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「ハピバ!」

「・・・なにやってんだ、お前ら」

 頭上からかけられたまるで不審人物を発見したかのような訝しげな声に、楽譜に落としていた視線をあげると、くっきりと眉間に皺を刻み込んだやや目つきの悪い三白眼気味の目がこちらを見下ろしていた。目つきは悪いが、顔自体の造作は文句なく素晴らしい。精悍な、男らしいと言える見慣れた顔を見上げて、苦笑めいてへらりと顔を崩した。

「膝枕?」
「みりゃわかる。なんでこんなとこで、しかも林檎相手にやってんだって意味だ」
「なんでも誕生日のお祝いラッシュで疲れたらしいですよ。休憩とか言って膝枕を要求されたので」
「休憩って・・・それでお前が素直に応じるなんて珍しいな」

 大抵なぁなぁで躱すだろ、と言われて、そうだったかな?と首を傾げる。ソファは私たちが占領してしまっているので、仕方なく、日向さんは会話しながら向かいの椅子に腰を下ろして、呆れたように目を半目にした。

「そうだろう。押しに弱いようで押し返せるところは問答無用に押し返してるくせに、よく言うな」
「大抵押し返せないことばかりですから、自覚もできないんですよ。まぁ、今回に限っては月宮さんも誕生日ですし、時間も限られてますから多少は融通もきかせないとなぁと思いまして」

 朝から色々と引っ張りだこのようだったので、さすがにちょっとお疲れ気味みたいだし。いくらお祝いごととはいえ、こうも重なるとやっぱり負担はそれなりに、といったところだろうか。現場に行けばいっただけ祝われれば、そりゃ疲れもするだろう。ファン人気だけでなくスタッフ人気も高い人はこれだから大変だ。人間関係が良いに越したことはないけれども、やっぱり疲れるときは疲れるよねぇ。コミュ力高いって、そう考えると羨ましいけど羨ましくないな。ただでさえ人目を集める職業な分、色々大変なのだろう。
 太腿の上に載っている月宮さんの桃色の髪を撫でながら言えば、日向さんは手に持った冊子をぱらぱらと捲って、だからってなぁ、と渋面を作った。

「自分の部屋ならまだしも、まだ事務所ん中だぞここは。誰が見てるともしれねぇってのに、林檎もお前も何考えてんだ」
「いや、実を言うともうすでに何人かに目撃されてるんですよね」
「はぁ?!」
「でもまぁ、逆に堂々としすぎてて、普通に話しかけられて「仲良しだね」ぐらいで終わってますよ。邪推もされましたけど、なんてか、そこは月宮さんのキャラというか・・・高い女子力のおかげで難を逃れたと言いますか・・・」

 普通に女子同士が戯れてる感じにしか見えなかったらしい。女装アイドルで銘打っているだけあって、堂々とじゃれていればあんまり話題にも上がらないようだ。これが日向さんなり一ノ瀬君たちであったりすればそれはもう邪推の嵐だろうが・・・そういう点でいえば月宮さんはお得なキャラなのかもしれない。まぁ、煙が出るときゃ出るだろうが。
 それにここはシャイニング事務所内なので、そこまで目立つわけでもないのが更に助かっている点だろうか。しみじみといえば、日向さんはなんともいえない複雑な顔で膝の上でむにゃむにゃと寝息をたてている月宮さんを見つめて、頭を抱えるようにして開いた冊子に額を押し付けた。あ、タイトル見えた。

「それ、次のドラマの台本ですか?」
「あぁ。学園もののな。見るか?」
「いえ。こっちも曲作らないといけないんで」
「あぁ、例の。大河ドラマの主題歌だったな」
「いきなり大仕事ですよねぇ。なんで私に回ってきたんだか・・・」

 これ別の人の仕事じゃね?と思いつつ、社長から回ってきたなら受けるしか私に選択肢はなく。色々事務仕事も(主に社長のせいで)立て込んでいるというのに、ここのところ睡眠時間削り取られまくりだ。むしろ月宮さんよりも私の方が誰かに膝枕してほしいぐらいだ。できれば七海さんか渋谷さんの柔らかくってむちむちすべすべの太腿でお願いします。え?目線が親父臭い?若くて美少女な女子が大好きなだけだ!よくよく考えれば月宮さんだって見た目美少女だけどぶっちゃけ柔らかくもふわふわもしてないんだよね!日向さんほどがっちりもしてないけど!いやでも、あれはあれで筋肉美味しい・・・。鍛え抜かれた腹筋及び大胸筋諸々も大好物ですじゅるり。

