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「ワインと薔薇」

 流れるような動作で傾けられたワイングラスから、ばしゃり、と大きくはないが場を凍りつかせるには十分な水飛沫があがると、ぽたりと名残のようにワイングラスの口から雫が滴り落ちた。
 真っ白なテーブルクロスの上に赤い染みが点々と広がり、ぷんとした酒気の臭いが鼻をつく。
 誰もが、茫然と口を開けて呆けていた。言葉もなく、突然の暴挙に凍りつくほかできずに、ただ、事の中心地に視線が集まる。集まった視線の先で、ワイングラスを向いの人間に傾けたままの状態で、ひどく冷ややかな眼をした女性がいた。ぴしりと伸びた背筋。細い首筋にメリハリのついた体を真紅のドレスで着飾って、ドレスと同じ真っ赤に燃えるような赤い髪と瞳が、ひどく印象的な――薔薇のように、気高い女性。凛としたその立ち姿に、奪われた視線で食い入るように見つめていれば、彼女は冷ややかな眼で、くっと真っ赤なルージュの引かれた口角を吊り上げた。
 凍りついた瞳には不似合いな、苛烈な微笑み。顔が整っているからこそ、余計に迫力を増したその笑みに、ワインを引っ掛けられた男の顔がひきつった。

「ごめんあそばせ。大した実績も実力もない豚の口から、私の友人を侮辱するような言葉が聞こえたものですから、つい」
「な・・・っ!」
「あの子を貶すのでしたら、それ相応の実績や研究成果をあげてからにしてくださいませんこと?子供ではないのですから、お家自慢もほどほどにしてくださいませんと・・・あぁ。そうですわね。実力も知識もないのですから、自慢できることなどお家のことしかございませんわね。私ったら、うっかりしていましたわ」

 ふふ、と鈴を転がすような声を零してころころと笑う女性に、周囲が釣られたようにクスクスと笑いが零れる。さざなみのように広がるそれに、面と向かって貶された男は、茫然とした顔から一転して、ワインで顔面を濡らしたまま、赤黒く顔を変色させてわなわなと拳を震わせた。

「ソ、ソフィアリ学部長のご息女といえど、許されませんぞ!!その発言は我が家に対する侮辱だ!」
「あら・・・私、貴方を侮辱はいたしましたけど、貴方の家を侮辱した覚えはありませんわ?貴方自身に価値はありませんけど、貴方の家には価値がございますもの」
「~~~~っ!」
「とどのつまり―――家柄振りかざして踏ん反り返るしか能のない三流魔術師が、知ったかぶった顔しないでくれません?と、いうことが言いたいだけなので。それでは、失礼致しますわ」

 留めのように、にっこりと綺麗な微笑を見せつけるように浮かべて見せて、彼女は言葉もなくぱくぱくと口を魚のように開閉することしかできていない男に、なんの未練もない、とばかりに背中を見せた。ハイヒールの踵が、カツン、と硬質な音をたてて遠ざかっていく。その、迷いのないまっすぐな背筋に。ただ、誇りと、気高ささえ窺える、美しい姿に。
 思考すら奪われて、半ば無意識に、何も考えずにざわめく周囲を残して、その背中を追いかけた。その際、赤ワインに塗れた男が泡を吹いて喚いていたが、どうせ何もできはしないだろう、と冷ややかな眼でちらと一瞥だけして、当に広間から出て行ってしまった背中を追いかけた。
 足の長さか、それとも歩く速さの違いか。そう間をおかずに出たはずなのに、あの赤い背中が見当たらずに、内心で焦りを覚えて長い廊下を走る。きょろきょろと目を動かしながら、あの女性を探せば、すでに玄関のホールに辿り着いていたようで、階段の上から玄関に向かう背中を見つけ、慌てて階段を駆け下りた。
 その足音が聞こえたのか、彼女がゆっくりと後ろを振り返る。その燃えるような赤い瞳が、こちらをひたと見据えた瞬間、どくり、と心臓が大きな音をたてたのがわかった。

「あら・・・貴方は」
「ケ、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトと申します。ソラウ嬢」
「そう・・貴方が。私に何か御用?」

