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「例えばの話」

 この学園に入学を果たして早六年。当初は三年程度で辞めるつもりだったのに、なんでまだいるんだろうか私。まぁあれだ。学費が勿体無いから折角だし卒業までいたら?という貧乏性とか学園の友達とかまぁ色々な要因が重なり合っての結果が現在ではあるのだけれど。
 幸いにして行儀見習いが前提なものだし、実習先で命のやり取りをすることはほぼないからよかったのだけれど。全くなかった、とは言えない。それでも色の実践とか戦忍ばりのやり取りがなかったのは、行儀見習いという「忍」になる前提がなかったからだろう。だって行儀見習いの娘が旦那でもない相手に対して操あげてどうするよ。恋人相手ならまだしもそうでないのは色々と問題が出る。人殺しも然り。行儀見習いはあくまで行儀見習い。術は学んでも実際にその手を汚すわけには行かないのだ。男の場合はね、差別ではないけど行儀見習いとはいえ普通にあるんだけどねーそういうの。男子は戦で旗あげろ的部分あるしね。女子はそうもいかないんだけれども。
 あぁそれでも今回の実習は疲れた。潜入調査って大変なんだよねぇ、時間がかかるし。それでもなんとか課題は終えられたのだからよくやった私。一般人に潜入調査の技術なんぞいらん、とは思うけれどこれはあれだよね。人生生きるために必要な処世術とか身につけろってことなんだよねきっと。
 疲労の溜まった体をもたもたと動かしながら、一人寂しく学園の門の前に立つ。仲間がいないのは単純に六年生が私一人だけだからである。なんとも言えない空虚感を覚えつつも、早く小松田さんの気の抜けた声を笑顔がみたいなーと門の扉を叩いた。小松田さん見ると帰ってきたって感じがするんだもの。
 どんどん、と叩きながら「小松田さーん」と声をかける。・・・・・・・・・・?

「あれ、おかしいな」

 いつもなら割りとすぐに顔を出してくれるのに。どじっこへっぽこ事務員ではあるけれども、この仕事だけは恐ろしいほどの執念で成し遂げる「サイドワインダー」の二つ名を持つ人物を思い浮かべながら、どんどんどん、と門を強く叩いた。いやだって、中から閂かけられてるから外からじゃあけられないんですよ。

「え、なに私締め出しくらってる・・・?」

 一向に出てこない小松田さんに、この際ヘムヘムでもいいから誰か出てきて欲しいと切実に思う。疲れてる体になんという仕打ち。あんまりだよ今日が私の帰還日って一応知ってるよね?!
 しーん、と虚しくも返ってこない反応にめそりと落ち込み、私は大きく溜息を吐いて門から一歩下がった。
 こうなっては塀から侵入する他ない。あぁ、疲れてるのになんでそんな余計な運動しなくちゃいけないの・・?というか本当、塀から侵入とかしたくないんですけど。溜息をついて背負っていた荷物を下ろして装備品を漁る。いや、さすがにジャンプ一つで塀に飛び乗れる身体能力は持ってないんで・・・。
 そしてある意味忍者の七つ道具とも言うべきポピュラーなそれ・・・手の形をした鉄のそれの先に縄がついている、所謂鉤縄というものを取り出してぶらんと垂らす。
 それをぐるぐると回しながら、狙いを定めていると、不意にガタガタ、と門扉のほうから音が聞こえ、私は鉤縄を回す手を止めて音のした方を振り向いた。あれ。

「へむーへむへむ?」
「あ、ヘムヘム。小松田さんの代わりにきてくれたの?」
「へむへむ!」
「そっか。ありがとう。入門票は?」
「へむ」
「小松田さんが出てこないとか珍しいねぇ。別の仕事でもしてるのかな。開けてくれてありがとうヘムヘム。ただいま」
「へむへむ」

 携帯用の小筆をヘムヘムに渡して、青い頭巾に包まれた頭をなでると気持ちよさそうにヘムヘムが目を細める。その可愛らしい顔に和みながら、道具を片付けると私は開けられた門を潜ってやっと学園内に帰還を果たした。あぁ。

「帰ってきたー」

 ほっと息を吐いた私は、知る由もない。
 私がいない間に天女様が落ちてきただとか、学園内が桃色空気だったとか、実は天女さまの性格が割りとあれな方向性だったとか。
 実習から帰ってきて疲れている私に、そんな珍事が予想できるはずもなかったのだ。

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