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「言霊返し」

「いいじゃない、名前ぐらい国広にあげなさいよ」
 あの子だって山姥切だし、この本丸ではあの子が山姥切なんだから。後から来たんだし、本科でしょ?持てるものは与えるべきなんでしょ。今まで写しのことで悩んで苦しんできた国広のために、あなたの写しのために、名前ぐらい譲ってあげてよ。事も投げに、何故そんなことに拘るのか理解できないという顔で。たかが名前で、と呆れさえして、それだけのために長く揉め事を起こす気はないと。今は戦争中で、歴史のために戦っていて、だから内輪の些細なことにいつまでも拘っている暇はない。だからさっさと譲ってしまえ、と、審神者は言う。人の子は言う。名前なんて小さなことで煩わせないで、と。真贋問題は根本的なことだからしょうがないけど、名前なんて、別にどっちが持っていたって変わらないでしょ、と溜息を吐いて自分にとって思い入れがない物に対して妥協しろと、強要してくる。
 周りの目も知らず。心も知らず。言葉も聞かず。いや一部。一部はその言葉に同意しているのだろうか。恐らく、審神者の霊力と親和性が高かったのだろう。侵されて、付喪神のなんたるかを見失ってしまった哀れな同胞。人に近づきすぎてしまった、寄り添いすぎてしまった愚かな同胞。

なんて、無様な。

 
我らは人ではないのに。あくまで人とは異なるのだと、線を引かなければならないのに。見誤った同胞に呆れが走る。
 慕いすぎて、愛しすぎて、境界をあやふやにしてしまうなんて、どちらの為にもならないのに・・・我らの方が、きちんと節度を持たねばならなかったのに・・・なんて愚かな付喪神。

そうして、その結果がこれだ。

 可哀想なのは人の子だろう。勘違いしてしまった人の子。あまりに彼らが優しいから。甘く、寄り添い、慕ってくれるから。
目に見えるものだけを真に受けて、人に近いから人のようだと安心して。あくまで人の「ようだ」と、理解しなくてはいけないのに、人とヒトならざる物の区別を間違えてしまったのだね。
 甘やかして、近づきすぎて、勘違いさせてしまった。
 それは罪だ。我々の罪だ。怠慢で、許し難い大悪。
 ならば、正さなければならないだろう。勘違いしてしまった人の子に。勘違いさせられてしまった可愛い人の子に。


君と俺は、決して同じ場所になど立っていないと。


「名前程度と、言うのだね」
「そうよ」
「俺にとってはとても大事なものなのだけど、それでも与えろと?」
「大したものじゃないでしょ?国広だって持ってる、あやふやなものじゃない。時が経てばいくらでも変わるものなんだから、髭切みたいにおおらかに構えたら?意地を張る方がみっともない」

 駄々っ子みたいで、あなた格好悪いわ。
 やれやれ、と肩を竦める。その姿に笑みをはいて、吐息を零した。
 ふふ。そうか、駄々っ子か。そうかそうか。ーーーならば。

「いいよ」
「あら」

 承諾すれば、一瞬驚いたように瞬いて次に嬉しそうに破顔する。
 信じられないものを見たとこちらを見る同胞と、嬉しそうに笑う人の子と、青褪める写しの子を眺めて、目を細めた。

「いいよ、譲ろう。与えてあげよう。でも一方的なのは、不平等ではないかな?」
「そう?・・・そうね、確かに譲ってくれたのに、こちらは何もあげないのは不平等ね」

 じゃあ、あなたは何が欲しいの?欲しいものをあげる。でも山姥切はやめてね、折角丸く収まったんだから。冗談めかして言う人の子に、こちらも笑う。言わないさ、そんなこと。山姥切は写しに与えよう。君があげろといったから、それに従おう。その代わりにとはいってはなんだけれど。

「君の名をくれないか?」

 ニィ、と口角を持ち上げて。
 瞳を細めて、笑いながら。
 軽く。雑談めいて。ささやかな願いだと嘯いて。
 目を見開き、固まる人の子よ。さあ、俺に与えておくれ?

「え?」
「聞こえなかったのかな?君の名前をおくれと、いったのだけど。あぁ、審神者名ではなくて、君の、人の子としての名前だよ?」
「山姥切!お前、何を考えてっ」
「その名はお前のものだよ山姥切。さて。何か可笑しなことを言ったかな?」

 わからないなぁ、とぼやいて首を傾げる。ざわめく周り、顔から血の気を引かせる人の子に、やさぁしぃく微笑んで、ねえ?と、囁く。
 びくりと震えて、喉を引攣らせる人の子を、哀れにも思うし、可愛いとも思う。

「そ、そんなのできるわけないじゃない!!」
「どうして?」
「ど、どうしてって、当たり前でしょ!?名前なんて、あげられるわけが、」
「大したものではないのだろう?」
「え」
「君が言ったんじゃないか。大したものじゃない、あやふやで、移ろうものだから、名前ぐらい、あげればいいと」

 
あ、と口をまぁるく開けてカタカタと手を震わせる。血の気の引いた顔に、恐怖に引き攣る顔に、言ったじゃないか、と朗らかに告げる。
 同胞が人の子を庇うように前に出て、制止してくる。もうそのぐらいで、と、許してやってくれ、と人の子を哀れんで、こちらを止めて。ああ、馬鹿だね、君達は。止めるのなら、今じゃなかった。もっと前に止めるべきだった。主人可愛さに己が身の可愛さに、時を逸したのならばそれは大層な愚鈍の集まりだ。くすくす笑みが零れる。あまりに遅い制止に、同胞ながら実に愚かだと見下した。
 主は間違えた。人の子同士であるかのように接してしまった。違うのに。俺と主は異種族で、その周りにいるものだって人間ではないのに。
 ヒトならざるモノと相対する時、発する言葉には気をつけろと、あれ程政府からも教えられたのに、周りが優しいから忘れたの?
 
 なんて馬鹿で愚かで素直で愛しい、人の子よ。
 間違えたから、言の葉を紡いでしまったから。出たものは取り消せない。取り返しはつかない。だって君は言ったでしょう?