「あのおっさんが認めてんだ。精々気張れよ稼ぎ頭」
「それ、そっくりそのままお返ししますよ。大体稼ぎ頭は七海さんとS☆Rでしょう」

 あとQ★Nね。月宮さんと日向さんはあまりにも当然すぎて省くけど。にこりと微笑み、うぅん、とわずかにぐずるかのように声を出してごろりと寝返りを打った月宮さんに、おや、と瞬きをこなす。お腹に顔をくっつけるようにして密着してくる月宮さんの頭を軽く撫でてから、その行動を機に会話はこれでおしまい、とばかりに再びに楽譜に視線を落とした。
 日向さんも、軽く肩を竦めてから、場所を移動するでもなくその場で台本を広げて読み込んでいく。恐らく、ここに日向龍也という第三者がいることによって、更に他の人目に触れても火種にならないように配慮してのことだろう。まぁあと、他に行くところもあんまりないんだろうけど。執務室にいたら結局仕事に忙殺されるんだものなぁ。

「そういえば、今日月宮さんところに集まるんですか?」
「メールはよこしといただろ?ケーキの準備しておけよ。こいつ、お前の作ったもん楽しみにしてんだから」
「了解です」

 でもお店で買った方が美味しいと思うんだけどなぁ。そう思いつつ、鉛筆片手に、楽譜に芯を滑らした。








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〔つっづきから!〕

「一人ぼっちの双子」

知っていたはずだ。知っていたはずなのだ。私はこの未来を知っていた。覚えていなかっただとか、それは遠い過去の話だったのだとか、それが免罪符になるのかは知らない。繰り返し繰り返し。記憶が摩耗していくほどに、けれど確かな過去として在り続けるその遠すぎる昔を。仕方がないと言えるだろうか。しょうがないと、言ってもいいのだろうか。それでも。それでも私は、こうなる未来を確かに知っていたというのに。もっとちゃんと覚えていたら。あるいは、もっと早くに、繰り返す前に、この世界にきていたのなら。
 あの子を、一人ぼっちにさせずに、済んだだろうか。





 君から闘う術を奪ったのは、君を守りたかったからだ。
 君から戦いを遠ざけたのは、君に生きていてほしかったからだ。
 それはオレのエゴだった。どうしようもないオレの弱さで、甘えで、恐怖だった。
 大切な人は皆いなくなってしまって、残った大切な人は片手の指に余るほど。それだっていつまで守り切れるかわからない。いつ失ってしまうのかわからない。それでも、君だけはどうしても失いたくなかったから置いてきたのに。
 それなのに、君までオレを置いて逝ってしまうの?