 そういって、一瞬瞳を細めた彼女――ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ嬢は、頬の筋肉を動かして微笑を浮かべる。それは、あの広間で見せた苛烈な微笑とはまた違う、ひどく感情の籠らない微笑みで・・・・なぜか、そのことが無償に悲しくなった。

「いえ、その、先ほどは、我が家の名誉を守ってくださり、ありがとうございます」
「――あぁ。いいのよ、そんなの。別に、アーチボルトの家を守ったわけではないもの」
「え?ですが、」
「私が守ったのはトオコの・・・私の友人の名誉。いいえ。守ったわけでもないわ。ただ、許せなかっただけよ」
「トオコ・・・前、当主の」
「そうね。あなたの従妹になるのかしら?ふふ、私の自慢の友人よ」
「友人、ですか」

 呟くように相槌を打てば、その瞬間、穏やかに赤い瞳が細められる。その、いとおしげな顔に、とくとくと早くなる心臓をぎゅっと服の上から掴めば、彼女は遠い目をして口を開いた。

「そう、友人よ。私の、大切な、たった一人の・・・親友。だから、あんな三流魔術師に侮辱されるなんて我慢ならないわ」
「・・・トオコ様は、東洋の魔術師の聖戦で亡くなったと」
「えぇ。元々、戦争向きじゃなかったのよ。送り出した私が言えた義理じゃないでしょうけど・・・馬鹿ね。止めればよかったんだわ。ランサーと一緒に、ここに残って貰えばよかったの」

 そうすれば、亡くさずにすんだのに。そういって。悲しげに笑む人に、胸が締め付けられる。

「極東の島国で、聖杯戦争に負けて死んだことを、周りは馬鹿にしているけれど」
「・・・」
「あの子があの地で何をなそうとしていたのか、知りもしない様子は滑稽だわ。いずれ、それも日の目を見るでしょうけど・・・あの男が、最近頭角を現してきたようだし」
「あの男?」
「あの子、生徒に好かれてたのよ。本人はあまり自覚はないようだったけど。そうね、貴方も精々、生徒に好かれる教師になることね?――アーチボルトの次期当主殿」

 そういって、不意に表情を消して背中を向ける彼女に、引き留めようと口を開くが、きゅっと無理やりに唇を引き結んだ。あまりにも、最後の一言が、冷たくて。感情の籠らない、その声音は。前当主を・・・彼女が友人だと豪語するあの人を語る声音とは、あまりにかけ離れていて。彼女は、気づいていたのだろうか?アーチボルトの家の中でも、彼女の評価が落ちていることを。勝利を得られなかった彼女が侮蔑されていたこと。東洋の魔術師風情に遅れを取ったと、皮肉られていること――自分も、そう思っていたことを。
 あぁ、自分も、あの人の中では、ワインを引っ掛けられたあの男と同類だと思われているのだろうか?それが、たまらなく悲しくて、悔しくて、去っていく背中に追いすがることもできずに、じっと見つめるしかできずに、唇を噛む。

「トオコ・アーチボルト・・・」

 唯一人。薔薇のように気高いあの人の、柔らかな心を得た人。絶大なる信頼を親愛を、手にしていた女。
 どうしてこんなにも、あの人が気になるのかわからない。この鼓動打つ心臓の意味も、あの人の冷ややかな瞳にショックを受けた心中も。わからない。けれども。

「聖杯戦争・・・」

 当時、そこで、何が起こったのか。あの人がいう、トオコ・アーチボルトが為そうとしたことを、知れば。
 あの人に、もっと近づけるだろうか?
 拳を握りしめ、踵を返した。―――時計塔への入学を、早めた方がいいかもしれない。そうして、辿ろう。トオコ・エルメロイ・アーチボルトの・・・・私の従妹の、その軌跡を。