「欲しいものをあげると、君は言ったね。この大勢の付喪神の前で、君は確かにそういった」

 言の葉は確かに聞き届けられた。
 誰も止めず、否定もせず。
 ここにいる全てが受け入れた。何より君自身が言ったのだ。ならば、責任を。紡いだ言葉の後始末を。

「名前ぐらいと言うのなら、名前ぐらい俺にくれてもいいだろう?君はダメで、俺にだけ譲れなんて、そんな駄々っ子みたいなみっともない真似、君はしないだろう?」

 ああ、どうして泣くのかな?
 まるで小さな子供のようだね。まあ俺からしてみれば赤子にも等しいけれど、だけど君は人の世ならば立派な大人だ。泣いて済むだなんて甘いことを考えてはいないよね?
 許して、ごめんなさい?どうして謝るの?名前なんて大したものではないと言ったのに。等価分を貰うだけなんだが、それの何が嫌なんだい。
 まあ、なんにせよ。


「約束は守らなければね」





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〔つっづきから!〕

「祖は天司にあらず」

 赤い瞳が優越感を浮かべてとろりと蕩け、唇が隠しきれない愉悦に三日月型にしなる。そろりと伸びた手が戯れのように夜闇よりも尚深い黒髪を指先に絡め取り、寄せた頬を擦り付けるように頭部に寄せると鼻先を埋めた。はだけた衣服から見える呼吸で大きく膨らむ胸部に、嫌悪感が否応なく増して知らず眉間に皺が寄る。剣呑に睨みつけると、白い指先がべしり、と堕天司の顔を押しのけた。

「ベリアル、邪魔」

 鬱陶しげに、ため息交じりの拒絶が赤い唇から零れる。白い手が堕天司の顔をぐいぐいと押しのけると、わざとらしくつんと唇が尖った。正直いって気持ち悪い。元々嫌悪感しか湧かないような男だが、より一層不快度指数を爆上げにしていく顔に視線も冷ややかなものになる。だが同時に2人の体が離れるとその不愉快さも少しばかり鳴りを潜めた。いや、何故だ。関係ないはずだ。ほっと撫で下ろした胸に手をあてて顔を強張らせると、薄い瞼に一瞬だけ隠れた深海の暗闇が緩やかに視線を合わせてきた。ぎくり、と無意識に体が揺れる。

「団長さんはどこ?」
「・・・何の、用だ」
「シェロカルテさんから聞いてない?依頼をお願いしたいんだけど」
「依頼だと?その男を連れてか!」

 ふざけるな、と声を上擦らせると、女は首を傾げてゆっくりと後ろを振り返る。

「あんた、なにしたの」
「俺は俺の役目を真っ当しただけだな。それよりもサンディもああいってることだ、何も無理に人間なんぞに頼まなくてもいいだろう?」
「この広い空で人海戦術以外にどう探せっての。あといい加減離れなさい」
「俺達の女王様はつれないねぇ」

 肩を竦めてぴったりと寄り添っていた体を放す男の目が信じられないほどに穏やかだ。狡知を司る男は、例えその目に慈悲を浮かべてもそれは人を堕落させるためだけの偽りの慈悲だ。いや、あるいは本当に慈悲を浮かべているのかもしれないが、それさえも利用する相容れぬ存在のはずなのに、今あの男の真紅の目に浮かぶのはとろりと蕩けた蜜月以外に何もない。ぞっとする眼差しに肌を泡立たせ、男が傍に寄りそう女に再び視線を向けた。男以上に、黒がよく似合う女だ。まるで闇そのものが凝ったような―――その瞳から、目が離せない。
 その様子を、男がじっと見つめている目にも、気づかないまま。




〔つっづきから!〕

「Re;Life」

 パチリ、と脳で弾けたのはなんだったのか。いや、あるいはカチリ、とピースが嵌った音だったのか。
 茫然と自分の指先を離すまいとでもいうように握りしめる小さな手を見つめて、ポカンと呆けたように口を開けっ放しにする。
 ぎゅうぎゅうと多分力いっぱい握りしめているのだろうが、ちっとも圧力の感じられない手はきっと簡単に解くことができる。それをしないのは今脳内で起きたスパークへの処理が追いつかないからか、それともこの小さな柔い生き物を守らねばならないという本能か。多分どちらもなのだろう、と思いながら、まだ疎らに生えた薄い色味の頭髪と、同じ色をした両目の虹彩に息を呑む。


「豪・・・」


 呼べば、笑う。それが自分の名前だというように、何よりも無垢で無邪気な笑顔を浮かべて。その顔がかつてと重なって、茫然とした。あぁ、そんな。まさか、ねぇ、神様。
 
「豪?あら、それがこの子の名前?いい名前ね」
「烈と豪。うん。悪くないな」


 両親が笑う。覚えているよりもずっと若い2人が、幸せを絵にかいたような姿で。
 その姿に、反射的に口元に笑みを浮かべて嘘だろ、という呟きは飲み込んだ唾と一緒に喉の奥に落ちていく。再度視線を両親からずっと指を握って離さない「弟」に向けて、はは、と乾いた笑いを今度は零した。だってなんだかもう、笑うしかないだろう?
 現状、ぶっ倒れないだけマシな気がするが、帰ったら倒れてしまいそうだ、なんて、きっと弟と対面するまでわくわくと純粋に楽しみにしていたちょっと前の自分では考えられないことだろう。いや、今でも十分色々と考えられないところなのだが。
 だってそうだろう。自分は弟を「覚えて」いるし、両親を「若い」と感じ、そして自分を「知って」いるのだから。
 
「・・・なんていうんだっけ、こういうの」


 SFとかライトノベルとか、まぁそういうのは出てくる奴だったような気がする。気がするが、あまり突き詰めて考える気が今は起きず、手持無沙汰に握られたままの指先をゆらゆらと揺らした。それが楽しいのか弟はきゃっきゃと笑って、こんな時から人懐っこい奴だなぁ、なんて冷静に考えてみる。これから成長してよくて賑やか、悪くて五月蠅い。無鉄砲で馬鹿で向こう見ずで、だけど真っ直ぐで無邪気で憎めない、風のような奴になるのかと思うと―――あれこれちょっと矯正できたりとかできるんじゃないか?
 ちょっと脳裏を横切った可能性に先々の苦労を思い浮かべて揺れ動きながら、無邪気に笑う弟に相好を崩す。あぁ、まぁ、いいや。とりあえず。


「よろしくな、豪」


 記憶よりずっとあいた年の差で、昔よりもずっと「可愛い」と思える弟に年を取ったなぁなんて感想を抱いているなんて、誰にも知られない僕だけの秘密だ。




〔つっづきから!〕

「銀盤カレイド9」

 HEY!世界の大舞台でぶっ倒れて方々に大迷惑をかけた張本人、勝生勇利改め中村透子だよこんにちは!
 まぁこうなることはわかっていたけどもうちょっと根性だしてインタビュー終わるぐらいまでは耐え忍ぶべきだったなって病院のベッドの上で思ったけどしょうがないよね限界だったんだもん!
 ちなみに目が覚めたらチェレスティーノからは心配と説教と褒め言葉とよくわからない比率で延々泣かれちゃっておまけに携帯のラインやメールや着歴がなんかすごいことになっててちょっと携帯を見るのが怖かったかな!
 まぁぶっ倒れたときにはバックヤードに引っ込んでいたし且つインタビュー前という奇跡的なタイミングでかろうじてお茶の間に醜態を晒すとまではいかなかったし、選手陣にもあまり知られずに済んだのが不幸中の幸いだったね!
 いやだってさ、滑走した後の選手が意識不明で病院行きとか普通にメンタルにくるじゃない。不可抗力であり自業自得でもあるが、いらぬ動揺を与えたかったわけじゃない。彼らには最高の舞台で最高の演技をして欲しいと常々思っているし、できればその姿を近くで見ていたかったなぁと思うよ。だって普通に生きてたらこんな場所でこんなことしてないからね。まさに今この人生だからこそできることである。できるなら客席ぐらいで他人事としてみるぐらいのポジションが望ましいが、無いものねだりは空しいので諦めるよ!
 この大会には知り合いも出てるし、ヴィクトルの演技はスケーターとして生でみる機会があるならぜひとも見ておきたい一品なのは間違いないし!他の選手だって世界最高峰のトップ選手ばかりだ。彼らの演技を見るだけで勉強になるし純粋に感動できるのがすごいよね。ほら今私スケート選手じゃん?前世ではスケートなんて「どこでジャンプの種類見分けるん?」「点数どうやってつけてんの?」って流し見程度の知識だったのが今生ではもうバリバリわかるんだよ?理解できるんだよ?技術力も然ることながら表現力とかもおおよそなんとなくわかるわけですよまぁこれは人生経験を経て歌って踊れるアイドル達のマジカルミラクル現象を生で見たこともあるからっていう経験値もあるかもしれないが。
 つまり理解できる、それだけでもう見る価値あり。むしろ必見見なくちゃ損。なのにそれを見られなかったのがとても残念だが、まぁ今回に関してはちゃんと生きているだけで儲けものだと思うので、我儘は言うまい。
 いやぁ、あの発作は毎回毎回自分死んだと思うぐらいの衝撃だが、今回は輪をかけて無理をした自覚があるのでペナルティで命掻っ攫われても可笑しくないなって今思ったよ。うん。生きてるってことはまだやることあんだろ?って言われてる気もするが。


