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「銀盤カレイド3」

 結論を出すとすればスケートをしなければいい話だよね、と元も子もねぇな!!という結論に行き当たるのに、さほどの時間は要さなかった。
 当然だ。赤ん坊になった私の時間は腐るほどにある。なにせ寝るか食べるか泣くかぐらいの動作しかする必要がないというかできないので、考える時間だけは本当にたくさんあったのだ。
 現実が受け止められないよ?そんなこと言ってもしょうがないって経験則から知ってるので、早々に諦めた私は多分もう終わってる。
 さて、話は戻して今後の私の方針ではあるが、とりあえず私の第一の人生目標は「ヴィクトル・ニキフォロフ」を死なせないこと、である。これは勝生勇利との約束というか願いなので、それを受けてこうなってしまった今その大望を果たさずに今生で死ぬことは許されまい。
 本来ならば許されないことである。過去を変えるなどあってはならないことだ。かつてはそんな禁忌を犯させないための役職についていたこともあったので、この行動は彼らに対する裏切り行為なのかもしれない。だが、あえて言おう。神様がオッケー出してるんならいいんじゃね?と。
 そも、ダメならダメで恐らく何をどうしようと結末は変わらないだろう。そして、恐らく変えさえない為の「抑止力」がなんらかの形で働くはずだ。あらゆる邪魔と障害が起こりうることは想定してしかるべきである。それがもしかして「刀剣男士」なのかもしれないし時空パトロール的なものかもしれないし異世界からの何かかもしれない。それは全くの未知の現象であるが、その覚悟もなしに望む全てを手に入れることは、きっと叶わない。
 なのでどうしようもないときは諦めてくれ、というしかない。助けるとはいったものの、所詮人間なのでできることには限界があるんだよ。言い訳だけれど、最早白龍の神子ではない私では神様バックアップはそこまで期待できないので、運命を捻じ曲げる行為がどこまで許容されるか皆目見当もつかないのだ。やれるだけのことはやるけどねー。
 まぁなのでその前提として「スケートをしない」という結論が導き出されるわけだ。
 だって勝生勇利とヴィクトル・ニキフォルフの繋がりの大前提は「スケート」である。切欠はそれでそれがなければ2人の人生が交わることは・・まぁ、よっぽどがなければ多分ないだろう。
 スケートありきで出会ったのだから、出会った過程でスケートがなくても繋がった関係性は育まれることはない。
 まぁスケートをしていても「びーまいこーち!」騒動がなければ大丈夫な気もするが・・要するに世界から「皇帝」を奪うような事態にならなければいいんだよね?
 彼が死んだのは、勇利が世界から皇帝を奪ったと同時に皇帝が皇帝ではなくなってしまったということが起因している。まぁいくら皇帝だのリビングレジェンドだの言われていようと人間なのでいつかは負けるし玉座ってのは大概代替わりするものだし寄る年波には勝てないし、彼は満足してたんだからいいじゃないかと思うのだが、そう思えない人間が一定数いることは否定できない。とりあえず魔女によって堕落した皇帝という図式を成り立たせずにおけば、大体の死亡フラグは折れるはず、と読む。となれば勝生勇利には申し訳ないが、スケートは諦めてもらうしかない。まぁ、私としては競技者だとか到底向いてないし、体は勝生勇利でも中身がこれなのでああなれる気が全くしない、というのもあるが。うん。しょうがないよ中身凡人なので。
 となると将来は実家を継ごうかな。あ、でも真利姉ちゃんが継ぐんだっけ?あーじゃぁ板前とかいいよね。料理は嫌いじゃないし、それなりにできる自負もあるので、専門的に学ぶのもいいかもしれない。それとも経営とか学んだ方がいいかな。あぁ、やれることは色々あるなぁ。幸いにしても決してファンタジー枠の世界ではないので、個人的にはいくらか気楽な気持ちで将来に夢を馳せた。
 ねぇ、知っているかい勝生勇利。
 君の世界はスケートだっただろうけれど、本当にそんなものなくても色んな世界があったこと。
 君は確かにヴィクトルに出会って愛を知ったけれど、でも君の愛はいつも一人にだけ注がれていたね。それが悪いことだとは思わないし、それはそれで幸せだとも思う。事実君は幸せだったけれど、同時にね、こうも思うんだ。
 もっと周りに愛を振りまけば、こんな間違ったこと、しなくてすんだんじゃないのかなって。
 愛を知った癖に、自分のスケートは周囲の支えがあることを自覚したはずなのに。それでも一番大事なものを一つにだけ向けすぎちゃうから、こんな突拍子もないことしちゃうんだよ。
 だから私は、ひっそりこっそり第二の人生目標を立ててみる。