☆☆


 私がもっと強ければ、私が「私」でさえなければ、きっと君を一人ぼっちになんかしなかったのに。


☆☆☆

 オレがもっと強ければ、「ボク」がお父さんのように強ければ、きっと君を最期まで守ってあげられたのに。


☆☆☆☆


 ごめんね、悟飯。


☆☆☆☆☆


 ごめんね、透子。


☆☆☆☆☆☆


「悟飯」
「透子」


☆☆☆☆☆☆☆


 
「「だいすき!」」









〔つっづきから!〕

「四月、略」

これ、全部無駄になったらどうしよう。
 そんな心配が、なかったわけではない。むしろ大半の人間がその思いと共に祝勝会の準備を粛々と進めていたことだろう。手配は数日前から。会場設営から飲食物に至るまで、まずライブ本番が始まる前から行われていたのだから、正直これが無駄になった時には腹掻っ捌く勢いでテンションが落ちるだろう。まぁさすがにそうなったらそうなったで「受賞逃しちゃったね残念パーティ」とでも銘打って結局これは活用されるだろうが(さすがにこれを丸侭キャンセルしたら大打撃すぎる)、それでも祝い事のために準備したものがその用途のまま行使されないなどと、切なすぎる。
 口々に早乙女社長チャレンジャー、だの負けたら解散かあ・・・だの、とりあえず二割の愚痴と三割の希望、それから五割の空元気でパーティ準備を進めていた。
 けれども、そんな裏方の諸事情など知る由もないだろうが、彼らは勝利を収めた。その興奮たるや、ぶっちゃけ私ついてけない、と匙を投げるほどである。ついでに言えば、歌が終わった後の皆さんの恍惚した表情というか魂抜かれちゃったんですかね?と言わんばかりの様子にすでに置いてけぼりを食らっていたわけなのだが。え、なに?ハッピー?うん?ごめ、よくわからな。
 ・・・さておき、見事我が事務所が勝利の錦を飾り、とんだ茶番げ、ごふん。皆の善意といつの間にそんな副賞が?!という驚きと共に敗者の解散という事態も回避され、万々歳。めでたしめでたし、というわけである。うーん・・・見事にこう、社長の手のひらの上で踊らされていた感が半端ないのだが、まぁ、万事丸く収まったのだから良しとした方がいいのだろう。何事もハッピーエンドに勝るものはないのである。とりあえず今後のST☆RISHの活動の幅が広がるとともに事務所も忙しくなるだろうなぁ、という嬉しいのか今のままで十分忙しいからもうやめてと言いたいのか、複雑な心境で私は廊下を歩いていた。
 何故なら、先輩の命令、基お願いで、倉庫の備品を持ってきてほしいと頼まれたからだ。てくてくと人気のない廊下を、指定の倉庫目指して進めば、目的の表札が見えて足を止めた。
 ほぼ滅多と使われることのない倉庫だ。というか私も訪れるのは初めてである。むしろ存在を知ったのも今日が初めてというか。・・・まぁとにかく、さっさと頼まれごとを済ませて会場に戻らなければ。なにせそろそろ今回の祝勝会のメインであるST☆RISHが会場入りをする時間なのである。恐らくこのパーティの存在を知らされていない彼らの驚きの姿が目に浮かぶが、その現場を見れないのも詰まらない。あと、ようやくまともに接触、いや再会できそうなので。
 ・・・こういうところで再会した方がお説教フラグも若干回避できないかなーという打算含み、この興奮にまぎれてしまえ、という計算である。劇的な勝利と興奮に加えてパーティというサプライズ。うむ。いい具合に色々吹っ飛びそうじゃないか。それに、これを逃すとまたしばらく渋谷さんみたいな偶然でみない限り会えそうにないし。
 別に私だって会いたくないわけじゃないのだ。いやキャラ濃いなぁとは思っているけれど、純粋に友人として、会えるものなら会いたいと思っている。ただ仕事が忙しいのと時間が合わないのとあと一々動くのが面倒、げふん。・・・まぁ、なるようになれ精神がないとは言わないけども。同じ事務所にいるはずなのにここまですれ違いまくってるのもある種の奇跡にも近い気がする。いくら携帯という連絡手段がないとはいえ、だ。日向さんと月宮さんとはかなりの頻度で会ってるのにな。主に仕事関係と押しかけ夕食会とかだけども。
 さておき、ようやく叶いそうな再会の兆しに、さっさと仕事を終えて会場に向かいたいという私の心情も察してもらいたいわけだ。
 ため息を吐きつつ、ドアをあける。中に入り、ドアをあけっぱなしのまま、壁にあるだろう照明スイッチを探していると、不意にバタン、とドアが閉まった。突然廊下の明かりという光源がなくなり真っ暗になった倉庫に驚いて目を見張るも、闇に慣れない目では周りの様子もわからない。うわ、早く電気つけないと。慌ててぺたぺたと壁に手をあてて、照明スイッチを探す。しかし見当違いなところに触れているのか、一向に指先にも掠らずに、私はぐっと目を凝らして壁を見つめた。・・・夜目は利く方だが、さすがにこうも光源が全て遮断されていると中々きついな。倉庫の中なだけあり、ドアが閉まってしまえば入ってくる明かりなどない。
 まいったなぁ、と思いながら壁をぺたぺた、諦めずに触っていると、不意に。そう、全くの不意だ。壁が、傾いた。え?と思ったのもつかの間。思わず伸ばした先で、決して掴まることなく倒れていく壁。何故壁が倒れる?え、私が押したせい?うっそん。どんな手抜き工事だよ!訴えてやる、と同時に、私のせいじゃないんです!!という叫びが頭の中を駆け回る。
 目を見開く中、倒れていく壁の隙間から、パァァ、と光が差し込んだ。暗闇から、溢れるほどの光。うわ、まぶし!咄嗟に目を閉じ、ぎゅっと体中に力をいれたところで、マイクを通す聞き慣れた声が、鼓膜を揺さぶる。

「Happy Surprise!!!!」

 社長、あんたまた何かやらかしたんか。アワード会場でも色々やらかしてたのにここでもか、と半ば諦めと呆れの境地で、一体今度はどんな後始末が、と閉じていた目を開けて、周囲を見渡して、

「・・・・・・は?」

 ポカン、と口を開けて呆けた。いや、呆けざるを得なかった。
 だって、そこは、備品が溢れる埃っぽい倉庫でも、廊下でも、社員の仕事場でもない。そこは、そこに広がっていたのは、私がついさっきまで設営を手伝っていた、パーティ会場だったのだから!溢れる光。知ってますそれライブ会場のごとく色とか効果とか変えられるんですよね。流れる音楽。頑張ったよね音楽の選曲。私じゃなくて他の人が。並べられたテーブル。大変だった、こうも広いと。その上の料理の数々。タッパに詰め込むことは可能か聞いた日々が懐かしい。祝・うたプリアワード受賞!と掲げられた弾幕に、目の前をひらひらと紙ふぶきが舞い散る。あぁ、料理の上に落ちないかなぁ、と心配はあれど、何より注目の視線を集めていることが耐えられない。何、何故、何事。状況に中々追いつけない中、私は、真正面、佇む姿を見つけて、咄嗟に、片手をあげた。

「・・・久しぶり?皆」
「透子ーーーーーー!!!????」

 ちなみに疑問形なのは、ぶっちゃけ私の方は大体彼らの動向を知っていたからである。
 ・・・どうやら私は、社長のサプライズによって、突如としてパーティ会場入りをしてしまったようだ。四方に倒れている壁、散った後の紙ふぶきのあと、それから巨大な布が床一面に広がっている様に、何か大がかりな仕掛けが施されているようだ、と呑気にも考えていたのは、まぁ、なんというか、慣れと諦めと現実逃避だよね、と。
 突撃してくる彼らを眺めつつ、天井を見やり、ため息を零した。
 巨大バルーンの上で笑ってる社長よ、つくづく貴方は、人を驚かせる人ですね。