「本当にバンケットに参加するのか?無理をしなくてもいいんだぞ、勇利」


 そんなこんなでこの大会で最後にこなさなくてはならないとみられる大仕事を迎えるため、フォーマルスーツをきっかりと着込んでホテルの廊下で心配そうに身振り手振りを交えて言葉を重ねるコーチに左胸に手を置いて心音を確かめ、うむ、と一つ瞬きをする。


「大丈夫ですよチェレスティーノ。医者からもどこも異常はないと言われましたし、僕も不調は感じていないので」
「だが・・・」


 にこ、と笑顔を浮かべればチェレスティーノは眉間に皺を寄せて渋い顔をする。まぁ、あれだけ大袈裟に意識を飛ばせば、診断上何もなかったとしても心配するわな。
 今までが健康優良児且つ怪我らしい怪我もしてこなかった生徒が急にぶっ倒れればそりゃ動揺もするというものである。滑走直前からちょっと可笑しいな、という様子は見られていたので、余計にチェレスティーノの責任感を煽ってしまったのも私の落ち度だ。
 もしも止めていれば、な事態にならなくて本当によかった。違うんだよ、人様にそんな糞重たいもの背負わせたいわけじゃないんだよ。本当ごめんねコーチ!
 一応検査はして貰ったが、相変わらず原因は不明のまま。体自体に異常がどこにもなく精神的圧迫感から解放された結果ではなかろうかというのが大本の診断結果だった。その曖昧な診断にでしょうね、としか返せなかった私と違ってチェレスティーノは不満そうだったが、昔もこういうことがあったと言えば、私のメンタルを心配されたものだ。結構図太い自信はあるんですけどねぇ。しょうがないよねぇ人1人の人生色々歪めてますものねぇ。たかが1人の人間の人生と言うなかれ。勝生勇利のポジションって日本フィギュア界にとって結構、いや割と大きいのである。ある意味日本スケートの歴史、もっと言えば世界のスケートの歴史にも関与する中々のキーパーソンである。小さいといえば小さいし、大きいと言えば大きいが、影響が少ないかと言われるとむしろ大きいに分類する程度にはそこそこの人物である。その人物の中身が私。そして私の行動によって左右される人物たちも若干名。うん。刀剣男士がやってこないかすごく心配である。
 でもまぁまだ来ないからきっと許されてるんだと思いたい。それにまだ大仕事が残ってるしねぇ。この仕上がり具合によって私の人生目標の達成度が変わるのである。超重要だ。


「まぁそれに、仮にもメダリストですから顔だけでも出した方がいいでしょうし」
「仮にもとはなんだ仮にもとは。全く、お前のその自己評価の低さだけは中々直らないな・・・」


 エキシビジョンも体調不良で出演辞退ということをやかしてしまったので(意識不明状態だったから仕方ないんだけど)これぐらいは顔を出さないと・・・新規スポンサーも見つかるかもだし。お金って大事。
 溜息混じりに言えば、チェレスティーノが器用に片眉を動かしてふぅ、と首を横に振った。咎めるような呆れたようなねめつける視線に思わず首を竦める。それ昔っからよく言われるけど、だって、ねぇ?