 第二の人生目標は「勝生勇利」よ世界を知れ、だ。



 それで自己嫌悪に陥ろうが罪悪感に駆られようが後悔の坩堝に落ちようが、知ったこっちゃないけどね。





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「銀盤カレイド2」+黒様へ。

青年の人生は、なるほど。波瀾万丈と呼ぶに相応しいアップダウンの激しい一生であったことは間違いようもないだろう。これで平凡な人生だったんです、と言おうものなら各所から「嘘つけ」と頭を叩かれること請け合いである。
 微睡の中自分に刻み込まれていく「記憶」を、まるで「記録」のように眺めてため息を零す。
 他愛ない家族と周囲の愛に包まれた穏やかな幼児期。微笑ましいの一言に尽きる、なんの変哲もない子供の、泣き虫で頑固で愛くるしいひと時の、穏やかさ。やがてバレエと音楽を知り、悔し涙とそれ以上に輝く瞳で溺れていく時間。できないことができるようになる感動に震えながら、ひたすらにのめり込む時間のいとおしさ。そのまま進めばきっと少年はその道を選んだであろうに、やがて出会ったのは、少年の全てを捧ぐ、たった一つ。淡い初恋の先で、少年は恋をも凌ぐ出会いをするのだ。
 冷たく分厚い銀盤の世界。削れる氷の音。木霊する音楽に、少年の世界はたった一つ、広くも狭い銀盤の上だけになっていく。染まっていく。塗り替えられていく。音楽と氷と踊りだけの世界に浸って、溺れて、周囲を顧みもせず。そうして、また、少年は出会う。いや、見つけたのだろうか。
 白銀の世界に一人。佇む王様。あぁ、見つけなければよかったのに。眺める私は無責任にもそう呟いて、少年の世界に銀とアイスブルーの色が加わる。白銀の世界に、それによく似て非なる色彩が映えて、染まっていく姿はきれいなのに寒々しい。美しいと思うけれど、悲しい光景だな、とそう思う。切り離された世界で、彼はまるで氷に溺れていくようにまた沈んでいくのだ。
 追いかけて追いかけて、手を伸ばして逃げられて。銀盤の世界だけを追い求めて、周りなんて見ないから周囲の期待がただ重たい。
 少年は、ただただ氷の世界が大好きで、氷の世界で一人たたずむ皇帝を愛していて、それだけで完結していた世界は、強固なようでひどく脆い。周りがその世界を壊そうとしてくるから、それが煩わしくて五月蠅くて、だから少年は弱かった。その世界だけを守ることに必死で、決して強くはない少年は閉じこもる他に術を知らなかった。周りは確かに少年の・・・少年から青年に変わる彼を確かに愛していたのに。決して青年の世界を壊そうとしていたわけじゃない。結果としてそうならないとは言い切れないのが世間というものだが、それでも周りは、青年と青年の世界を愛していたのは違いなかったのだから。盲目的だったんだなぁ、と思わずにはいられない。
 ピシリと一つ、青年の世界に罅が入る。一度刻まれた罅が青年を追い込んで、青年の全てから青年を遠ざけようとする。逃げる彼を、諦めた彼を、引き留めたのは――「かみさま」。
 それからの人生は、まさしくジェットコースターのように目まぐるしい。白銀とアイスブルーの世界に、色彩が重なっていく。まるで春に花がその蕾を開かせていくように色づく世界は、青年の凍える世界を溶かして、青年の傍らに、途方もない愛が寄り添った。
 離れては寄り添って、堅く握り合って、突き放して、それでも離せないと手を伸ばして、掴みとったのはどっちだったのだろう?挫折の先の栄光。驚きと愛しさに満ちたその人生を、例えるのならば、きっと「幸福」というのだろう―――その先に、心砕けるほどの絶望が待ち受けていても。