〔つっづきから!〕

「幻の花嫁」

 一言で言おう。

 ど う し て こ う な っ た 。

 今までにないほどがっつりきっちり丁寧に顔面に施された化粧が重たい。基本的にナチュラルメイクばかりだった自分にこれはきつい、と思いながら、喜々として飾り立てるスタイリストさんに物申せるはずもなく。
 髪も普段は簡単に束ねる程度のそれを、しっかりとアップにしてまとめられ、スプレーで纏められる。あー・・・これ解くの大変だわー。鏡に映る自分の生気の抜けた顔を眺めていると、次は衣装、とばかりに引っ立てられ、あてがわれたのはハイウエストのAラインドレス。ウエスト部分に、ドレスと共布でできた大振りな薔薇の花が二つくっついて、そこから流れるようにひらひらとリボンが垂れ下がる。裾に行くにつれて広がる裾に足先まで隠されて、仕上げとばかりに頭の上に楕円形のベールを被せられ、Uピンで上から複数止められた。目の前を隠さないマリアベールは、昨今の人気である。芸能人はマリアベールが多いって話だね。・・どちらかというと顔が隠せるようなフェイスアップベールの方がよかったんだが。流行を取り入れたのだろうとはわかるが、別にいらない。そんな気遣い。緻密かつ繊細で美しいレースが顔の横にかかり、確かに綺麗だけれども、それを自分が身に着けていることに複雑な気持ちになる。むぅ、と押し黙ると、できましたよー、と喜々とした声で告げられ、姿見にかかっていた布が取り払われる。そうしてそこに映った全貌に、感動すればいいのか死んだ魚のような目をすればいいのかわからず、私は半笑いで鏡の中の自分を眺めた。
 そこには、純白のウエディングドレスを身に着けた、嬉しくも悲しくもない、なんとも中途半端な顔をした自分が映っており、今一度、どうしてこうなった、と思わず天を仰いだ私は、何も悪くないと言い張ろう。

「中村さん綺麗!普段はかわいい、って感じですけど、やっぱりウエディングドレスを着るとぐっと大人びますねぇ!」
「あはは、ありがとうございます・・・」
「小柄な方用の写真も撮りたいなーって話してたところでしたから、中村さんばっちりですよ!写真撮っちゃいましょうよ」
「え、いや、私リハーサルの代理なだけなんで。渋谷さんが来るまでの代理なんで!」
「えーもったいなーい」

 きゃあきゃあ、とはしゃぐスタイリストさんたちは、やはり結婚やウエディングドレスに憧れる女の子そのままで、実に楽しそうだ。そんなに好きなら自分で着ればいいのに、というのは野暮というものだろう。なにせこれはお仕事である。彼女らの仕事はモデルを美しく飾り立てることであって、決して自分が飾り立てられるわけではないのだ。だからこそ、憧れやら希望やらを詰め込んで、彼女らは人を飾り立てていく。それこそが生きがいなのだろう。特に、ウエディングドレスとは多くの女性にとって非常に重要な意味合いを持つのだし。通常の衣服よりも気合いが入るのは致し方ないというものだ。
 うん。ただ、何故に自分に白羽の矢が立つの・・・?

「渋谷さんのばかー・・・」

 情けなくも弱気な声で今ここにいない彼女に悪態を吐くが、仕方ない。彼女の乗った車が渋滞に引っかかり、現場に遅れることになったのは彼女のせいではないのだから。むしろ、一番彼女が気を揉んでいることだろう。根が真面目なものだから、内心の焦りは想像に余りある。けれども、だ。待っているだけっていうのもなんだから、って理由で日向さんだけリハーサルを先にとか別になくてもよかったんじゃないかなぁ!?というか、そこで相手役なんて別になくてもよかったんじゃないかなぁ!!!本来のパートナーがいないのにリハーサルしてどうすんのかね、本当に。
 顔を曇らせる私に、けれど盛り上がる周囲はちっとも察してくれない。むしろ、さぁさぁ現場に!とばかりに手を引かれて、非常に憂鬱な気持ちで長い裾をやや引きずりつつ、慣れないハイヒールでとぼとぼと現場に向かった。・・・日向さんはすでにスタンバってるんだろうなぁ。あぁ、気まずい。私はただ普通に渋谷さんと日向さんという美男美女のツーショットを眼福に楽しみにしていただけなのに・・・!別に誰もドレスが着たいなんて望んでないよ?!内心でぶつぶつよと不平不満を連ねていると、やがてスタジオの扉が開かれ、セットが目に映る。赤いカーペットに、白い手すりの大きな階段。たくさんのカメラに照明器具、入り乱れるスタッフさんに、その片隅でこちらに背を向けて監督と話している背の高い白いタキシード姿が目に映る。・・・あ、胃が痛くなってきた。キリキリと極度の緊張と羞恥心、居た堪れなさに不調を訴える胃を撫でつつ、あそこまで行くのいやだなぁ、と思っていれば、向かい合っていた監督の方がこちらに気づき、何事かを日向さんに向かって言っていた。恐らく、私がきたことでも言ったのだろう。監督が何事か囁いた後、日向さんはこちらを振り向いたのだから。
 目があった瞬間、咄嗟に愛想笑いを浮かべた私はまだまだ余裕があるのかもしれない。いやでも、マジちょっとお腹がね、うん。キリキリしてるんですけど。

