つ人影に気が付いたのかゆっくりと俯いていた顔をあげた。
思わず、ぎくりとした。目があった少女の丸く大きな双眸は、何も映してはいなかった。いや、見えてはいるのだろう。けれども、そこに感情の色を見せることはなくて、あまりにも亡羊としていた。死んだ目とは、こういうことをいうのだろうな、とひどくわかりやすい有様で、円らな瞳は私を見る。加えて、少女のうちに。言いようもない禍々しいものを感じて、吐き気すらこみあげてきた。なんだ。これは。魔術・・・?こんなにも禍々しい魔術があるのか?
言葉に詰まりながら、少女を見つめる。少女の胎内に、何かしらの魔術の痕跡がるのは確かだ。それが蠢き、内から少女の体に何かを施している。気味の悪い力。歪んだ、禍々しい・・・悪意にも等しい魔術の気配。
それが、この少女の目に現れているのか?子供の、こんなに絶望した目を見たことは滅多にない。何かしらの輝きを秘めて然るべきそれに、なんの光もないことに空恐ろしさを覚えながら、こてりと疑問を表すように小首を傾げた女の子に、はっとして慌てて私は首に巻いていたマフラーを解いて、買い物袋を地面に下すと、女の子のむき出しの首にそれを巻き付けた。
「そんな恰好じゃ、風邪を引いちゃうよ。お母さんはどうしたの?」
全く、子供に防寒対策の一つもさせないとはどういう神経してるんだ。ぐるぐるとマフラーを巻き付け、ひとまずほっとしながらも、上着一つなくワンピース一枚っきりの姿に、コートも貸した方がいいかなぁ、と思いながら、ブランコの鎖を握る手をやんわりと解いてぎゅっと両手で握った。小さな手は私の手でも十分に包みこむことができて、はぁ、ときっと冷え切ってしまっているだろう手に息を吹きかけながらぎゅっと握りしめた。あ、コートのポケットにホッカイロついれてたっけ。それ渡そう。いそいそと手を解放して、ポケットからホッカイロを取り出して何も言わない女の子の両手に握らせて、再びその上から手を握りしめる。
女の子はされるがままにじっとしていて、驚きの声も拒絶の言葉も感謝もなく、ただぱちりと瞬きをした。おぉう。ここまで無言だとどうしたらいいんだい?
「・・迷子?」
一番無難な疑問をぶつけてみると、女の子は一拍あけて、ふるふると首を横にふった。・・意思疎通はできるな。それにちょっとほっとしながら、しかし一番可能性としてありえそうなものが消えてしまったので、じゃあこの子は故意に家に帰らないのか?と首を傾げた。遊ぶことに夢中になって、って感じでもなさそうだけど・・・帰りたくない理由でもあるんだろうか?悪戯して帰るに帰れないとか?・・いや、そんな雰囲気でもなければそんなことしそうな子にも見えないけども・・・。てか目がなー。なんだ。実は重たい事情持ちなのか?だとしたら突っ込めんぞ、私は。
「一人でお家に帰れる?」
「・・・うん」
「そっか、えらいねぇ。じゃぁもう帰らないと、真っ暗になっちゃうよ?真っ暗になったらもっと寒くなっちゃうから、早くお家に帰ろうね?」
それに最近、ニュースとか新聞でみるだに随分と物騒な事件も起きてるらしいし。ただでさえこの冬木は土地的にも色々問題抱えている上に一般人にはきっと迷惑この上ないことまでやらかそうとしてるんだから、何か起きる前に家に帰った方が無難だ。その家庭に何か問題があったとしても・・・そこは私じゃどうにもできないしなぁ。
やんわりと声をかけると、女の子はそっと目を伏せた。きゅっとホッカイロを握る手に力がこもって、動かない表情ながらも、少女の様子は帰宅を拒んでいるようにも見えた。しかし悲しいぐらいに顔の表情筋が動いていないし、目も濁ったままなので、ぶっちゃけ顔色が読みにくいにもほどがある。ただなんとなく、家に帰りたくない、という雰囲気は伝わってきて、ありゃ、と眉を下げた。
「何か、帰りたくない理由があるの?」
ことと次第によっちゃ家まで付き添うし、警察に行くこともやぶさかではない。まぁ、表面的な対策とはいえ、小さな女の子を放置するわけにもいかないので付き合えるところまで付き合うよ。ランサーには念話で事情話しておくとして。
さすがに内情にまで突っ込むことはできませんがね?問いかけると、女の子はきゅっと唇をかんで、沈黙した。うん。応えづらいよねー。それに、まぁ話してくれるまで待つかぁ、と女の子の頭を撫でて待つことを決めると不意に「桜ちゃん!」と息を切らした声が聞こえた。
