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斜め45度ぐらいで。

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「わたしと たまごと しろくろふたご」

 目を開けたら見知らぬ天井がありました。・・・・・あー・・・。ぼんやりとその見覚えのない少々薄暗い気もする電燈を見つめつつ、朦朧とする頭を正気に戻すように、横たわっていたソファからむくりと体を起こした。その拍子に親切にも誰かがかけておいてくれたのだろう、薄手の毛布がずるりと滑り落ちたので、完全に床に落ち切らないように引き寄せて、改めて周囲を見回した。
 強烈な光を前にして、ただ目が眩んでいたのか、それとも気を失っていたのか。どちらかは定かではない。けれど、横たわっていたということは多分意識を失っていたのだろう。ベッドではなくソファである辺り、ここが誰かの自宅、自室であるという可能性は低そうだ。見える範囲の部屋の様子はパイプ椅子に業務的な机、液晶テレビに振り返った奥には流し台と電子レンジ、それから冷蔵庫とコーヒーメイカーという簡易的な給湯室。
 狭い、とは言わないが広い、とも言いきれない空間でそれだけのものが犇めき合っているのだから、どちらかというとこれは個人宅ではなくてどこぞの仕事場の休憩室、みたいなところだろうか?
 
 
 職場・・・・?え。私どこぞの職場にきちゃったの?うわぁ、しかも気絶とか迷惑も甚だしい・・・いや原因は私ではないが、事を起こしているのは自分なのでうわぁ、という気持ちを隠せないまま項垂れ、ついではっとしたように顔をあげた。

「たまご!」

 咄嗟に声をあげ、視線を動かせば、先ほどはスルーしていた机の上に、私のカーディガンに包まれたたまごが静かに鎮座している。割れた様子もなく無事な姿にほっと安堵の息をついて、ソファから足を下ろすと、そろそろとたまごに向かって足を向けた。・・・ここがどこだか知らないが、私が知っているのはこのたまごだけである。そして、学園長の言葉を信用するのならば、恐らくここはこのたまごがあった元の世界、のはずだ。まったく別次元だったり予想を外して別にどこにも移動していないのならばいいのだが、まぁ。見知らぬ場所にいることは確定的なので、私は不安な気持ちを押し殺すようにそっとたまごに手を伸ばし、そろそろと抱きしめた。
 なんとなく、抱きしめていると落ち着くのは抱きかかえるのに丁度いいサイズだから、それともこれが生きているからか。多分有精卵っぽいよな、と思いながらたまごを撫でて、私はさて、どうしよう、と首を捻った。

「・・部屋の様子からみるに、文化レベルはあんまり違いはなさそうだけど・・・」

 少なくとも古き良き日本みたいな感じではない。それだけでもほっとしつつ、いやいっそそれぐらい遡ったほうが楽だったのかしら、と思わないでもなかったが、どちらにしろ面倒には違いないので私はため息を零す。
 人に合っていないからどうとも反応ができないのがもどかしいが、かといって見知らぬ場所でいきなり外に飛び出るのは危険すぎる。冷静に、冷静に。だいじょうぶ、初めてじゃないんだし。悲しいことに。
 幾度、いや幾度もあることじゃないんだけど、それでも何度かこういうことはあったのだから、取り乱さずに冷静に。状況分析に努めるのだ。自分に必死に言い聞かせながら、もう一度ソファに戻ってゆっくりと腰かけた。
 まぁ、いきなり未確認生物が跋扈するジャングルに放り出されなかっただけでもマシと思わなければ。うん。あのヒエラルキーの底辺三角形の最下層に位置していた決死のサバイバルでないだけマシと思え。
 こうやって座ってのんびりと考察できるのだから、恵まれてるよ、私。生まれ変わったわけでもないんだし!