「・・・お待たせ、しました」

 どう声をかければいいのだろうか。迷いつつ、無難な声をかければ、日向さんは丸くなっていた目を数度瞬きさせて、それからうろり、と視線を泳がせた。

「あぁ。いや、別にそんなに待ってもないが・・・あー、なんだ。中村」
「はい」
「・・・随分、印象が変わるもんだな」
「まぁ、着るもので印象なんていくらでも変わりますからね」

 普段が普段なだけに、確かにいくらかのギャップはあるかもしれない。多少気まずそうに、うろうろと視線を泳がせてがしがしと頭をかいた日向さんにそりゃまぁ変わるだろう、と納得の相槌を返せば、彼は眉を潜めてはぁ、とため息を吐いた。

「お前なぁ・・いや、まぁ、お前らしいか」
「なんですか?」
「なんでもねぇよ。・・・ほら、リハーサル行くぞ」
「・・・日向さん、これ本当に意味あるんですかね?普通に渋谷さん待ってた方がよくないですか?」
「あぁ?今更何言ってんだ。そんな恰好までして」
「好き好んでしたわけじゃないんですけど。・・あぁ、でも、こうして並ぶと、普段よりちょっと顔が近いですね」

 差し伸べられた手を取ることに躊躇しつつ横に並べば、普段よりも近い顔の位置に感慨深く呟く。ドレスの丈を生かすために高いヒールを履いてるものだから、十センチ近くは普段の目線と違うんだよな。
 それでも日向さんの背丈を思えばあまり変わらないようにも思うが、実際並んでみると結構近くも感じるものだ。見上げる目線の違いにこれぐらい身長があれば世界の見え方も変わるのだろうか、となんとなくそんなことを考える。日向さんは、一瞬虚を突かれたような顔で私を見下ろし、少しばかり照れくさそうにはにかんだ。

「まぁ、相変わらずちっせぇことには違いないけどな」
「余計なお世話です!」

 憎まれ口かこの野郎!!思わず眉を吊り上げれば、日向さんはくくく、と喉を震わせて笑い、ほら、と三角にした腕を差し出して、皮肉気に口角を吊り上げた。

「ヒール、高すぎて慣れてないんだろ。腕にでも捕まってろ」
「バランス感覚はいい方ですから、すぐに慣れますよ?」
「いいから、どうせカメラ前で同じようなことすんだから、大人しく捕まってろよ」
「・・わかりました」

 まぁ、確かに、どうせ腕は組むことになるのだから、今組んでも同じことか。これもリハーサルの内と思えばいいのだろう。ほら、渋谷さんのためのリード練習とでも思えばいいんだよ。
 そう言い聞かせて、渋々腕と胴体の間に故意に開けられた隙間に、肘まで白とレースでできた手袋に包まれた腕を差し込み、絡めて、胴体を寄せる。・・・うむ。すごい慣れない距離感だ。
 なんとなく気恥ずかしくて俯き加減に目を伏せると、日向さんがゆっくりと歩き始めた。裾の長いドレス故、歩みが遅くなることを考慮してのペースだろう。うん。リハーサルの必要がないぐらいこの人リード慣れしてね?そう思いつつ、こちらもドレスの裾を踏まないように注意しつつ足を進める。くっそ、ヒール云々よりもこのロングドレスの裾に躓きそうだ・・・!
 悪戦苦闘しつつ、羞恥心とかまぁ諸々に苦心しつつ、私は、人生初(トータル合わせてマジで初である)のウエディングドレスを堪能・・・堪能?したのであった。
 まぁ、その日向さんとのツーショット写真をこっそり撮られて、それを見た月宮さんに盛大に駄々こねられたりする羽目になったのだが、そんなこたぁ一杯一杯だった私には、到底考えつかない話なのである。