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〔つっづきから!〕

「危険物をどうにかしたい」

「透子は、私が絶対守るからね」

 私の手を強く握りしめ、悲壮さの中に強い決意を込めて言い切った姉さんに、私は返す言葉もない。きょとんと目を丸くする私は、姉が何故そんなにも切羽詰った顔をするのかがわからず、また、いきなりそんなことを言われたせいか、こてり、と首を傾げるしかなかった。そんな私に微笑みかけて、姉さんはきゅっと唇を引き結ぶと強く握った手を放して踵を返した。姉さん?と呼びかければ、姉は首をそらしてこちらを向いて、ちょっと部屋に籠るから、とそれだけ言い残して自室へと入って行ってしまった。・・・もうすぐご飯なのに。
 それでも、ひどく思いつめたような様子に引き止める言葉を持たない私は、そう、と一言返すしかできなくて、部屋の中に消えた姉の背中を見送ると無意識に姉に強く握られた右手の甲を撫でた。

「・・・なんでこうも、縁が切れないんだか」

 一つ、ため息ついて己の手の甲を見下ろす。そこにある、赤い文様に、きゅっと眉を寄せて隠すように左手で覆うと、まさか姉はこれが何か知っているんじゃ、と閉ざされた扉を見つめた。まぁ、見たところで姉が顔を出すはずもなく、疑問も解消されないまま、また手元の問題も残ったまま、私は一度首を横に振って諸々のことを追い出すと、ひとまずお茶でも飲もう、とキッチンに赴いた。
 電気ポットの中のお湯を急須に注ぎ、コップにお茶を注いでいそいそと炬燵に足を突っ込んだ。あー炬燵はやっぱいいわぁ。コップを両手に包みこむようにして手に持ち、ちびちびと口をつけてほう、と吐息を零す。
 うむ。

「ないわー」

 落ち着いたところで手の甲を見下ろして、突っ伏すように炬燵の天板に頬をくっつけた。これってあれだろ?ほら、なんか知らないけど私ここに何回か転生しちゃってるけど、その度に出てるあれだろ?・・てか同じ世界に何度も転生ってのは初めてなんだよな・・・。まぁ、結局どれもこれも悲惨な結末だけども。うん。この世界まじないわー。
 それでもって、主に悲惨なことになるのはこれのせいだよねっていう。・・・なんぞ私に恨みでもあるのかって感じだよね。私なにもした覚えないですけど。ないわー。もうないわーとしか言いようがないぐらいないわー。

「それでもってやっぱり龍脈の汚染酷いし。聖杯この野郎って感じだし。なんか色々泣きついてくるし。知らんがな、もう」

 これでも小さいころからちまちまちまちま草の根活動はしてるんですよ。まぁ、大本どうにかせにゃどうにもならんわけだが、さすがにいきなり突撃かますとか・・・ただの馬鹿だよそれ。軽くトラウマだしあれ。くっそあの泥め・・・。
 ぐちぐちと文句を連ねながら、これどうしようかなぁ、と思考を巡らした。教会に行けば確か返却はできるらしいし・・あーでもなんか前は変な連中に襲われたんだよね。なんだっけ、誰それを助けろとか冬木あぼん回避とか、あと原作を壊すなとか・・・うん。わけわからんな。
 早々にこの危険物をどうにかせんと。またあんなのに絡まれたりしたら嫌だし。教会に明日行って・・・そういえばあそこの神父がマスターになってったっけな・・・。あんまり性格もよろしくない感じだったし。てかランサー召喚した時はあれとアーチャーがやらかしてたよな・・・あとセイバーのマスターと・・・うん。近づかない方がいいかもしれない。
 ってことは誰かに譲渡?・・・前譲渡したのに殺されたからな・・・。いやサーヴァントが戻ってきたからなんだけど。まぁでも、性格が合わないんなら仕方ないよなぁ。うーん。うーん・・・・・・まぁ、とりあえずこの令呪は隠すべきだな。刺青とか思われても嫌だし。でっかい絆創膏あったかな。
 そう思い至って、救急箱を探そうと腰を浮かせると、ばん、といささかの勢いをつけてリビングのドアが開け放たれた。姉さん、ドアは静かに開け閉めを行うものですよ。腰を中途半端に浮かせた状態でびくっと肩を跳ねさせて振り返った先には、眉間にきつい皺を寄せて片手にA4の用紙を握りしめた状態で、姉さんが立っていた。・・・何事?