「桜ちゃん、よかった・・・こんなところにいたんだね」
「おじさん・・・」
およ、身内の方登場?女の子の頭から手を放し、横を見れば片足を引きずりながらこちらにずりずりと近寄ってくる白髪の男性の、心底ほっとした顔が見えて、なんだ、と瞬きをした。なんだ、この子、ちゃんと心配して探し回ってくれる人がいるんじゃないか。どうやら体に不自由があるようだが、それでも幼子を探し回ったのだろう。息を切らす男性に、愛されてるんだなぁ、と思いながらほっと息を吐いた。
「この子の保護者の方ですか?」
「君は?」
立ち上がりながら、こちらに寄ってくる男性に声をかけると、一瞬にして警戒と戸惑いを浮かべた。まぁ、子供に見知らぬ人間が近づいてたら警戒するよな、と当たり前のことなので(最近物騒だし)軽く流して、にこりと笑みを浮かべる。
「すみません。こんな時間に子供がここに一人でいたものですから、つい。マフラーも上着もきていませんでしたし・・・でも身内の方がいらっしゃったのならもう安心ですね」
まぁその身内の方も随分と中に嫌なものがあるようですがね!なんだここの身内!?体の中にどんだけ人体に有害なもの抱えてんだよ!魔術師の家系なんだろうが、もうちょっと考えて使おうよ!私が対策とってなかったらちょっと穢れにあたって熱だすところだよ!よかった穢れ対策でお守り装備してて!ふふ、と笑いながら言えば、男性はあっと一声あげて、眉を下げた。
「そうなんですか。すみません、ご迷惑をおかけしたようで・・・」
「いえいえ。ちょっと声をかけただけですから。よかったね、お家の人がお迎えにきてくれたよ?」
言いながら、そっと女の子の頭を撫でる。そのついでに、少女の中のものを浄化しておく。なんでこんな嫌なものを抱えているのか知らないが・・・魔術的なものを抜きにしても、あんまり中にあっていいものじゃないだろう。龍脈の関係もあるし、できるだけ有害そうなのは除去していかないとなぁ。しかしこれだけ穢れが詰まったものだ。この人たちの家も、調べれば龍脈の汚染がちょっとはわかるかもしれないな。魔術師は総じて龍脈などの力が集まりやすいとこに拠点を置くものだし、ちょっと調べさせてもらってもいいかなぁ?
そんなことを考えながら、女の子の背中を押す。けれど、女の子は動かないで、びっくりした様子で私を見上げていた。あ、自分の体のことだし、気が付いたのかな?まぁでも、勝手に他人様の魔術に干渉しちゃったから、文句言われても困るので、そっと唇の前に人差し指を持ってきて、しぃ、と声を潜めた。
その意図を女の子は理解したのか、口を閉ざすと、小さくこくんと頷いて、ブランコから飛び降りて男性の傍まで駆け寄った。さすがに足を引きずる男性に抱きつくのは憚られたようで、控え目にそのズボンを握るに留まっていたが。
男性はその様子に相好を崩しながら、女の子の首に巻かれたマフラーに気が付いたか、こちらを振り向いた。
「このマフラー、もしかして」
「あぁ・・・お兄さん、余計なおせっかいかもしれませんが、子供に防寒対策の一つもしていないのはどうかと・・・この冷え込みようですし、事情があるにしろ最低限の防寒対策はしてあげてください」
「あ、う、・・・すみません・・・。重ね重ねご迷惑を・・・」
「いえいえ。そのマフラー差し上げますので、これからは気を付けてあげてくださいね。あぁ、あとおまけですけど、これもどうぞ」
とりあえずこれだけは注意喚起しておかねば、と男性に告げつつ、彼らに近づいて懐からお守りを二つ取り出す。
「え?これは・・・」
「お守りです。最近何かと物騒ですし、気休め程度に。これも何かの縁ですしね。・・・桜ちゃん、だっけ。このお守りはずっと持っておいでね。ささやかだけど、君を守ってくれるはずだから」
「・・・うん」
冬木の穢れがひどいので、念には念を入れて予備として用意していたお守りがまさかの活躍である。守護と浄化を兼ねている、まぁ護符のようなものなので、ある程度のものなら寄せ付けないはずだし。
腰を曲げて、目線を合わせるように言えば、桜ちゃんはさきほどの件もあってか、少しばかり真面目な顔でぎゅっと大切そうにお守りを胸に抱いた。いや、うん。・・・最低限自分用に使っただけなので、そこまでものすごい効果はないと思うけどねー?ないよりはまし程度だと思うけどねー?でも多少はマシになる、と思いたい!