「・・・未だに自分が3位入賞したなんて信じられないんですよ、本当に」


 ぼそっと呟き、いやもう本当、なんでそうなった?と私は小首を傾げた。だって3位だよ3位。3位入賞銅メダル。表彰台に登れるんだよマジで?と目をかっぴらくのは当然じゃない?まぁ表彰式は銅メダリスト不在で終わったけど。折角の晴れ舞台にいなかったのが自分らしいというかむしろぶっ倒れてありがとうと言うべきか。だってそんなことになったら私多分緊張で死んじゃう。しかし昏倒して目が覚めたベッドの上でコーチに説教されながらおめでとうと言われた私の混乱具合半端じゃなかったからね?ハグされながら何かの間違いじゃないの?と真顔で聞いたら笑いながらメダル渡されてもう一回ベッドの住人に戻りかけたんだからね?
 鈍く輝く銅色の丸い物体にまさかそんなミラクルが起こるなんて誰が予想しただろうか誰もしてないよ!!最下位だと思ってた!だって勇利最下位だったじゃん!ミスとか色々あったし点数そんなに伸びないと思ってたしていうかそんなこと度外視してやってたし!!
 こんな現実受け止められないよ!!嫌だこれなになんの罠なの返還するぅぅ!!と思わず叫べばめっちゃコーチに心配された。ごめんなさい錯乱してました。だってメダルとか!世界規模のメダルとか!!!!嫌だわ私には超重いんですけどなんでこれ今私の手元にあるん??もっと相応しい人いるよね?え?私?私ですか??と三度混乱。
 震える手でそっとサイドボードに置いた私悪くない。恐れ多くて触れない。やだ、今素手だったよ手袋買わなきゃ・・・!
 そんなこんなで厳重にタオルとかで包んでスーツケースに収めて保管している銅メダルは今後どう扱えばいいのかと頭を抱える。国内大会のメダルと一緒に並べていいのかな?いや気持ち的にやりづれぇ。喜ぶ前に恐れおののく私にチェレスティーノコーチが「その反応謎すぎる」とばかりに首を傾げて笑っていたのが印象的だったが、これ私じゃないと絶対わからない感覚だよね。アスリートでありながら一般人というこの矛盾。本当精神的に疲れるわぁ・・・。
 そんな通常とは違う疲労感を噛み締めながら、ホテルのホールで開かれる豪華絢爛な慰労会にコーチを伴いぬるっと参入する。まさしくぬるっと、である。よく「何時の間に来たんだお前」と驚かれるぐらいには気配もなく存在を溶け込ませることには慣れている。逆を言えば存在感がないともいえるかもしれないが、余計な人に絡まれなくて済むから楽なんだよね。チェレスティーノという隠れ蓑があると尚の事私の隠密スキルは輝くのである。体格的にも隠れるからね!あ、矛盾してるなこの表現。
 ていうか勝生勇利の顔が整っていないとは言わないが(ていうか割かしイケメンの部類だと思ってる)華があるかと言われるとそんなことはない、と言える程度の顔である。
 少なくともそこらでシャンパングラス片手に談笑している外国産イケメン共と比べると地味なのは否めない。意図的に地味にしているのもあるが、着飾っても見劣りするのは自明の理だ。卑下ではないと言うよ。客観的にみて、本当に、率直に、私という目線から見て、勝生勇利は決してブサイクではないし年の割にいささか童顔が目立つ部分もあるがそれでもカッコいいと言っても差支えない程度の顔面レベルであることは認めても、それが例えばスイスのクリストフ・ジャコメッティだとか、ロシアのヴィクトル・ニキフォロフだとか、そういう面子の顔面レベルに見合うかと言われると系統も違うことながらいや無理だよね、と言えるレベルなのだ。
 氷の上と土の上では大分印象が違うからなぁ勇利って。氷の上では目一杯努力して咲いているが、地面に降りれば途端に蕾になっちゃう朝顔みたいな男である。
 ていうか勇利の場合、根本的に顔で見せてるわけじゃなくて空気というか雰囲気でイケメンを語るタイプなんだと思う。顔はそれほどじゃなくても「なんとなくあの人カッコいいよね」と言わせる空気というか?それで多分外国産イケメン共と並び立ってるんだと・・・いやすごくね?顔じゃなくて雰囲気で並び立てるってすごくね?
 現自分ながら過去の勇利よ。やっぱりお前どこにでもいるフィギュアスケーターじゃないって。雰囲気で世界のイケメンと渡り合えるってすごいよ。さすが魔性のカツ丼。
 人間ってものすごい美形よりちょっとイケメンぐらいの方が手が届きやすくて親近感持ちやすいんだよね。人間顔だけじゃないんだよ。
 でも今はそのキラキラアスリートオーラは完全に消してどこにでもいる一般人になっているので皆さん見事に銅メダリストをスルーである。別の場所で美女やらアスリートやら大手企業やらに囲まれてちょっとした人の山が形成されている金メダリストと銀メダリストに比べると大層貧相な有様である。ああーこれは別次元の生き物だわぁ。大変そうだなぁ。そつのない笑顔で談笑してる辺り慣れているんだろうが、あれじゃ食事を味わう暇もないだろう。このローストビーフ美味しいのに。もぐもぐ。
 勇利もこうやって人に囲まれてキラキラしてる彼らをみて違う世界の人間だとか思って酒をカッくらって悪夢のバンケットにしたんだなぁ・・・絶対避けねばならぬ。
 まぁヤケ酒呑むような理由もないしする気もないから問題ないけどさ。おかげでゆっくりと食事ができます。基本的にコミュ症というかやっぱりあんまり関わりたくないなぁという意識が強いので、必要以上に目立つ彼らには本当に大助かりである。ていうかヴィクトルとは接触する気はないからね。これさえ乗り越えれば最早ミッションはコンプリートしたも同然だ。頑張れ私もうちょっと!
 でもこっちもお仕事というか必要最低限の挨拶回りというのはしなくてはならないので(スポンサーとかね)それだけはちゃちゃっと済ませるけど。とりあえず皆銅メダルおめでとうの後に口々に「素晴らしい演技だった」とか「あんなに感動したのは初めてだ」とか「一生忘れられない演技だった」とか過剰にお褒めの言葉を頂くんですがそれ誰の演技です?皇帝さんとかエロスの権化とかと間違えてないかな?まぁ日本人お得意のアルカイックスマイルで聞き流しましたが。自分の演技みてないしなんなら滑り終わった後の周囲の反応もあの時は全く認識できていなかったから、正直自分と周囲の評価の温度差が半端ないなって思ってる。私どういう滑りしてたんだろう本気で。
 首を傾げなら嗜む程度のお酒で唇を湿らせ、ほどよく空腹を満たし、同じ日本人選手と時々会話を弾ませ(やっぱり過剰なぐらい褒められるんだが、とりあえず皆感受性豊かすすぎない?)うろり、と視線を泳がせる。さて、あと1人話をしたらさっさと会場を後にしたいんだが・・・。グラスで顔を隠しつつバンケット会場を見渡し、流した視線に引っかかった影にこくり、とシャンパンを嚥下した。・・・見つけた。けどすぐには行かない。様子を探り、周囲に警戒すべき人影がないことを確認する。よし、ロシアの皇帝はどこぞの美女と楽しく談笑してるや。ならば今がチャンス。グラスを通りがかったボーイに渡し、颯爽と歩き出す。するするっとほろ酔い気分の重役たちの間をすり抜け、ちょっとふらついたイタリアの女性選手を軽く支えて送り出し、勝生選手!とかけられた声にハァイ、と手を振って、ずんずんと近づいてその小柄な背中に声をかけた。


「こんばんは、プリセツキー選手」
「っお前・・!」


 声をかければ、お酒はまだ駄目だろうから中にジュースが入っていると思われるグラスを片手に、肩を跳ねさせて勢いよく天使・・・基妖精・・・基世界ジュニア王者のユーリ・プリセツキーが目を見開いた。肩書き多いなこの子も。
 にこ、と笑うと眉間に皺が寄せられて、片側が前髪で隠れているせいで片目しか見えない緑色の目が険しく細められた。眼付けられてるような顔だが、これが彼の通常だと思いたい。そうでなかったら嘘くさくても愛想笑いぐらい咄嗟にできるように指導しないと彼の今後が心配だ。世の中笑っていれば大概なんとかなるものである。


「世界ジュニア優勝おめでとう。それから、あの時は本当にありがとう。助かったよ」


 ほらあの時お礼はあとでちゃんとするって言ったからね。言ったことは守らねば。それが私にとって危ない綱渡りでも、あの時は本当に天の助けかと思ったのだ。彼がいなければ滑れなかっただろうし、滑れたとしても3位入賞などできなかったことは間違いない。今後ああして私が滑ることもないだろうし・・・本当に、彼には感謝してもしきれない。
 微笑みながらお礼を述べれば、彼は眉間にぐぐぐっと深い谷間を作ってぎゅっとグラスを握りしめた。・・・割らないよな?薄いガラス製品に籠められる握力に咄嗟にそんな心配が浮かんだが、彼はちっと舌打ちをしてそっぽを向いた。ふわっと動きに合わせて肩上で切りそろえられた細い金糸の髪が揺れ動く。


「・・銅メダリストがこんなところで何やってんだよ」


 顔を背けたままぼそりと問われて、こんなところでって、と小首を傾げた。飲み食いしてますが?・・・いやまぁ暗に文化交流してこなくていいのかってことを言っているんだろうけど。


「最低限は済ませてきたから大丈夫だよ」
「ふぅん。あいつらは忙しそうだけどな」
「周りが放っておかないタイプだからね彼らは。特にニキフォロフ選手なんかはそういうタイプでしょ」


 あんなに華がある人なら蜜に群がる虫のごとく人が寄ってくるだろう。大変だな、としみじみとして言えば変なものを見るような目でプリセツキーが私を見る。


「てめぇだって、」
「うん?」
「っなんでもねぇ!はっそうだな。たかが3位のジャパニーズとじゃ格が違うって奴だな!」
「本当だよね。むしろ3位であることも信じられないよね」


 いや全くその通りだよプリセツキー。私が3位って何かの事故じゃないかな。そういえば私の後の滑走者達のミスが目立ってたっていうし、本当に運が良かったんだなー。まぁそれも勝負の世界では重要なものだし、殊更に卑下する材料でもないけど。
 いささか不自然に台詞を区切って、挑発的に鼻で笑った彼にうんうん、と深く頷けば、彼は酢を飲み込んだような顔をして、ハァァ?!と声を荒げた。え、なんぞ?