「あぁでも意味わかんない・・・」

 何故に巻き込まれた自分。そもそも学園長がうっかり呪文唱えたりするから!ていうかあんなのであっさり発動するのもどうなの!てかたまご限定なんだから私すり抜けてたまごだけ返せよ!なんで私まで道連れにするんだよ!日向先生なんて保健委員会みたいに不運に巻き込まれて苦労すればいいんだ・・・!
 ふつふつとわき起こる不満を押し殺しながら、しかし現状、この部屋で読み取れるものなどたかが知れている。テレビを勝手につけるのはやはり気後れするので一番の情報源だとしても手が出せず、じっと黒い画面を凝視して結局人がくるまでわからないままなのかなぁ、とどさ、と背もたれに背中を預けると、しばらくして部屋の外に続くであろうドアの向こう側が、にわかに騒がしさを訴え始めた。話し声と、足音。近づく複数の人の気配に、背もたれによりかかっていた体を起こして少しだけソファの上を移動した。端によって、ドアからの距離をほんの少しだが稼いで、気配を探るように意識を向けながら、きゅっとたまごを抱く腕に力を込めた。
 半ば反射的な緊張だが、相手が何者かもわからないので、致し方ない。ドアを注意深くみていると、やがて話し声とともに、割と勢いよくドアが開いた。もうちょっと大人しくは開けれんのか。小さな突込みは胸の内だけですませて、部屋に入ってきた人影に、私はぴくり、と眉間に皺を寄せた。・・・・うん?

「あ、目が覚めてる!ノボリ、あの子起きてるよ!」
「少し静かになさいまし、クダリ。相手の方が驚いておられます」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・派手だな、色々と。部屋に飛び込んできた白、そのあとから続く黒。なんだか色こそモノトーンだが、形がいささか奇抜なコートに身を包み、全く同じ顔をした、しかしまったく違う表情をした双子が足音も荒く近づいてきた。正確にいえばドタバタと忙しない足音なのは白い方の人で、黒い方の人は割と静かに近づいてきているのだけれど。そんな見知らぬ双子を眺めつつ、思わず視線が向かうのは開き気味の動向でも不自然なまでに吊り上った口角でも下がった口角でもなくて、顔の横のやたら鋭角的なもみあげである。・・・どういう形・・・?
 ていうかあれはもみあげ?もみあげなの?なんか、うん。武器にできそうな感じでとっても鋭い。堅そうだな、とかどうでもいいことを考えていると、白い方のお兄さんが、ソファの端に腰掛ける私の前にずいっと顔を近づけて満面の笑みを浮かべた。まぁもともと笑顔だったけど。

「ね、もう大丈夫?痛いところない?」
「え?えっと・・・はい。特に問題は」
「そっか、よかった。ホームで倒れてるんだもん。ぼくとっても心配した!」
「ホーム?・・・すみません、ご迷惑をおかけしたようで・・・」
「いえ、こちらこそお客様を巻き込んでしまい申し訳ございません。此度の不始末、ギアステーション一同心よりお詫び申し上げます」

 テンション高い上に、見た目に反してどうにも幼い口調の男性に困惑しつつも、面倒をかけたことを謝罪すれば、むっつりと仏頂面で黙っていた黒い方の男性が、きっかり九十度腰を曲げてやたら丁寧な口調で逆に謝ってくる始末。
 事情が呑み込めず(知らない単語が出たな・・ギアステーション?)疑問符を浮かべながら、きっちりと下げられた頭に狼狽えて視線を泳がせた。

「いえ、そんな・・すみません、私、今どうなっているのかよくわからなくて・・・」

 謝ってくる理由もここがどこなのかもさっぱりなのだ。どういう反応が正しいかもわからず、困ったように眉を下げると、白い方の男性がやっぱり口角を持ち上げたままこてん、と小首を傾げた。いい年した成人男性のように見えるのになぜかその仕草に違和感を覚えないのは、彼が持つ雰囲気のせいだろうか。

「覚えてない?君、駅のホームでトレーナーのバトルに巻き込まれて気絶してた」
「バト・・・!?え、なんですかそれ」
「こちらの管理不行き届きにございます。ただバトルするだけならいざ知らず、他のお客様を巻き込んでしまうとは・・・誠に申し訳ございません」

 え、なにその不吉な単語!ここ物騒な世界なわけ!?バトルとかどうとうか、全うに生きていればまずあまりきかないような単語に、しかも駅のホームで起こるとか?なにそれ超危ない。それに巻き込まれたという解釈はいまいちわからないが、どうやら私のポジションはそのバトルに巻き込まれた被害者?のようである。
 そしてここが駅の・・恐らく職員の休憩室かなんかそういう部屋だということをおぼろげに察して、はぁ、と曖昧な返事を返した。

「もう、最近のトレーナーマナーがなってない!ここでバトルしていいのは電車の中だけ!」
「確かに、最近のトレーナーの中には目に余る行為をされる方が増えていらっしゃいますね。こちらもなんらかの対策を取らなければ・・・」