「お兄さんも。結構ご利益があるーって言われるお守りなんで、是非どうぞ」
「えぇ、でも悪いですよ。迷惑しかかけてないのに・・・」
「気になさらないでください。そのお守り、帰ればまたありますので。では、そろそろ家のものが心配しますので私はこれで」
「あっ」
言い残して、地面においていた買い物袋を手に取り、足早にその場をあとにする。できればあの人の中のものも浄化したかったけれど、子供と違って彼は大人だ。問い詰めらないとも限らない。それに、あまり首を突っ込むと大変なことになりかねないし・・・せいぜいできることといえばあれぐらいだ。
あとマジそろそろ帰らないとランサーが突撃してきかねない。困らないけど、下手に動かしたくもないので、早々に帰るべきだ。
公園に二人を残して足早に道を歩きながら、とりあえず心配しているだろうランサーに声をかけるために、少しばかり切っていた念話の通路を、つなげることに意識を向けた。
飛ばし飛ばし書きたいところだけ。蟲陣営救済・・というか救済の切欠作り、かな。この場合。本人なにも知らないですけどね!傍観主の守護のお守りは遙か4にて実績ありです。
お守りの効能は守護なので、蟲蔵にいれられても悪いものは近づけないよ!的な効果を発してます。ただお守りに気づかれて奪われてしまうとあれですが。気づかれない限りは多分平気。
蟲叔父の方は守護よりも外付けのマ力タンク。傍観主の神気を込めた代物なので、それなりに彼の負担軽減になるかと。あと常時結界があるに近いので、体内の蟲も大人しくなってる、とか。そんな。
傍観主、自覚はしてないけどそれなりにチート属性ですんで。まぁ水銀先生がもともと結構チートな人らしいので、成り代わった位置にいるならまぁいっかなとか。
それに、いくら強くても使い方とか使い気持ちとか、諸々なければあってないようなものですし。傍観主は過小評価しがちですからね。こんなものかなー。
実家が、冬木での滞在場所決めておいたから☆と(こんなテンションではなかったが)言われて、まぁ準備してくれてたんならいっかなぁ、と軽く考えていた自分を殴りたい。どこにしようか、どれぐらいの滞在になるか、家を借りた方がいいかなぁとか、面倒くさい処理が色々あったので、正直助かったとも思っていた。だけど、これは、ない!