〔つっづきから!〕

「四月、略」

「ねぇシャイニー。一体何を考えてるの?」

 綺麗に描かれた眉をきゅっと寄せて、月宮さんが眉間に皺を刻む。その蒼い瞳には不安と心配をチラつかせて、己の上司を見上げていた。

「全くだ。いきなりあんなこと言い出して・・・どういうつもりなんだ」

 こちらは日頃とほぼ変わりはないが、やはりいつもよりもいささか険しい顔つきで、目の前に悠然と座る上司を睨みつける。低い声は、恐らくは自分にさえも知らされていなかった突然の出来事に、いささかの苛立ちを覚えているのだろう。いつものこととはいえ、今回ばかりは規模が違う。日向さんが苛立ちを見せるのも無理はないだろう。そう納得をしながら、二人の険しい視線を一身に受ける事の元凶はといえば、そんな視線など物ともせず、口元に薄い笑みを浮かべて椅子の背もたれにその身を埋めていた。
 その、ちっとも人の気苦労など歯牙にもかけていない、と言わんばかりの態度に、二人のこめかみがひくりと引き攣ったのを眺めて、私は深くため息を零した。全く。

「いつから私の部屋は会議室になったんですかね・・・」
「Oh!miss.ナカムラ!デザートはできましたかー?」
「社長ご所望の各種フルーツのシャーベットを用意しましたよ」

 シリアスな空気感を叩き壊すように、ガラスの器に盛った色とりどりのシャーベットをお盆に乗せてキッチンから乱入すれば、社長はパッと顔を輝かせてこちらを振り返った。なんだろう、最近この巨体が部屋にいることに違和感がなくなってきた。この人がいるだけで部屋が狭くなったような豪華になったような不思議な感覚になるんだよねー。まるで子供のようにデザートの登場に喜色を示す社長に、なんとなく反応が一十木君に似てるんだよな、と思いつつ目の前にメロンシャーベットを置く。
 月宮さんにはレモンシャーベットを、日向さんにはオレンジシャーベットをことりと置いて、自分の分にはスイカのシャーベットを用意して椅子に座れば、視線は一斉にこちらに集まった。

「そもそもですね、そういう真面目な話は本当事務所の方でしてくださいよ。少なくとも私の部屋で食事会の後にする話じゃないですって。というかなぜこのタイミングで私の部屋に集まるんですか」
「だーって、透子ちゃんの部屋なら美味しいご飯もお酒も出てくるし気兼ねしなくていいしー?お店だと迂闊なことは言えないから気を張っちゃうもの」
「ここならまず安全だからな。マスコミの心配をしなくてもいいのは楽なもんだ」
「Meは単純にご飯が食べたかったからデース」
「あ、そうですか・・・」

 え、なにその軽さ。特に社長。それ一番ダメな答え。てーか私の自由な時間を奪っている事実はスルーですかこんちくしょう。先ほどまでの真面目な空気は?と言わんばかりに砕けた調子でシャーベットに手を伸ばす面々に、またため息を吐きそうになって寸前でぐっと堪える。くっそこいつら上司の権力フル活用しやがって。ともすれば飛び出しそうな不平不満を飲み込むように、スイカのシャーベットにスプーンを突き刺し口に運んで蓋をする。冷たい甘さが舌の上に広がると、少しで気持ちが落ち着いた気がした。甘いものはやはりいいなぁ。

「それはそうと、話は戻すけどシャイニー。ハルちゃんの曲をHE★VENSに渡すなんて何を考えてるの?」
「元々こっちが不利な話だってのに、なんでまたハードルを上げるような真似をすんだよ」

 シャーベットをスプーンで掬って口に運びながら、月宮さんがじとり、と社長をねめつける。
 それに同調するように、日向さんが理解できない、とばかりに胡乱な眼差しを社長に向けて、その真意を探るように瞳を細めた。私は黙って、詰問されている社長にちらり、と視線を向ける。社長は二人の避難を聞きながら、さくさくとシャーベットにスプーンを突き刺した。

「ただ勝つだけではエンターテイメント性に欠けマース!ドキドキハラハラワックワク!いくつもの障害を乗り越えてこそ真のアイドルになれるのデース!」
「あんたなぁ!この賞には事務所の威信もかかってんだぞ!?」
「そうよシャイニー!しかも負けたら解散だなんて・・・!」
「You達は、ST☆RISHが負けると思っているのデスカー?」

 きょとーんとばかりにわざとらしく小首を傾げて、今にも椅子をけって立ち上がりそうだった日向さんたちの出鼻を挫くように問いかける社長の口先は、ただの勢い任せではないとこんなとき感じる。的確に、反論しにくいところをぶち込んでくるのだから、海千山千の芸能界の化け物は伊達ではない。
 自分たちの後輩、ひいては元生徒の実力が信じられないのか?と、そう問われれば彼らのことだ。ぐっと言葉に詰まり、それ以上の反論などできるはずもない。まぁでもこれは、信じる信じないの次元ではなく、どう考えようともただ心配なだけなのである。なにせまだ芸能界に入って一年も経ってないからな、彼ら。いや、一ノ瀬君だけはキャリアは長いんだっけ。まぁでも物事に絶対なんてものはないのだから、心配も不安も当然である。負けるときは負けるし、勝つときは勝つし。何よりあのレイジングプロダクションが相手となれば、神経質になるのも頷ける。正直、中継見てた側としては「ちょwwwグリリバwww」とか思っていたわけだが。おいおいまさかのグリリバかよ。てかあのキャラなんだよ面白いな。変態臭くて。あの無口キャラの人も声に聞き覚えがある気がするし、あのちっちゃい子に至ってはこれから成長するにつれてどういう路線にしていくのか非常に気になるところだった。でも得てしてああいう自分が一番★みたいなのって、適当なところで叩き落されることが多いんだよねー。