「透子、お願いがあるの」
「え?なに?」

 怖い顔をして、こちらに歩み寄ってきた姉さんはそういって炬燵の上にA4のコピー用紙を置いた。必然的にそのコピー用紙を見下ろせば、そこには何やら見覚えのある魔法陣がプリントされていて、ぎょっと目を丸くする。・・・え?

「本当は、こんなことに透子を巻き込みたくないしさせたくもない。・・でも、きっと、生き残るためには、これが一番可能性が高いはずだから」
「え?え?姉さん?」
「わけわかんないと思う。頭可笑しいんじゃない、って思うと思う。でも、透子。お願い。私を信じて」

 そういって、ひどく真剣な様子でとつとつと話し始めた姉に、何故姉が聖杯戦争のことを知っているんだろう、と思ったけれど。もしかしてうちって、私が知らないだけで魔術師の家系だったのかな?と首を傾げた。ただの一般家庭かと思ったんだが・・・違ったのか。うーん。だがしかし姉さんよ。サーヴァント召喚って言われても、A4のコピー用紙の魔法陣じゃ、さすがに無理だと思うよ・・・?
 手渡された詠唱文がやっぱりプリントアウトされた用紙を手に持ちつつ、私はまぁ、正直出てこない方がいいだろうしな、とため息交じりに、姉のお願い、とやらを叶えるために、コピー用紙に目を滑らせた。








〔つっづきから!〕

「終焉」

 私は、認識を間違えていたようだ。いや、気づくのが遅すぎた、というだけの話であろうか。
 
 どちらにせよ、最早逃げも隠れも後戻りもできないのは明白だ。


 「龍脈が汚れていた」から、聖杯が汚れたのではない。

 「聖杯が汚れていた」から、龍脈が汚れたのだ。


 まさか、優勝賞品そのものが原因だったなどとは、とんだ盲点である。おい開催者、商品の点検ぐらいしとけ。・・まぁ、その管理者もすでにこの世にいないらしいので、今更の訴えであろうが。
 だから万能の願望器なんて、信用ならないんだ。悪態を吐いても、答える声はない。いや、近くに人はいるのだが、あまりの事実に言葉もないようだ。私とて、絶句していられるならずっとそうしていたい。けれども、現状はそうはさせてはくれないようだ。
 
 
 目の前で怨嗟の声を響かせるどろりとした大量の泥が、聖杯という器から溢れてくる。
 恨み憎しみ悲しみ狂気絶望嫉妬、ありとあらゆる負の感情を「泥」という形で現界させ、そうして町を覆い尽くさんとその魔手を伸ばしている。あれに触れてはいけない。触れてはあるのは死という絶望のみ。よしんば生き残れたとしても、泥の呪いで蝕まれていくことに変わりはないだろう。
 そもそも、聖杯のシステムそのものが歪みの原因だ。東洋でいうなら、蠱毒という呪いの術式となんら相違のない、他者の願いを貪り為す奇跡。そんなもので叶う願いなど、歪んでしまうのも仕方ないだろう。
 あぁ、だから、本当に、なんでも願いが叶うなんて眉唾ものの存在なんて、信じちゃいけないんだよな。
 溢れていく泥が町を覆い尽くしていく。それが完全に町を飲み込めばどうなるかなど、わかりきっていた。そうして、それが為されれば、この土地が真の意味で死ぬだろうことも。

 選択肢はここにある。手元の手札を切ってしまわなければならない。選べ。未来を。結末を。

 
 後ろを振り返る。私の後ろには、二人の男が立っていた。いや、一人は、愕然と地に膝をついて、その瞳を見開き、その死んだ瞳に泥と炎を映して絶望していただけだけれど。もう一人は、やはり茫然と、地獄と化していくだろう町を、見つめていたけれど。――もしもここに、私一人だけで、あったのならば。

 
「―――令呪を持って命じる」

 手の甲が熱を持つ。赤い光が輝きを増して、はっとしたように視線が注がれた。主、と後ろで焦ったように呼び掛けられる。それに振り向いて、目を見開くランサーと、思考が追いついていないかのように、茫然としている衛宮切嗣を視界に収めた。