「・・・貴族ってないわー」
滞在先の住所と電話番号が書かれたメモ片手にランサーを霊体化させて病院からタクシーに乗り込み、辿りついた先で思わずつぶやいた私は悪くないはずだ。目の前に高く聳える建物。一見しただけでもそこらのビジネスホテルとは一線を隔しているのはわかる。あ、なにここ結構いいホテルなんじゃね?という不安を出しつつ、おのぼりさん丸出しで意を決してホテルに足を踏み入れてフロントから部屋へと案内される。しかしもうその案内の時点で私は眩暈がしそうだった。スイートって。スイートって!最上階?!貸切!?一フロアまるごと!?え?ちょ、何を言ってるのかわかりませんね。
そうして絶句している私を尻目にボーイが荷物をもってあれよあれよいう間に案内されて(そのボーイがちょっと挙動不審だった気がしないでもないが)まるで人気のないフロアの、さらに奥の一部屋に通されて、私はぐったりと近くの椅子に座り込む、肘置きに顔を埋めて嘆いた。
「ありえん・・・」
「主?いかがなされましたか!?」
「うぅ・・・ランサー・・・金持ちの思考回路ってわけわかんないよぉ・・・」
「あ、主。お気を確かに」
部屋についた途端ぐったりと座り込んだ私に、空港での一幕を思い出したのか瞬時に霊体化を解いて慌てて寄ってきたランサーに愚痴を零すと、彼は突然の嘆きの意味が掴めなかったのか、おろおろとしながらも慰めるように片膝をついて顔を覗き込んできた。輝くような貌が、憂いと心配を混ぜてその柳眉をきゅっと潜めている様はなぜか知らないが色気がある。琥珀色の瞳を間近で見返して、私は小さくため息を零した。
「実家に任せきりだった私も悪いけど、ホテルのスイートってないよねー」
「そうでしょうか?サービスの方は行き届いているようですし、ホテルマンも素晴らしい教育がされているように見受けられましたが・・・」
「いや、うん。サーボス面での不満じゃないんだよ。むしろ行き届きすぎてるから庶民には肩身が狭いというか、こういうのはセレブが行うことであって私にはちょっと身の丈に合わないというか」
「そんなことはございません!主のような才能豊かで心優しく麗しい方にこそ相応しい場でございます!」
「・・・まぁ家柄はいいからね」
麗しいってなんぞ。彼の人の持ち上げ具合は、正直ナルシストでもない限り受け付けがたいものがあるなぁ、と思いながら(性質の悪いことに本心っぽいから余計に頭が痛い)、一応英国貴族で通っている実家なので、ある程度予想して然るべきだった、とむくりと肘置きに預けていた顔を起こして自分の迂闊さに叱咤をする。
あのプライドが馬鹿高くて自分は庶民とは違うのよ!と言わんばかりの家だ。これぐらいのことは予想するべきだったのだろう。かといってワンフロア貸切はないと思うけど。
ここで礼装広げて砦作れってか?いやだここで何かあった場合の損害とかどれぐらいになると思ってるのさ。ていうかお金が。魔術って結構お金かかるのよ?用意するものだって馬鹿高いものとかいろいろあるし、本当に、お金ないとやってらんないよね!って部分も結構あるのよ?あぁこの金銭感覚信じられない!これが庶民とブルジョワの差か!差なのか!!
伊達に赤い悪魔と一緒に借金塗れになりながら夜逃げしまくってたわけじゃないんだぞこんちくしょう。これが先生なら似合うよ!?マリアン先生ならそりゃもう似合うし、マリアン先生のおまけとしているならまだいい。どうせ私小間使い扱いだしそんな長いこと滞在もしないだろうからちょっとした旅行気分で終われるし。どうせその分の料金はマリアン先生のパトロンか教団にでも請求がいくわけだろうから、こっちの懐は痛まないわけだし。
でもこれは状況が違う!私メインで!しかもワンフロア借り切って!滞在時間の目途も立ってなくて!!怖い!どれだけお金がかかってるのか考えるだけも怖い!それでいてもしここで何かあったときの被害総額とか考えるとさらに怖い!加えていうなら私ホテルのベッドって苦手なんだよー!
「・・・かといってすぐに別の場所が見つかるわけでもないしね・・・。とりあえず結界は張っておこう」
しかし、実家には悪いが早々に別の場所を探してここは引き払おう。そうしないと私の精神的負担が半端ない。慣れればいいんだろうが、そんなに慣れるほどいたくもないし・・。ちょっとした思い出程度で終わらせておきたいものだ、こういうのは。
「大体ここで何かあっても逃げるのに大変なだけだっての。最上階とか・・景色はいいけども」
結界を張るために盛り塩なんかを準備しながら、大きな窓から見下ろす町並みに感嘆の吐息を零す。形式はいいんだ。部屋だって流石スイートってぐらいで素晴らしいものがあるし、これが自分へのご褒美とか気楽な旅行とかならもっと純粋に楽しめた気はする。しかし、状況を考えればそんな呑気なこと、言えるわけもなくて。
一応、聖杯戦争って戦争なんでしょ?なんか周りが魔術師の崇高な戦いとか見ているけれど、正直魔術師同士の戦いって・・・いや、どういうのなんだろう?騎士みたいな一対一でやるの?でも戦争でしょ?しかも魔術師って自分でいうのもなんだけど正面切ってやりあうような肉体言語を扱うことほぼないじゃん?むしろ卑怯上等相手の裏をかいて呪い殺してやるわ!ってぐらい陰険かつ陰湿というか、小細工上等!みたいなタイプじゃん?