「馬鹿かお前!そこは同意するところじゃねぇだろ!?」
「え?自分で言っておきながら何を」
「うるせぇ馬鹿!あんな滑りを見せつけておいてふざけたこといってんじゃねぇぞこの豚!」
「豚?!」


 え、そこまで言う!?ていうかそんなに太ってないし!むしろ今絶好調に絞ってるところだし!!・・・え、太ってる?思わず自分の腹部に目線をやると、ブァァァカ!!と更に罵られた。・・・プリセツキー。これ私だからまだ聞き流せるけど普通にほぼほぼ初対面の人間にこんな態度取ったら村八分にされるところだよ。勇利の記憶で君を知っているし、精神年齢ピー才の私だから苦笑で終わるんだよ。他の人にしたらマジダメだからね。


「てめぇなんかにメダルは似合わねぇんだよ!来年俺がシニアに上がったら、てめぇの首に下げるメダルなんかねぇからな!ユーリは2人もいらねぇんだよ!!」


 びしぃ!と親指を下に向けて言われて、一瞬ポカーンと目を丸くする。とりあえずこういう場所でそういう指の形はよくないな、と思うが言いきってやった!とばかりに鼻を膨らませて胸を張るプリセツキーは見た目相応で大変可愛らしい。口は悪いけど。
 えぇとここはなんて返したら正解になるのかな?困惑したようにきゅっと眉を下げ気味に曖昧に口元を歪めたところで、ユーリ!!と雷が落ちてきたかのようなしわがれた低音が鼓膜を震わせた。それにげっとばかりにプリセツキーの顔が嫌そうに歪む。


「お前は!他国の選手に向かって何を言っておるんだ!?」
「うるせーのがきた・・・」
「ユーリ!!」


 ぼそっと呟いた声に地獄耳かと思われるほど俊敏に反応し、咎めるように鋭い声が飛ぶ。
 視線を向ければロシアの名コーチと名高いきらりと光る頭頂部が眩しい・・・おっと失言。厳めしい顔つきに風格を漂わせた老人・・・ヤコフ・フェルツマン氏がずんずんと足音も高く近寄ってきていた。顔を赤くさせてキリリと眦を吊り上げて、ギン、とプリセツキーを睨みつける。


「ここはバンケットだぞ。口には十分気をつけろとあれほど言っただろう」
「あーはいはい。耳にタコができるぐらい聞いたっつーの」
「聞いていたなら実行せんか!全く・・すまない、ユウリ・カツキ。うちの選手が失礼をした」


 グラスで塞がっていない方の手で片耳を塞ぎ、説教など聞きたくありません、とありありと態度に出してプリセツキーがつんとそっぽを向く。それに更にヤコフ氏が眦を吊り上げたが、一つ深く息を吐きだすと気持ちを切り替えるようにぐるり、とこちらを向いた。
 思わず成り行きを見守っていた私は突然視線を向けられ、あまつさえ謝罪をされてドキっと心臓を跳ねさせる。おお、完全に油断してた・・・!


「あ、いえ。気にしていませんので。競技者ですから、これぐらい強気でなければ務まりませんよ。むしろ、これほど向上心のある生徒に恵まれて、ミスターも誇らしいのでは?」


 ふふ、と笑みを浮かべてそれらしいことを返しておく。まぁ口の悪さは難だと思うが、強気でいることも相手に絶対勝つという気概も競技者には必要不可欠な代物だ。
 私にはそれが欠如してるからなぁ。競い合うって苦手なんだよね。勝ち負けにさほど拘らない性質だし。あぁそういえばこれが終われば私がスケートを続ける意味もないし、辞めてもいいんだよなぁ。年齢的にはまだ早いような気もするけど、フィギュアスケートという競技から考えれば早すぎるというほどでもない。GPFの銅メダルだし、そこそこ綺麗な終わりじゃないか?今まで成り行き任せに(ていうかほぼ強制的に)勇利の人生を辿るようにやってきたが、本来の目的は離れたところで囲まれてる銀盤の皇帝を生かすことだ。ロシアの至宝。生ける伝説。彼を死なせないことが目的なので、このバンケットが無事に終わればおおよそのフラグはへし折ったも同然。その後、無理にスケートを続けるよりはさくっとやめた方がよりフラグも折りやすいというものだ。
 あぁでもまた発作が起きるのだろうか?それはそれでなぁ・・・いや、今回みたいに反抗しようと思えばできるのだ。いっそそれで入院生活になったとしても、あるいは、死んだとしても。・・・勇利の願いが叶うのならば、それはそれで一つの道ではなかろうか。


「そんなにいいことばかりではないがな。そういって貰えるとこちらも助かる。我が強い奴らばかりだが、来シーズンでは更に飛躍してくれることだろう」
「自慢の生徒さん達なんですね。来年が楽しみです――プリセツキー選手が皇帝を下すところ、見てみたいものですね」


 くすっと口元をゆるめて、故意的に細めた目線をうっそりと向ける。大人同士のやり取り、とばかりに滑る会話をつまらなそうに聞いていた彼が、その一瞬目を見開いて次の瞬間にはにぃ、と口角を吊り上げた。


「ったりめぇだ。あそこでへらへらしてる男も、てめぇも。俺が全員ぶっ潰す!」
「ユーリ」
「来シーズンは荒れそうですね。・・・では、僕はこれで。楽しい時間でした。また機会があれば」


 頃合いだ。会話に区切りがついたと見て、軽く会釈をして踵を返す。ヤコフ氏も頷き、プリセツキーはえ、とばかりに目を丸くしていたが気にせずに背中を向けた。
 当初の目的は果たしたのだ。今後関わることはそうないだろう。大会でも被らなければそれこそ接触などしないだろうし、私に関しては今後スケートを続けるとも限らない。
 うんうん。中々理想的に進んでるぞ。このままバンケットを去って部屋に戻ればミッションコンプリートだ!ふふん、と鼻歌を歌いながら足取りも軽くホールを突っ切ろうとした最中、ぞわっと背中に・・・いや、正確には、臀部に悪寒が走った。