「そういうわけじゃないが、けど楽観視もできない話には違いないはずだ。相手だって、決して名前だけの相手じゃない」
「そりゃ、ハルちゃんの曲や、ST☆RISHの皆の歌声は素晴らしいわ。特に、セシル君の声が合わさった歌はそれもうすごかった。でも、決してそれだけで勝てるわけじゃないのが芸能界よ。ねぇシャイニー。本当に、大丈夫なの?」

 新進気鋭の若手に対して、確かに高すぎるハードルかもしれない。賞を取ることもそうだが、負ければ解散という重圧も半端ではない。それら全てを乗り越え、自分の実力の全てを出し切れるのかと問われれば、恐らくは難しいといえるだろう。信頼の前に、先輩として、教師として、大人として。子供を心配し、そして社会人として事務所の利益を考えて、彼らは苦言を呈するのだ。
 確かに社長の今回の提案は突拍子もない。普通、平等性を出すためとはいえこっちから曲を出しだすなんてことしないし。七海さんの曲は、そのどれもが素晴らしい出来には違いないからだ。それが他者の手に渡ることは、一つの不安材料を増やすことに他ならない。まぁその前に、他人の曲を勝手に差し出すなやって話だが。七海さんびっくりしてたっつーの。むしろショック受けてた?いつから考えていたのかは知らないが、本当に、人を置いてけぼりにする天才だなこの人は。まぁレイジングの社長も大概あれだったが。なんだあれマフィアか。この業界はああいう人間じゃないと社長やってけないのか。キャラ濃いよ、ホント。

「Ms.ナカムラはどう思いマスカー?」
「え?私、ですか?」

 我関せず、とは言わないが、会話に参戦することもなく聞き役に徹していた私に突然社長が話を振ってくる。相変わらずサングラスに隠された顔には不敵な笑みを浮かべていたが、私はその顔を一瞥して、言葉に迷うように視線を泳がせてから、空になった器にスプーンと置いた。

「・・・正直なところ、さほどの心配はしていませんよ」
「え?」

 あーちょっと体冷えたな。暖かいお茶いれてこようかなーと思いながら口を開けば、思いもよらないことを聞いたかのように、月宮さんと日向さんが丸く目を見開いた。対照的に、社長は愉快そうにくっと口角を持ち上げて、その先を促すように腕を組む。傍観体勢に入ったな、この人。その様子に吐息を零して、私は先を口にした。

「彼らの実力も絆も確かですし、何より七海さんの曲を彼らが歌うんです。私としては、HE★VENSが勝てる要素の方が低く思いますよ」

 だってあの人たちやたらめったらキラキラしてんだもん。確実に世界は彼らを中心に回ってる気がしているよ私は。主人公気質というか、なんというか・・・あれらは確実になんらかの恩恵を受けている部類の人間だと見た。私がどれだけマジもんの主人公やらを見てきたと思ってるんだ。この目に狂いなどない!そう、なんの疑いもなくそういえば、月宮さんも日向さんも呆気に取られたようなポカンとした顔でこちらを凝視している。楽観視?言うならそう言えばいい。あの七人、七海さんを加えれば八人の紡ぎだすえ?なにこれ?ここ普通の現代日本だよね?的な世界観を知ってさえいれば、恐らく心配なんぞ杞憂といえるものには違いない。それに、よーくよく事の顛末を考えてみるに、存外早乙女社長は過保護じゃないか、とも思うのだ。

「そもそも、七海さんの曲をHE★VENSに提供したことだって、平等とは言いにくいと思いますし」
「どういうことだ?あれは、同じ作曲家という前提条件での勝負だろう?」
「土台がおんなじだもの。平等だと思うけど?」

 何より、早乙女社長だってそう言っていたじゃないか、という二人に、私は困ったように眉を下げて、ちらりと社長を見た。あくまでこれは私が放送後や、月宮さんたちのやり取り中よくよく思い出して考えてみただけの話だから、正しいこととは言えないのだが・・・。一個人の考察というか。よくよく考えればうん?と思うところがあったというか・・・。
 どうしたもんか、と社長を伺い見ると、彼はニィンマリ、と白い歯を見せて笑顔を見せてきた。

「miss.ナカムラは何故そう思うのデスカー?今回の条件はお互いの真の実力をぶつけあうための提案デース」
「・・なら、七海さんにはHE★VENSの曲を書かせるべきだったと思います」
「ほう?」