自分からうって出るタイプじゃないし、ましてやサーヴァントがいるのだから表舞台になぞ早々でないだろうし。
ホテルに何かあっても自分じゃ対処しきれませんので、ほんともうちょっとのんびりできる滞在地を探そう。
「さて。ランサー。お茶飲むー?」
「主!私がしますのでどうかお座りになってください!」
簡易結界を敷いて、穢れ対策をしながら、ポット片手にランサーに声をかけると、荷ほどきしていたランサーが物凄く慌てた様子で駆け寄ってきた。いや、でも正直ランサーにさせるより私がいれた方が美味しいと思う。
あと、なんかいつも通りのことをやって落ち着きたいし。私からポットを奪おうとするランサーをやんわりと跳ね除けて、しょぼーんと情けない顔をしているイケメンを尻目に、喜々として実家から持ち込んだ紅茶の缶で、お茶の準備を開始する。・・・どうせ日本でにきたんだから日本茶もほしいよなー。あと和食。お米。味噌汁。食べたいな。うん。食材も買おう。あ、あとやっぱり漫画もほしい!日本の漫画文化はやっぱり素晴らしいよね!本屋巡りもしなくっちゃ!
・・・あーでも龍脈の異常も調べなきゃだし、そうなるとここの管理者にも会いにいかないといけないのか。教会には顔見せに行くべきかな。監督役だし、見せた方がいいよなー。
まぁ、それらも龍脈の異常性がどこまでかある程度調べがついてからになるよね。ランサーには悪いけど、戦争なんぞしてる場合じゃないし。ここの神様から直々になんとかしたって!って頼まれたから断れないし・・・。気持ち的には断りたかったんだけど、あんな衰弱した姿見せられて懇願されたら無理だし。
まぁおかげでランサーもこの土地の異常性を理解してくれたらすんなり聖杯戦争どうでもいいよ!ってことに納得してくれたけど。まぁ彼の場合、聖杯が目的なわけじゃないもんなー。・・・・あ。
「そうだそうだ。ランサー、ソラウに手紙書いておきなよ?」
「・・・ソラウ様に、ですか」
「そ。出る前に絶対書くからって約束したでしょ?」
ソラウの名前を出した途端、微妙な顔になったランサーに苦笑しつつ、沸かしたお茶をポットに注ぎいれる。
まぁ、彼自体はソラウにそこまでの好意を持っているわけじゃないからなぁ。もともと、女性関係にはいい思い出がないのか、消極的な人だし。あからさまな恋情・・しかも恋に恋してる状態に近いソラウには、いささかの苦手意識を持っていることはわかっている。それは不憫だとも思うし、彼の逸話諸々を知ればしょうがないとも思うが、これは仕方のないことなのだ。彼女をこの戦いに巻き込まないためには、ランサーには多少の我慢、というとソラウが可愛そうだが・・・まぁ、方便ぐらいはこなしてもらわなければ。ひいては私の身の安全にもつながるし。女の嫉妬超怖い。
ティーカップに注いだ琥珀色の水面に自分の顔を映しながら、今後の予定をカタカタと頭の中で組み立てていく。とりあえず、滞在地の変更と並行して、龍脈の調査だな。あぁ、面倒くさい。
相変わらず主人公自体は冬ちゃんに書き込まないタイプの子なんですけど(存在を知らないor興味がないorそもそも書き込むメリットがいまいちわからない)、とりあえずなんでか鱒になってしまった主人公がいや自分そんなの無理なんで、ということで誰かにれーじゅを譲渡したはいいが、鯖がその相手と折り合い悪くて出戻ってきちゃった系のお話。