「銀盤カレイド8」

『こんな時に伝えることじゃないと思うけど、でも言わなきゃきっとあんたが後悔するだろうから』


 冷たい携帯の温度越しに、静かな姉の声が鼓膜にゆっくりと浸透していく。あぁ、聞きたくないなぁと思いながら、やけに乾いた口の中でヒュゥ、と浅く吐息が漏れる。


『勇利、ヴィっちゃんがね、』


 どこか遠くで、愛しい君の鳴き声が聞こえた気がした。



 フリーの滑走順は前日のショートの順位で決まる。ちなみにショートの滑走順はポイントの低い方からになるので、運の悪いことにファイナルにギリギリで滑り込んだ私が第一滑走者となった。基準になりやすいから第一滑走者は不利だと言われやすく、そしてトップバッターなんて緊張感は余計こと演者への負担となりやすい。メンタルが弱い選手なら尚の事、だろうか。まぁ、比較対象がいないという時点では気が楽な気もするけれど。少なくともヴィクトルの後の滑走でなくてよかったとは思う。あんなリビレジェの後に滑るなんて死んでもごめんだ。まぁほぼ現状ではありえないことだからいいんだけど。
 だからといって楽しんでいこうぜイェア!!と開き直れるほど私は自分に自信はなかったし、強くもなかった。コーチのチェレスティーノが必死にメンタルケアはしてくれていたけれども、日本人舐めないでほしい。謙遜が過ぎた自虐が趣味に近い民族ですぞ!
 まぁそれと、このGPFは私にとって、いや勝生勇利にとって運命の一戦といってもいい。色んな意味で、この大会だけは他のどの大会よりも私の中で重要度を占めている。
 次のシーズンも大概だけれど、私にしてみればこの試合以上に意味をもつものは今後ないといってもいいだろう。おかげでジャンプミスが目立って最下位だったがな!!さすがに全ミスとまではいかなったし点数差だってほぼほぼないも同然ぐらいのどっこいどっこいだから巻き返しは可能な範囲内だけど、最下位な辺りに私を感じるわぁ。どか食いをして調整失敗とかまではしてないけれど、これは最早メンタルの問題である。
 勝生勇利とある意味でヴィクトル・ニキフォロフの運命のGPFだよ?ここが人生の分岐点といいますか私の目的を果たすためには外せない要素である。緊張するなって方が無理な話だ。
 異世界転生繰り返して諸々血生臭いことまでやってきた人間が言うことではないかもしれないが、まぁ、こういう晴れ舞台はそういった事柄とはまた別次元の話だ。そういう意味では他の選手に比べて豆腐メンタルと言われても仕方ない部分はあるだろうなぁ。
  国際大会での成績?うんまぁ、日本人の中ではよくても世界的にみたら目立つことは無いよね!
 まぁそんなことはさておき初のGPFで諸々個人的事情が山積みになってる中でよく滑れたものだと自画自賛したい出来である。チェレスティーノも「フリーで挽回できる範囲だ。気にするな」って背中をバシバシ叩いて鼓舞してくれたぐらいだ。このままうまくできればあるいは、という淡い期待は、しかしこれこそ予定調和と呼ぶべきなのか。
 歴史はなぞるものなのか、それとも抗い続けるものなのか、答えは出ないけれど少なくとも運命は従うことを望んでいるのかもしれない。


「はっ、・・・ぁっ・・・ぅぐっ」


 人気のない廊下の一角で、壁に爪をたてて大きく口をあけて酸素を求める。でもいくら吸っても吸っても足りなくて、きりきりと引き絞られる心臓の嫌な音が耳の奥で木霊する。あぁ、やっぱりか。ずるずると壁伝いに床に座り込みながら、苦しみからか痛みからか悲しみからか、ぐちゃぐちゃに混ざり合って混沌した様子を表すように、私の頭の中も蕩けたように思考が纏まらなくなっていく。支配するのは激しく、本来の可動域を越えて脈打つ心臓と、酸素不足にあえぐ脳味噌。痺れる指先に、耳の奥で木霊する誰かの哀切の悲鳴。何一つ自分の思うようにならない体に苛立ちさえ覚えて、喘ぐ口元でぐっと奥歯を噛みしめた。立てた爪がギリリと壁を引っ掻く。
 ぐしゃぐしゃに握りしめた日本のナショナルジャージの胸元の下。皮と筋肉と血管、たったそれだけに阻まれた下にある心臓が、これほどまでに厭わしく思うなんて!!
 悲しみが悲鳴をあげる。執着が怒号をあげる。ガンガンと打ち鳴らされる鈍い音が頭に響き、どっくんどっくんと暴れる心臓が私を追い立てる。
 ここで意識を失い倒れれば全てが水の泡だ。それなのに容赦なくそれらは私から自由を奪おうとし、私の身体を支配しようとその手を絡めてくる。やめてくれ!と振り払いたいのに、一切の抵抗を封じるように痛みと息苦しさが私を覆い尽くす。
 背中を丸め、脂汗を浮かせてまともな呼吸もできないまま、どうして、とぽたりと目尻から汗が滴り落ちた。
 自身の身体で影になった床の上にぽたぽたと落ちた水滴が滲んだ視界に映って、力なく拳を打ち付けた。勇利、勇利!いや、運命か、銀盤の女神なのか。誰でもいい。どれでもいい。滑らなきゃいけない。それは義務だ。責任だ。他者を蹴落として掴んだ場所だ。滑りきる責任があるし、返さなきゃいけない恩がある。わかってる、私が望んだのかと言われれば、そんなことはないと言うだろう。別に立ちたくて立ったわけじゃない。やりたくてやっているわけじゃない。流されるままの人生だ。勇利のための人生だ。そのための手段でしかない。約束で、希望で、希われたからに過ぎない。だけど、でもね。


 ―――決して、疎ましく思ってるわけでもないんだよ。


 勇利の神様だって、冷たい銀盤の上にいるのでしょう?ねぇだから、お願いだよ。早くこの体を返してよ。
 願うのに、望むのに。それでもそれはダメなのだというように、あの時と同じ鼓動の痛みが全てを奪っていく。あぁ、ねぇ、おねがい。やめて。だって、切欠が、あの子だなんて。ブラウンの毛色。円らな瞳が私を見上げて、小柄な体で目一杯飛びついてきた。可愛い可愛い愛しいあの子。知ってるよ。どれだけ悲しかったか。わかっているよ。どれだけ辛かったか。傍にいられなかった罪悪感。看取ってあげられなかった後悔。もう、傍にはいない孤独感。もっと何かしてあげられたんじゃないか。こんな大会投げ出して、帰って傍にいることだってできた。寂しくなかった?苦しくなかった?辛くなかった?あぁ、大好きなあなた。もういない彼の、大切な。
 でもそれは、もう「勇利」だけのものじゃない。
 そうだ、と目を見開いた。四つん這いになった床の上で、奥歯をギリギリと噛みしめて、自らの身体に爪を立てる。
 私は勇利だ。勇利は私だ。だけど、私の心は私のものだ。私だってあの子が大好きだった。今でも好きだ、愛してる。私の大切な、唯一の共有者。
 勇利。君がその悲しみで心を砕くのなら、それならば―――