 いや電車の中もダメだろ。人が密集してない外でやれよ、あるいはそういう専門の施設でやれよ。駅でなんのバトルか知らないが、やらかしちゃだめだろ。なにかずれた発言をしているお兄さん方にひっそりと突込みをいれて、とりあえず物騒そうな世界、という認識で私は眉間を解すように指を添えた。うむ。さっぱりわからんぞ。
 ぷんぷん、と擬音が似合いそうな頬の膨らませ方で怒っているお兄さんに、至極真面目な顔で同意をしている黒いお兄さんは、それはそうと、と話を切り替えるようにどこか威圧的な・・・隣が常に笑顔な分嫌でも目に付く無表情と、やっぱり開き気味の瞳孔で見下ろしてきて、ひっと思わず肩をすくめた。帽子の影も相まって怖いんですけどお兄さん・・・!

「目が覚めましたら、是非にも病院に。見たところ外傷はないようですが、バトルに巻き込まれたのですから検査は必要かと」
「え?あ、でも・・・」
「大丈夫!お金ならこっちが出す。今回のこと、トレーナーとぼくたちのせい!だから安心して?」
「そうでございます。貴女様は何もお気になさらず、病院で検査を受けてくださいまし。もしものことがありましたら大変にございますから」
「はぁ、何から何までありがとうございます・・・?」

 まぁ、バトルに巻き込まれたとかどうとかははっきりいって不明なわけだが、代金も向こうが支払うって言ってるんだし?外にも出れるし、こうなればきっとどんな物騒な世界だとしてもきっと安全は保障してくれるんだろうし?
 状況把握のためにも、ここは逆らわずに流れに身を任せた方が吉、かな。断ってもなんかゴリ押ししてきそうな気がしないでもないし・・・。とりあえず、向こうがなんか勝手に色々進めてるんだから、一旦それに任せて、現状が理解できるまでは無難に沈黙を守っていた方がよさそうだ。・・・理解できんのかな?これ。
 とりあえず今出てきた単語の中でも、やっぱり自分のいたところとは違うっぽいな、と諦めのため息を零すと、白い方のお兄さんが、そうだ!と声を弾ませてずい、と顔を近づけてきた、 
その近さに咄嗟に体をのけぞらせると、お兄さんはなんかもう常に笑顔すぎて怖いというほかない笑顔で、楽しげに口を開いた。

「君の名前、まだ聞いてない!教えて?」
「あ、そうですね。名乗らずにすみません。私は中村透子と申します」
「トオコだね!ぼくクダリ。サブウェイマスターしてる!」
「同じく、わたくしサブウェイマスターのノボリと申します。トオコ様、動けるようでしたらわたくし共と病院に向かいましょう」

 楽しげに自己紹介をする二人に、サブウェイマスターとはなんぞや?なんて聞ける空気でもなく。かといってノボリとクダリとかまた変わった名前だなぁ、なんて失礼なこと言えるはずもなく。
 とりあえず、白い方がクダリさんで、黒い方がノボリさんなんだな、とまるでいつぞやの変装名人と大ざっぱな先輩を思い出しつつ、まぁでも表情が真逆だからわかりやすいよな、と私は曖昧な笑顔で、差し出されたノボリさんの手を取った。
 ・・・・・・・・そういえば保険証とか身分証も何も持っていない状態だが、大丈夫なのかな?ここがどういった世界かはわからないが、身分を証明できるものはこの世界に何一つとして存在していないだろうことに、一抹の不安がよぎった。・・・・それに、このたまご、どうしようかな。抱きかかえたままのたまごの処遇も頭を悩ませつつ、わが身に起こった一大事に、ガンガンを頭が痛む思いで、もう一度、ひっそりとため息を零した。





飛ばされた世界は携帯獣の世界でしたー!ついでにいうとBWの世界?
詳しいことはさっぱり知りませんので適当に誤魔化しつつ捏造しつつ。ポケモンが何がいるとかどんな技とかどういうシステムとかさっぱり知りませんよ。キャラのおおざっぱな把握しかしてませんよ。
でもあまりにもこの双子が素敵だったので書きたくてしょうがなかったのです。うふ。前ネタで▲さんと手持ちのシャンデラたんネタもあったかと思うけど、書きやすさ重視でトリップした傍観主にしたよ!
ちなみに桐林のPM知識は初代赤緑青ぐらいまでですので傍観主の知識もその程度です。ファイアだのリーフだのゴールドシルバーパールダイヤモンド諸々知りませんからあしからず!

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