 あ、今素が出た。少しばかり低くなった声にそう感じつつ、続きを促す視線に、仕方なく口を開く。

「確かに、同じ作曲家という点では平等かもしれません。でも、決定的に違うのは、七海さんはHE★VENSを知らないという点です。そもそも、社長が相手に渡した曲は元はST☆RISHのために、七海さんが書いた曲でしょう?いくら曲にアレンジが利くとはいえ、「誰かの為」に作られた曲を、全くの他人が歌ったところでその歌の本質を全て引き出せるはずがない――と、私は思いますが」

 特に七海さんは、歌い手のことを知って、理解し、その親愛や信頼を曲にしていくような密着型の作曲家だ。いや、もちろんそれだけしかできない、とは言わないけど、彼女がもっとも実力を発揮するのはそういう方法だと思っている。元々学園の教育の仕方がそういう路線であることも、一つの要因かもしれないけど。七海さんが、ST☆RISHに歌ってほしいと思って作った曲だ。いい曲なのには違いないだろう。誰が歌っても、多分いい歌になるだろう。でも多分、それだけだ。いい曲は、素晴らしい曲には為り得ない。きっと、ST☆RISHが歌うように、彼女の曲の世界を、HE★VENSが広げることは難しいと、そう思う。だから、本当に、平等に、お互いの実力の全てをぶつけるのならば・・・七海さんに、ちゃんとHE★VENSのための曲を、書かせるべきだったのだ。それをせずに、元からあった曲を差し出した社長は、恐ろしくST☆RISHの勝率を引き上げた。恐らく、その時点では、彼らの勝率は五分五分かそれ以下だったのかもしれない。けれどもエンターテイメントの追究という、大袈裟な演出。たったそれだけで、それはひっくり返った。勝つための算段をこの人は立てていたのだ。勝てる勝負しかしない。あるいは、勝つ勝負しかしない。それがこのうたプリアワードの開催が決定した瞬間から考えていたとしたら・・・この人は、本当に恐ろしい手腕を持つ人間だと言えるだろう。あそこまで大々的に、これは平等な勝負なのだと宣言し、あまつさえ相手側がそれを受理なんてしてしまったものだから、もう世間からも周囲からも、それが巧妙に仕組まれた不平等などと映るわけがない。レイジングの社長も、まんまと早乙女社長の口車に乗ってしまった、というわけだ。うむ。後輩の癖になんと恐ろしい男だ、シャイニング早乙女。・・・と、なんとなく深読みしてみたわけだが、どうだろう?考えすぎかな?

「平等に見せかけて、これは存外に不平等な勝負ですよ。まぁ、会社のこれからにも関わってきますし、多少の裏工作は仕方ないでしょうね」

 社長だって幾人ものアイドルや社員を抱える企業の長だ。人の生活やら夢やらをその大きな背中に載せきれないほど背負っているのだから、それらを守るためにある程度の行いは目を逸らすのが社員というものである。別に、犯罪に手を染めているわけじゃないし。ただちょっと口が上手いだけだって。見抜けない相手側に落ち度があるのだ。騙される方が悪い、というわけじゃないけど・・・まぁ、あの状況でその裏の裏まで読め、というのは空気感が許さない感じではあったけど。それもきっと策の内だったんだろうなぁ。まぁ、あくまで私の推測でしかないんだけど。この人の考えなんて全部読めるわけないし。ただ、冷静になって考えてみると、あれ?と思う気がしただけで。だからマジに取らないでくださいね、と言おうとして、しかしその前に渋面で日向さんが口を動かした。

「言われてみれば、確かにそんな気もするが・・・」
「本当なの?シャイニー!」

 私の推論に、月宮さんと日向さんが戸惑いを浮かべて社長を見る。いや、二人とも、これあくまで私の推測で決して信憑性があるわけでは・・・。思わず止めようとした私を遮るように、社長は、そんな二人を眺めて、ニカ、と白い歯を見せた。キラン、と、部屋の照明を反射して社長の真っ白な歯が光る。うぉい。

「Meは、勝てる算段のない勝負はしない主義デース!」

 ・・・・・・それ、どうとでも取れる発言なんだけど、明らかに目の前の二人には誤解された気がしますよ、社長。なんてこった、という顔をしてぐったりと脱力する日向さんと月宮さんを尻目に、社長は私に向かって、食後のコーヒークダサーイ、とのたまった。

「・・・社長は、結構意味深な言い回しが得意ですよね」
「解釈は人それぞれ十人十色、百人百様、人の数だけstarのよう!どう捉えるかは、本人次第なのよん☆」

 多分、サングラスの下でウインクでも飛ばしたんじゃないかと思いつつ、よっこらせ、と、私は食後のコーヒーないしはお茶をいれるため、席を立った。・・・まぁ、究極、やりあうのは私たちじゃないんだし、こんな議論だ無駄だったりするんだな、これが。身も蓋もない、と、どこかで誰かが言った気がしたが、私をそれをただの空耳としてスルーした。
 とりあえず、今後被害を被るのだろう相手側に、合掌しておこう。頑張れ、色々と。





〔つっづきから!〕

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