 なるほどだからこういう形なのか、と何回目かの微睡から目覚めた私は満足に動かすこともできない手足をばたつかせながら、どうしたものかなぁ、とむぅん、と唇を尖らせた。
 幸福の先の絶望―――青年・・・「勝生勇利」の神様たる「ヴィクトル・ニキフォルフ」なる男は、勝生勇利の目の前で死んだ。あぁうん。そりゃ青年の人生の半分以上は捧げた相手が目の前でいなくなれば発狂も止むをえまい。それでも人は前を見て生きていけるけれど、青年・・勝生勇利の心は、それができるほどに強くはなかった。強いというか、ちょっと全部注ぎ過ぎて自分の手元に残してたものが少なすぎていたというか・・・もうちょい比重をどうにかした方がよかったんだろうなぁ。あぁでも死に方も問題だったのだ。ヴィクトル・ニキフォルフは勝生有利を庇って死んだ。皇帝の陥落を認めなかった熱狂的なファン・・・どちらかというと狂信者的な存在に襲われた勝生を庇ったヴィクトルが凶刃に倒れ、帰らぬ人になった。
 トラウマ確定の上に精神的に逝っちゃうには十分な出来事である。それを責めるつもりも叱咤するつもりもないが、それが運命を歪めてしまうほどの狂気を生み出すと一体誰が想像したであろうか。
 そう―――認めないと叫んだ心が、他人を自分として生まれ変わらせる程度には、やっちまったな!感が半端ないのである。
 さて、改めて自己紹介をしよう。このパターンは長い私の可笑しな人生の中でも中々起こりえなかった現象である。
 私の名前は中村透子。ゲームも漫画も二次元も真っ青な転生とトリップを繰り返した精神年齢年寄通り越して化石に突っ込み始めた花の女子高生。うん?女子高生?・・・遠い昔だなぁ。
 そして今生。あの不可思議謎空間で遭遇した青年「勝生勇利」の願いを受けた私は青年にとっての「あってはならない」未来を変えるため、この世界に生まれ落ちた。


「勝生勇利」という、男の子になって。


 人間って怖いな、と、しみじみと実感するには十分な出来事ではなかろうか。
 あー・・・・現実逃避してぇ。
 こんな現実受け止められないよ!って、どこかの誰かも言っていたのに。







〔つっづきから!〕

「銀盤カレイド」

 嫌だ、嫌だ、嫌だ!
 こんな運命は認めない、こんな運命が認められていいわけがない!
 お願い、誰か、どうか、お願い!助けて、彼を、こんな、ごめんなさい、僕のせいで、嫌だ、いかないで、傍にいて、離れずに傍にいてよ!約束、どうして、貴方が、僕が代わりになるから、だからどうか、どんなことでもするから、どうなってもいいから、たすけて、誰か、神様、お願い、助けて、神様、神様、僕の神様を助けて!!!


 魂が千々に引き裂かれるかのような、いやまさにその最中なのか。判断もつかないぐらいに支離滅裂で、剥き出しの慟哭が呼び覚ます。
傷を帯びて絶え間なくだらだらと血を流しながら、いや、これは彼の涙であろうか?赤とも透明ともつかないそれでも紛れもない深い深い、致死性の傷を負いながら、彼は己の喉に爪を立てて請うていた。その、狂気的な願いは、彼の魂をどす黒く染め変えていって、清廉な、氷のように澄んだ薄氷の魂は、ピシピシと罅割れてそこからどろりと濁ったおぞましいものが溢れてきていた。
 これはダメだ。私はとっさに青年の背中から傷痕を隠すようにぴったりとくっついた。
 見覚えのあるあのどろどろと凝った邪悪なものは、青年には勿論の事、その周りももしかしたら世界ですらも危ういものにするかもしれない。いつだって世界は人の心一つで歪んでしまうのだ。ちっぽけな人間が、というけれど、大きなものはいつだってそのちっぽけなもので容易く崩れてしまう。なんでバランスのとれた理なのだろう。巻き込まれてしまうことが多い自分としては、未然に防ぐことでできる限りそのリスクを減らしておきたい。今まさに関わってしまった感は否めないが、世界規模になる前に収まるなら多少のリスクは甘んじよう。そもそもここがどこかもよくわからないけど。とりあえず、突然抱き着かれた青年は喚いていた声をピタリと止めて、驚いたように後ろを振り返った。青いフレーム眼鏡の奥の瞳が驚きと期待に染まってこちらを見たが、私の顔を見た瞬間にどろりと濁った。裏切られた、とばかりに光を失くして、虚ろに変わる。
 やべぇ。この青年色々マックスすぎて何が切欠で怨霊に化けるかわからん。むしろ荒御霊?どちらにしろ、私の対応次第でこの青年の運命が決まりそうなぐらいに崖っぷちなことは明白だった。
 まぁあの魂の慟哭の時点でわかっていたことだが、それにしても恐ろしい。人が狂って堕ちていく過程をこの目で見ることになろうとは思わなんだ。
 急激に黒く淀みのスピードを上げていく魂に、うわわ、と慌てて傷口に手を押し当てて私は叫ぶ。