「おい!どうした!?」


 唐突に、肩を掴まれてぐいっと引っ張られる。反動で捻った視界に、さらりと滑る、金色。あれ、天使?咄嗟にそう思った私は実は思ったよりも余裕があったのではないかと後で振り返った。今はそれよりも、フードを被った下の、まだあどけなさの残る険しい顔に、呼吸も忘れて魅入ることしかできない。険しく寄った眉間の皺。緑色の瞳は苛立っているようでその実心配そうに揺らいでいるのがわかる。白い面は透き通るようで、なるほど妖精とは言い得て妙だと思った。いやでも、まさか、どうしてここで。


「ユーリ、プリセツキー・・・?」


 乾いた口から掠れた声で名前を呟けば一瞬ピクリと眉を動かして、ちっと容姿に似合わない激しさで柄も悪く妖精が舌を打つ。ロシアンヤンキー、と脳内でテロップが流れると、彼は肩を掴んだ手をそのままに声を荒げた。


「こんなところでなにやってんだよ。具合悪ぃならとっとと医務室に行きやがれ!」


 乱暴な口調で、だけど私の顔色をみてか彼はもう一度舌打ちを零すとジャンパーのポケットに入れていた携帯を取り出した。あぁ人を呼ぶのかなぁ、と思った整えられた指先がスマフォの画面に触れた瞬間、さっきまで動かすのも苦痛でしかなかった腕が反射的にその手を握りしめた。


「やめて!」
「っあぁ?!」


 張り上げた声は思ったよりも大きく出た。あぁ、なんだ。私、声出せてる。
 突然動きを妨げられて、ぴしっと彼の米神に青筋が走った気がする。ドスの利いた低い声でなんで止める、とばかりに睨みつけられたが、臆する前に私は自分の体が、呪いのように締め付けられていた心臓が、目の前の存在に気を取られているかのように収まっていることに気が付いて、はっと息を零した。回らなかった空気が、今、全身に行き渡る。――――なんてことだ!


「・・・っありがとう!」
「は?おい、なんだてめっ!?」


 変態だとか不審者だとかキチガイだとか、そう思われても構わない!
 まだ発達途上の未成熟な細く小さな体に飛びつくように抱きしめて、その温かさを受け入れると深く息を吸う。動く。心臓はまだ五月蠅いし頭はガンガンするし手足はぎこちないし顔色は多分死人みたいに最悪だろうけど、だけど今、この体は、私の意識の統率下にある。それなら、私がやることは一つだけだ。
 最後に一度、縋るようにきつく抱きしめてから勢いよく体を離す。突然のことに呆気に取られたように険の取れた顔はあどけなく、ポカンと口を開けた顔は子供らしい。愛らしい顔に微笑んで、スパシーバ、と今度は彼の母国語で感謝を告げた。


「突然ごめん。あとできちんと謝罪するよ。それと、心配してくれてありがとう」
「なん、」
「――君のおかげで、私は滑れる」


 「私」が、滑れる時間をくれてありがとう。まだ乾いていない汗が顎先から落ちて、よろりと立ち上がる。まだふらつく足元で咄嗟に壁に手をつくと、彼ははっと瞬きをして正気に返ったように廊下に座り込んだまま、おい、と震える声で話しかけてきた。


「だ、大丈夫なのかよ?」


 大丈夫かそうじゃないかと問われたら大丈夫ではないけれど、それを言ったらこの少年をただ心配させるだけだろうし万が一止められたら困るので、そっと口元を持ち上げて微笑むだけに留めた。それに何を感じたのか、ひゅっと息を止めた彼に目を細めてその横を通り過ぎる。足元はおぼつかない。心臓は暴れてる。頭がガンガン痛むし、全身の倦怠感なんて今から滑るのにまるで滑り終えた後みたいだ。
 あぁ、でも、いいね、初めてだ。これだけ絶不調で多分滑れても大した結果も出せそうにないけど、それでもこの時間は勝生勇利のGPFじゃなくて、私の、私だけの4分30秒になる。―――それを申し訳ないと思うけど、だけどごめんね。今日この時の、このスケートだけは、私に頂戴。君が悲しみに暮れるのなら、喪失に嘆いて滑れないのなら、どうかその時間を、私の私情に使わせて。


「勇利!どこに行っていたんだ?もうすぐ6分間練習が始まってしまうぞ」
「ごめんなさいチェレスティーノ。少しトイレにいってて」


 いなくなった私を探していたのだろう、額に汗を掻いたチェレスティーノコーチが、大仰に声をあげて少しだけ咎めるように目を細めた。
 それに眉を下げて殊勝に告げれば、彼は私の顔色を見咎めたように眉を動かしてそっと浅黒い手を伸ばして頬に触れた。


「勇利?本当に大丈夫か?顔色がひどく悪い・・・それに汗もこんなに。一体どうしたんだ?」


 もしも体調が優れないようならば、と言いかけた彼の手を取り、ぐっと強く握りしめる。一旦言葉を止めて、チェレスティーノは私をまじまじと見下ろした。


「勇利・・・?」
「大丈夫です。緊張、してるだけだから」


 心臓がまた騒ぎ始める。迫る時間。リンクの冷たい温度が頬を撫でる。少しだけ顔を俯かせて、きっと彼を心配させてしまうなと思いながら、するりと手を放した。
 ジャージのジッパーを降ろして、外したエッジケースと共にチェレスティーノに押し付けてリンクサイドに寄る。他の選手はすでに近くでスタンバイしていてその様子を眺めて、ふと一番目立つ存在に目を止めた。
 こちらを見もしない、紫色の衣裳を纏った銀色の皇帝。周りなんて気にしない。多分興味もさして持っていない。孤高の王様。氷の上の神様。――勝生勇利の、最愛。
 とくり、と心臓が跳ねて、ふっと笑みが零れる。だけど、私のこの世界の最愛は、違うヴィクトルに捧げてる。うん。ならまぁ、関係ないか。――今、この瞬間だけは。
 アナウンスが流れる。飛びだして入り乱れれば、それぞれの動きが見える。氷の感触を確かめて、ジャンプを確認して、動きを確認して。イメージする。自分がうまく出来たときのこと。文句のつけようもない滑りができたときのこと。わっと歓声があがる。誰かがジャンプでも飛んだかな。ちらっと視線をやれば銀色の彼だった。ああなるほど。見惚れるほど綺麗なスケーティングだ。それを涼しい顔してこなすのだから、恐れ入る。
 見入ったようにとくとくと一定の音を刻む心臓に単純だなぁと思いながら、こっちもジャンプの体勢に入る。跳んで、あ、回転足りない。着地は、まぁまぁ。
 うん。大丈夫。跳べてる。滑れてる。でもまだ体が動きづらい。今は静かでも、多分この心臓はもう一度暴れるだろう。けれど、譲らない。どれだけみっともない姿を晒しても、惨めな形で終わっても。


 この時間だけは、譲らない。
 
 練習時間が終わって、他の選手たちがリンクサイドにはけていく。残るのは第一滑走者の私だけ。SPもFSも一番なんてほんとついてない。まぁ今回のは実力だから仕方ないけど。籤運だけはなぁ。勇利の籤運ほんとないわー。
 フェンスによって、そこで待っているコーチに視線を向ける。息が荒くなる。あぁ、頭が痛い。指先が痺れていく。心臓、煩いなぁ。