鯖は赤弓で。赤弓が召喚されて、聖杯戦争の説明されて、赤弓が時間軸が余事だと気が付いて大火災がどうのこうのという話になって、自分は戦争を止めたいんだ、的なことになる。
主人公は色々驚きつつないわーと思いつつ、でも大火災は困るし大変だし、防げるものなら確かに防げた方がいい。でも自分にはそこまでの動きはできないし、怖いので、誰か赤弓の目的に沿うような、力のある人物を探してれーじゅを譲渡するのはどうだろう?という提案をする。赤弓も、ほぼ一般人の主人公を殺しあいに参加させるのは偲びないし、力はないよりあるほうが望ましいので、その提案を受け入れる。
とりあえず新しい鱒見つかるまでよろしく、という感じで赤弓と生活。きっと普通に和気藹藹としてる。
んでもって、しばらく過ごしてたら冬ちゃん発見とか、あるいは街中で赤弓をみて凸されたりとかして、救済厨的な面子にあってれーじゅを譲渡する。腕切り落とし?ないわー。いやあげるんでこれ。え?私に救済しろ?落ち着いてください、彼から事情は聴きましたが本当に救済したいのならば、こんなモブじゃなくてあなた方と同じ思考の力のあるまじゅちゅしとかの方が可能性アップですよ。とか冷静に反論して赤弓さん譲渡。ちなみに赤弓さんは「こいつらなんなん?」とあんまりいい印象はもってんさげ。ほら、電波っぽいし?自分の意見しかぶちかましてきそうにないし?
それでも目的は一緒みたいだからまぁしょうがない、ってことで契約するけども、これで勝つる!とハイテンションなモブが赤弓をキャラ扱いというか、現実みてんのこれ?みたいな感じで苛々。それでブロッサムの救済に乗り込むぜー!とかするんだけど、ほら、現実は厳しいのよ?ってことで、赤弓が止めるのも聞かずに突撃してピンチに。赤弓一応鱒なのでなんとか逃げてモブに苦言を呈するけど、ちゃんと聞かないし逆に奴当たられるし(なんで逃げた!ブロッサムが可哀想じゃないのか!)、ここに至るまでの諸々で「あ、これダメだ」となってるるぶれで契約切って記憶もちょこちょこーっと操作して、主人公のところに出戻る。
主人公、いきなり出戻ってきた赤弓に「え!?どしたん?」とおろおろ。赤弓、主人公のところに戻ってきてほっとしながら事情説明。とはいっても簡単に鱒との折り合いが悪かったとかそんなん。主人公はそうかー合わなかったんならしょうがないね、ととりま赤弓と契約して今度は相性のいい人見つけようね、と話す。赤弓的にはこの鱒がいいなーと思ってたり。
とかいうところまでしか思いつかなかったけどどうだろう?出戻り系鯖。これきっとどこいっても結局出戻ってきそうです。冬ちゃんパートなどなかったんや。冬ちゃんパートはきっと救済スレぐらいになるような。
この主人公では戦争に参加もしそうにないんだが、なんやかんや巻き込まれる感じになればいいんだろうか。
なんでこうも!私が考える主人公は!冬ちゃんをしないタイプばっかりなんだ!冬ちゃんを眺めてる子が多いよなんなのもう!