「助けるよ!」
「・・・え?」

 咄嗟に出たものは、彼を引き留めるには十分だったらしい。絶望と喪失、罪悪感と虚無感にもはや自我さえ手放そうとしていた青年の、どろりと濁った虚ろな瞳が、その瞬間ほんの少しだけ光を宿す。しかしそれはあまりにもまだ小さくて、私は溢れ出る穢れを手のひら一杯で押しとどめながら、自分今無責任なこと言い始めてる、やばい、これ確実に厄介事だ、と確信しながらも必死に呼びかけた。

「何がなんだかよくわからないけど、助けてほしいんだよね?なに?誰を助けるの?」
「・・・ぁ・・・」
「どうして欲しいの?どうしたいの?ねぇ、貴方が動かなきゃ、私は何もできない」
「・・・ぼく、は、・・・」

 必要なのは情報だ。彼が望む根源を知らなければならない。そもそも私にできることなのかも、軽々しく「助ける」なんていうべきではないこともわかっているのに、それでも今目の前のことで精一杯で、ただ私はこの溢れんばかりの彼の絶望をどうにかしなければならない、と赤銅色の瞳を見つめた。
 乾いた虚ろの瞳から、ぽろりと一粒の氷を落とす。彼の魂の欠片のような、涙の石。青年は、私を見るでもなく、ただ聞こえる声に反応するように罅割れた薄い唇を震わせた。

「かれ、を、」
「彼?」
「かみさま、」
「神様?」
「ぼくの、かみさま」

 ・・・青年の?
 首を傾げた瞬間、ひたりと彼の瞳と目があった。それは、何をしても、誰を犠牲にしても「神様」を助けると決めた、狂気的な瞳だった。それが、私を映す。認識した。捕まる。あぁ、彼は。


「お願い、彼を、――――を、助けて!」


 どんな禁忌を犯しても、それが許されざる行いだとしても。
 そして、きっと自分が救われることも報われることもないと理解していながら。
 それでも、彼は、運命を歪めることを、躊躇わないんだ。
 どんっと押されて、私の体が大きく傾ぐ。遠ざかる青年の目から、ボロボロと零れるのは氷なのか涙なのか。ごめんなさい、と小さな声が聞こえて、それでも代わりに、彼の薄氷の魂が、清廉な光を纏い始めていたのは、薄れていく視界の中でなんとなく見えたから。
 いいよ、と笑って受諾する以外、落とされる私に術はなかったのである。





「初日の出を見に行こう?」

テレビで事務所のカウントダウンライブの中継を眺めてからラインでとりあえずあけおめメールを各自に送り、適当な時間で就寝する。
 本当はライブに行くという選択肢もあったんだけど、年末の怒涛の仕事納めにライブにまで行ってその後きっと徹夜コースになるだろうルートを選ぶには中身が年を取りすぎていたのだよ・・・。
 もうちょっと見た目と中身が釣り合っていればなぁ、と思わなくもないが、まぁこれはこれで後日ゆっくり彼らを労うということで。中身としては年上なのでお年玉とかいるかな?と思ったけど見た目同年代なのでいらないな、とシビアな私がニッコリ微笑む。むしろまだ私は貰える年齢だわ。くれる相手いないけど。
 くぁ、とあくびを零しながら布団の中に潜り込み、初日の出はどうしようかと思いながら眠りについた。
 それから数時間。突然枕元で鳴り響く携帯の着信音に叩き起こされ、一瞬何が起こったのかわからないまま手探りで携帯を探し出して寝ぼけ眼で通話ボタンをスライドさせる。あやうくブチ切りそうになったが、まぁ出れたからよしとしよう。てか相手見てなかったけど誰だこんな時間に超迷惑。そう思いながら寝起きの掠れた声で語尾を跳ねあげる。