「勇利、大丈夫だ。お前のスケートをしてくればいい。自信を持って滑るんだ」
「・・・チェレスティーノ」


 励ますように肩に手を置いて、真っ直ぐに視線を合わせるコーチにひたと目を合わせ細い声で名前を呼ぶ。うん?と優しい声で相槌を打たれて、ふわっと手を伸ばした。


「――ごめんなさい。「私」が滑ることを、どうか許して」
「ゆうり・・・?」


 首筋に縋りついて、その肩口に顔を埋める。戸惑う様子に(そりゃそうだ。私がこんな態度を取ったことは今まで一度もないし、ハグを自らすることもほぼない)すり、と頬を寄せて、泣きそうな声で許しを請う。譲れないから、これだけはどうしても伝えたいから、「勇利」でないことを、今この時だけは見逃して。それは勇利に向けているのかそれとも世界に向けているのか運命に向けているのか、自分でも判別がつかないままただ目の前のコーチに押し付けている。
 本当は、歴史に沿うべきなのだろう。言われるがままきっとこの心臓の暴れるがまま従えば寸分違わない確定した未来が待っているはずだ。だけど、私はそれを足蹴にする未来を選ぶことに決めた。あの子のために、私がしたいことがあるから。
 今まで勇利として滑ってきた。私じゃなくて、勇利としてスケートを周囲に魅せてきた。物語を、解釈を、感情を。そこには、多分私の感情なんて入ってなかったと思う。
 演じる登場人物として為りきっていたと思うし、そうあれるようにしてきたつもりだ。できていたかは知らないけど。自分をさらけ出すのは怖かったし好きじゃないし恥ずかしいし、あとよくわからないし。芸術って難しいんだもの。
 それに、決めていた。私の第一目標はヴィクトルの生存で、第二目標は勝生勇利よ愛を知れ、だ。周囲の愛を自覚して後悔して欲しかったから、周囲にむけて滑ってきた。自分のためのスケートではなかった、と思う。だから、それも含めて許して、だ。
 皆のスケートを、今日この時だけは、私だけの、私的な目的に使ってしまうことへの。しかもこんな大舞台でやらかすのだ。まともなスケーティングもできない可能性があるのに、それをやろうというのだからとんだ大馬鹿者だ。
 勿論、そんなことチェレスティーノには伝わらないだろう。わかるはずもない。それでもいいと思っている。意味不明な謝罪に、時間切れでリンクに戻ることを考えているとぎゅっと、背中に腕が回された。息を呑む。


「――あぁ、許す。行って来い、勇利」
「・・・っはい!」


 許された。意味もわからず。理由も知らず。メンタルが不安な選手の戯言だと解釈されていても。それでも許された。許してくれた。ああほら、勇利。君のコーチは、なんて優しい愛に溢れた、素晴らしいコーチだろう!
 これ以上ない笑顔を見せて、リンクの中央に滑り出す。ポジションを決めて、音を持つ。心は悲鳴を上げている。やめてよ悲しいよ。辛いよ苦しいよ。心臓が痛い。体は重くて、顔色は悪いまま。だけど、知らない。知ったことじゃない。私はここで、愛を叫ぶよ。


『ユウリ・カツキ。ジャパン。曲は――』


 ヴィっちゃん。大好きで大切な、私のたった1人の秘密の共有者。
 君がいなくなってしまったこと、もういないこと、傍にいてくれないこと、いてあげられなかったこと、全部が悲しくて、苦しくて、辛くて、後悔ばかりが胸に迫るけど。出会わなければと、思わないこともないけれど。
 音が聞こえる。滑り出す。両手を広げて、指先まで神経を通わせて。氷が跳ねる。エッジが氷を削る音。好きだな、この音。うん。好きだ。
 だけどね、どうしてかな。今ここで伝えるなら、声に出していいのなら、きっと私は、こう言うよ。


 愛してる。だからどうか、安らかに。


 ありったけの愛と感謝をただ君に届くように滑るから。ただそれだけを籠めて滑るから。悲しみも後悔も喪失も、今この時だけは必要ない。君に届けるのは、この溢れんばかりの感謝と愛。両手いっぱいのそれを花束に、君に贈るよ。結ぶリボンは、ちょっとだけ寂しさを纏わせるけど、それだけは許してね?
 あぁ、可愛い君。大好きなあなた。秘密を言い合える子がいないのは寂しいな。だけど一緒にいれて楽しかったよ。嬉しかったよ。癒されたし、優しくあれた。
 あ、ジャンプミスった。うん、でも流れは止まってない。ステップ、ここは得意。君と遊んでるみたいだね。楽しいな、ヴィっちゃん。心臓、煩い。体、重いな。腕、上がらない。次、うん、決まった。頭いったい。ガンガンする。倒れないかな。転倒だけはやったら動けなくなりそう。それは断固回避。うん。いける。決まった!はは、やればできるじゃん!コンビネーション、あー回転不足?くっそ。ははきっつい。後半に持ってくるの辛いわ―。しかも体調悪いし。心臓の動き方半端ない。破裂しそう。頭ガンガン叩くのやめて。勇利、うるさい。泣くだけなら帰ってでもできるでしょ。目の前真っ白になるじゃないか。でも音楽だけは聞こえてる。まぁ聞こえてなくても滑れるけどね!フライングシットスピンからコンビネーション。くるくる回る。そういえばヴィっちゃんも自分の尻尾追いかけてクルクル回ってたなぁ。可愛かった。あれ動画に残ってるな。後で見返そう。ふふ。あぁ、本当に、


 大好きだ。


 ピタっと止まって、全ての音が消える。自分の呼吸音と暴れる心臓の音。なんてことをと叫ぶ誰かと、ありがとうと囁く声と、わん、という鳴き声。全部消えて、冷たい銀盤に1人。あぁ、何も聞こえないなぁ。
 何か周囲が騒いでいる気もするけど、まぁいいや。レベランスを決めて、リンクに投げ込まれる花やぬいぐるみを拾う。機械的な動きだ。だって疲れた。すっごくすっごく疲れた。死にそう。てか死ぬ。だって終わった瞬間から心臓の爆走加減半端ない。今息できてる?わかんない。できてないかも。茫洋してリンクサイドに戻れば、待ち構えていた人影に力いっぱい抱きしめられる。待ってエッジカバーつけさせて。いやその前にこれ誰。あ、チェレスティーノだ。ソーリー。うん?ごめん、何言ってるか聞こえない。今心臓の音しか聞こえない。痛い。苦しい。ヤバい。どこかに連れて行かれる。どこかっていうか、あ、キスクラ?得点?そっか。でも今何も見えないわ。滲んでる。視力とかいう前に今多分酸素不足でホワイトアウトに近い気がする。やっべぇわこれ。何度も言う。やっべぇわ。
 得点?あ、出たの?だからごめんて今何も聞こえないんだって。すっごい抱きしめられてるね。苦しいよ。これ心臓のせい?頭のせい?コーチのせい?どれ?わかんない。
 インタビュー?あそこ行くの?そっか、うん。ごめん。


「無理」


 運命を捻じ曲げた代償が大舞台での昏倒とか、大恥にも程があるわ。


 


 


 

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