偶には外にでも出てみようかと思って、家の周りを少しだけ歩くつもりだったのです。
何故だかご近所さんとは縁遠く、周囲には家というものがない家ですが、一応旦那様が生活物資などは調達してきてくれますので別段気にしてはいなかったのです。あぁそれでも誰かと話したいなぁとか、買い物行きたいなぁとか、そりゃ多少の不満はありますけど。町に行くのもちょっと遠いですし、旦那様曰く外は危険で一杯、だそうですので。
・・・・まぁ、正直にいうと、外は危ないから絶対に出るなといった旦那様の目が全然笑ってなかったというかなんかこう、雰囲気が可笑しくてですね。あぁこれ逆らっちゃいけない感じだ、とおぼろげながらに悟りまして。
オッケーわかった危険には飛び込まないぜ!ってことで、それが「外」なのか「内」なのかはともかく、昔から自己保身だけは強かったので危ない橋は渡らないようにしていたのです。
でも、そうですね。魔が差したとしかいいようがないでしょう。長らく平穏でしたので、危機感が薄れていたのも理由の一つです。ですから、まぁ気楽に外に出ておりまして。ちょっとした散歩のつもりだったのですけど。えぇ、本当に、なんでもないことのはずなんですけど。
「どこに行っていた?」
笑ってる。嗤ってる。口元は弧を描いて、目は弓なりにしなって。笑ってる。穏やかに。問いかけは柔らかに。けれど、掴まれた手首が。手首をつかむ手が。みしみしと、それは、狂気的なほどの、力で。
「外、に、」
「何故?」
「ちょっと、散歩、で」
「ほう。散歩か」
あ、やばい。なんかよくわからないけど、今、声が、低く、
「透子」
「・・・っ」
「――ほんとうは、でていくつもりであったのではあるまいな?」
笑う笑う笑う嗤う嗤う。彼が笑う。朗らかに笑う。底冷えするような冷たさを孕んで。ただ、嗤う。問いかけに、咄嗟に首を横にふる。実際、そんなつもりなどなかった。ただの散歩だ。帰ってくるつもりだったし、出ていく理由がない。どうしてそんなことを聞くのだと、最早感覚すら薄れてきた手首に空恐ろしさを感じながら問いかければ、いやなに、と彼はうっそり口元を歪めた。
「ちょっとした確認だ。すまなかったな、透子。痛かっただろう?」
「書、文・・・」
掴まれていた手首が解放される。血の気が戻ってきて、じんじんとした痛みが熱とともにぶり返してきた。見やれば、くっきりと赤黒い手形が残っている。その手を取って、彼は手首にやんわりと唇を寄せた。自分のつけた痕にそっと唇を触れあわせ、労わるように/慈しむように。いとおしげに、キスをする。まるで、幸せの証を見つけたように、彼の瞳は綻んでいた、けれど。
赤黒い痕に幸福を見出すその姿は、決して真っ当ではないのだろう。手首から腕を伝って這い上がり、顔を寄せてくる彼を見つめながら、私はそっと目を伏せた。
それはただの過剰な愛情表現なのだと、見て見ぬふりをするべきか。とりあえず、今後は外に出れそうもないなぁ、と切り取られた窓の外をちろりとみて、ため息は、丸ごと全部、食べられてしまった。
ヤンデレルートアサシン先生バージョン。彼の「~じゃ」とか「儂」という一人称は老年期入ってからとするならば、若いころはそうじゃないんだろうなぁ、と思って。でも古風な言い回しでないとそれっぽくないので、難しいね!
コメで兄貴はR18的ヤンデレで、アサシン先生は監禁系ヤンデレとあったので。
兄貴はわかりやすくすごい執着みせるけど、アサシン先生はチラリズムで見せてくるのかなって解釈をしてみた。
どっちにしろ傍観主の諦めスキルがなければ全力で逃亡フラグが立ちますよね。傍観主がそれでもしょうがないなーって受け入れてくれるから彼女の身は安全なわけで。真っ当なら多分最初から逃亡計画企ててるでしょうね。そして失敗して本格的に監禁されるんでしょうね。多分これまだ軟禁の状態だと思われ。アサシン先生と一緒なら町にも出してもらえるよ・・・多分・・・。
赤い瞳が弧を描く。頬を撫でる手はただただ優しく慈しみを帯びて、零れる声は愛を謳う。
優しく頬を撫で、髪を梳き、抱き寄せて、唇を寄せられて。溢れんばかりの愛を慈しみを想いを、向けて与えて落として注いで。溺れるほどに大量に。埋め尽くすほどに際限なく。そうやって、彼はきっと私を腐らせる気なのだろう。水を与えられすぎた草木がその根を死なせていくように。私を腐らせ、狂わせ、溺れさせ、沈めて。そうして動けなくしてしまいたいのだろう。
いっそ、彼の思うように狂えたらば、不幸せな幸せを、手に入れられただろうに。
空のように海のように青い蒼い髪を撫で梳いて、私は幼子のように腰に腕を回し、腹部に顔を埋める青年に、一つだけの口づけを落とした。
「私は、ここにいるから」
いくら言葉を重ねても、彼は信じてはくれないけれど。
兄貴ヤンデレルート?なそんな一片。
というわけでレスいきまーす。コメントありがとうございまっす!