「はい。もしもし・・・」
『もしもし。日向だ。今大丈夫か?』
「・・・・あー日向さんですか・・・どうしました?」

 大丈夫も何も寝てましたが何か?と言いたいところをぐっと堪えてちらっと時計に目をやりながら聞き返す。どういうつもりでこんな時間に電話してきやがりましたかこの野郎。

『思いっきり寝起きだなぁ。まぁいい。中村、今すぐ出てこれるか?』
「今すぐ?」

 え、なにそれ嫌だな行きたくない・・・。寒いし眠いし面倒だなぁ、と思いながら訝しげに眉を寄せて疑問を表せば、電話口の向こうで日向さんの笑い声が聞こえた。

『折角だ。初日の出を拝みに行くぞ』
「・・・マジっすか」

 楽しそうな声に、会話をしている内に眠気も薄れてきた私はのそのそ体を起こしながら、この人何言ってるの、という気持ちを込めてそう返す。マジだ、と返してくるそれにしばらく考え、はぁ、と軽いため息を零した。

「わかりました・・・ちょっと準備するんで、時間ください。どこ行けばいいんです?」
『エントランスにいるからそこに来い。時間もあんまりないから、至急で来いよ』
「はぁい」

 さすがに上司及びお世話になった先生のお誘いを無碍にはできない。これが完全なる迷惑行為ならオコトワリー!だが、まぁ初日の出を見に行くぐらいはいいだろう。おめでたいことだし。
そうなると他のメンバーもいるだろうから賑やかなんだろうなぁ。カウントダウンライブのあとにテンション極まって突撃してきたんだろうか?つらつらと経緯を予測しながら、できるだけ時間をかけずに身支度を整え、駆け足で社員寮のエントランスまで降りると、そこにはライダースジャケットを羽織った私服姿の日向さんが待っていた。スーツ姿以外は何気に珍しい。いや決して私服を見たことがないわけではないんだが、基本スーツだからなぁ日向さんは。しかしイケメンは待っている姿でもイケメンですな!

「お待たせしました!・・・あれ?皆は?」

 壁にもたりかかりながら携帯を弄っていた日向さんに声をかけるが、そこに他の見慣れたメンバーの姿が見えず首を傾げて視線を泳がせる。・・・あれ?てっきり皆いるのかと・・・現地集合か?
 日向さんはぽちっとスマフォの電源を落とすと、預けていた壁から背中を放してすっと背筋を伸ばす。

「あいつらならまだ打上げ中だな。そのまま初詣に行くとか計画も練ってたから、今日はそのまま徹夜コースじゃないか?」
「へぇー・・・仕事に影響でないといいですけどね。あ、あけましておめでとうございます」
「明けましておめでとう。まぁそこら辺はあいつらもプロだからな、心配するほどのことじゃないだろう。ほら、行くぞ」
「あ、はい。・・・え?」

 んん?あれ?どゆこと?さらっと流されたが、あれ?これ一ノ瀬君たちも交えてじゃないの?え?と疑問符を浮かべる私に構わず、さっさとエントランスから出ていく日向さんを慌てて追いかける。そして入口前に止めてあった大型バイクに、私はまさか、と目を大きく見開いた。

「・・・え?2人?」
「何してるんだ。早くヘルメットつけて後ろに乗れよ」
「いや、まさかの展開で驚いてるんですけど、え?2人で?」

 跨ってバイクのエンジンをブルンブルンとふかしはじめた日向さんに戸惑いながら視線を向ける。その私にヘルメットを被って顔の下半分を隠した状態で、目だけをこっちに向けて日向さんはすっと目を細めた。

「とっておきの初日の出、拝ませてやるよ」

 定員は一人だけだからな、と嘯いて笑った日向さんに、私ははぁ、となんともいえない相槌を返してヘルメットを被ることになった。・・・・とりあえず、バイクはめっちゃ寒かったです。




「リアルはきつい。これ真理」

「大変コマ!オンリョーウが出たコマ!」
「早く行かないと町が大変なことになるシシ!透子、空!」

 空から突然降ってきた二対のやたらデフォルメされたもふもふの動物もどきが、血相を変えて伝えに来た内容に、二人そろって物凄く嫌そうな顔をしてため息を吐き出した。
 それはもう深い深いため息は、心底から行きたくない、という心情を表している。
 しかしそこは動物だからなのかそれとも神様の御使いだからなのか、それとも大人の事情による諸々なのか、見事なまでに一切に気づかずスルーをかまし、早く行くコマ!シシ!と急かす様に、諦めたように二人の目が死んだ魚のごとく濁った眼を晒す。それ正義の味方がしちゃいけない類、というツッコミはもはや二人には届かない。しょうがない。純粋に正義の味方を喜べる年齢はとっくのとうに過ぎ去ったのだ。ここにいるのはある意味で酸いも甘いも苦いも辛いも極めた精神年齢〇〇才、肉体年齢現役女子中学生の某名探偵ちょっと成長バージョンの二人である。
 何故よりによってニチ朝枠なの、という嘆きは多分第一話ぐらいで使い果たした。

「・・・逝こうか、透子」
「・・・逝くしかないね、空」

 漢字がちょっとアレなことも、狛犬もどきを模したマスコットキャラ枠の二匹には通じない。
 ちなみに角がない方が獅子を模したマスコットで、角がある方が狛犬を模したマスコットである。今日では獅子も狛犬もどっちも含めて狛犬と称しているが、本来ならは獅子と狛犬がワンセットである。略して角がない形の狛犬が多いけど、それは実際は獅子の形なんだよ!というのは余談だ。さておき、最早悲壮ともいえる覚悟を決めて、二人は顔を見合わせ、頷き合う。
 幸いにして周囲に人影はない。でもとりあえず見られたら確実に精神的に死ねる、とあらゆる意味で必死な二人は念入りに周囲を探り、誰もいないことをしっかりと確認してから、すっと制服のポケットに忍ばせていた白と黒の勾玉を取り出し、互いにパートナーとなるマスコットに手を差し伸べた。

「コマ・・」
「シシィ・・・」
「任せるコマ!」
「待ってましたシシ!」

 やたら低いテンションで名前を呼ばれたのに、それにそぐわないハイテンションで答えた二匹の首から下げている鏡が光を放ち、それぞれが首輪から離れ、透子と空の前にシュン、と音をたてて現れた。それを手に取り、キラキラと輝く周囲に負けない声音で、二人が叫ぶ。

「巡れ、天の声!」
「響け、地の声!」

 叫びながら、鏡の下部にある窪みに勾玉を嵌めこむ。瞬間、鏡から白と黒の光があふれ、まるで蛇のようにうねりながら、二人の少女の体を巡り始めた。指先に光が絡みつけば、パン、と光が弾ける音と共に手袋に包まれた指先が現れる。足も、胴体も、頭部も、全てに光が絡みついていけば、本来の姿からかけ離れた姿は幻想的な演出で書き換えられていく。ふわり、と、スカートの裾を翻し、かつんと、靴先が地面に触れたところで、変身は終わった。きらきらのエフェクトが名残のように二人の周囲に舞い飛び、ゆっくりと瞼が開く。

「白き龍の神子、白雪!」
「黒き龍の神子、黒蝶!」

 謎アイテム(マスコット曰く神様の力が宿った聖なるアイテム)により半ばというか完全に強制的な口上を、やっぱり強制的に言わされながら、互いに決めポーズがびしぃ、と決まった。とりあえず内心の「いっそ殺してくれ」という嘆きはお互い以外には届かない。いつか神様張ったおす、と誓う心はやっぱり正義の味方には向かないと思うが、さておきこの羞恥プレイはまだ終わらない。
 これから敵の前に行って、決め台詞というか前口上というか、ともかくももうワンフレーズ言わないといけなかったりする。いっそ無言で不意打ち食らわして即行で終わらせたい。
 そう思いながら、二人は互いの変身後姿を眺め、改めて実感した。

「見てるだけが幸せだよね」
「それな」

 コスプレだけならまだいいが、これがリアルな戦闘衣装だからわろえない。違うんだ、コスプレとガチは違うんだ。金に染まった自身の髪を弄り、消えたい・・・と呟く透子に、蒼い髪に染まった自分の髪をかき乱して、空がぽんと肩を叩く。

「即行で終わらせよう」
「そうだね・・・」

 最早それしか、自分たちに残された解放される手段はないのである。
 下手に長引けばそれだけこの姿でいる時間が長くなる。開き直ってテンションあげるのも手ではあるが、できるならあんまりこの恰好でいたくない。でもテンション高くしていかないとやってられないのも事実。だって必殺技とかあるし。大体それ技名叫ぶし。無言でぶっぱは許されない、悲しい縛りプレイである。
 早く行くコマ!と急かすマスコットに、わかってるよ!と空が言い返して、二人は毅然と顔をあげた。


「お前らがこんなことしなけりゃこうならなかったんだよ!!」
「地獄の底で大人しくてしといてよマジで!!」


 そうしてどこにぶつけるにも迷う憤りを拳に乗せて、今日も二人の神子の怒りと嘆きと羞恥の絶叫が、混沌なる町に響くのであった。









〔つっづきから!〕

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