「ランサー。セイバーのマスターを連れてこの場から離脱。その後、聖杯を介することなく、座に戻りなさい」
「主!?」
「なっ」

 
 驚愕に目を見開く衛宮切嗣とランサーを見つめて、小首を傾げる。赤い光がランサーの包むと、彼はひどく焦燥に駆られたような必死の形相で首を横にふった。

「主、なりません!!逃げるのならば、あなたも共に!!」
「な、にを考えてるんだ君は!ここにいれば、君まであの泥に飲まれるんだぞ?!」

 そういいながらも、ランサーは令呪の魔力に抗えないかのように、衛宮切嗣に手を伸ばしていた。しかし、懸命にそれを抑えようとする姿に、困った子だなぁ、と苦笑を浮かべる。

「ランサー」
「ある、じ・・・!」
「忠義を、尽くしたいと、言っていたね」
「・・・っ」
「なら、お願いだよ。私の願う通りに。私の望みのままに。・・・私を主と思うのならば、どうか私の願いを叶えて」

 ひぐ、とランサーの喉が鳴った。見開いた琥珀の瞳は一瞬暗く淀み、僅かに開いた唇が何か物言いたげに震え。けれど、最後には言葉を飲み込むようにきつく噛みしめると、喚く衛宮切嗣を肩に担ぎ上げた。ひょい、といとも容易く俵担ぎされた本人はぎょっと目を剥いて暴れたが、まぁ、普通の人間とサーヴァントの力量差なんてそれこそわかりきっているので、無駄な抵抗というものだ。そのままくるりと後ろを向いたランサーに、見えないだろうけれど笑みを浮かべる。
 俵担ぎにされた衛宮切嗣は、丁度私と向かい合う形になったが、私の顔を見るとひどく苦しげな顔をして唇を噛んだ。

「ここに残って、どうするつもりだ・・・!」
「できることをします。・・・あなたも、今、あなたにできることをしてください。きっと、あなたの手を待っている人がいますから」
「・・・っ」
「ランサー」
「はっ」
「お願いね」
「・・・・御意」

 短い返事を残して、ランサーの姿が消える。英霊のスピードなんぞ目で追えるわけがないので、まぁきっと走り去ったんだろうなぁ、と思いながら迫りくる泥を振り返った。

「・・・二人がいなきゃ、逃げてたかもね」

 一人だったら、怖くて怖くて、死にたくなくて。逃げだしていたんじゃないかなって。思うけど。まぁ、結局、現実はここに一人で残っているのだから、IFなんて意味のないことだ。

「――巡れ、天の声」

 ウェイバー君が戦線離脱していてよかった。さすがに事の顛末を伝える術はないけれど、彼のことだからきっとなんらかの形で気づくだろう。そうすれば、彼が聖杯をなんとかしてくれないかなぁ、って思ったり。こんなもの、さっさと廃止になっちゃえばいいのにね。

「――響け、地の声」

 ソラウは怒るだろうか。泣くだろうか。アーチボルトの家は大丈夫だろうか。まぁ一応時期当主候補は決めてたし、刻印も戦争前に返却してたから問題はないと思うけど。やっぱり、戦争なんて何が起こるかわからないね。まぁ、こんなことになるとは誰も予想だにしてなかったとは思うけど。友人の泣き顔は辛いな、と思いながら、眩い光に、目を細めた。



「彼の者を、封ぜよ」







 

 あの日、生き残った人はいう。


 真っ白な龍が、冬木の空を昇って行ったのだ、と。






〔つっづきから!〕

【私の天使を】成敗戦争なぞ消え果てろ【守りたい】

冬ちゃんにチャレンジ!


してみましたけど顔文字とかなんか色々難しい上になんか流れがいまいちわからない。想像以上に難しいね、これ。
こんな感じ、なんですかね・・・?うーん。ほんとよくわからないよ。
まぁ基本が俄かすぎてどうもこうもな感じではありますが・・・。



あ、ちなみに成り代わりでも出戻りでもなく、また別バージョンの傍観主のネタです。
でも安定して傍観主はスレ立てなんかしませんので。つまり傍観主の身近な人間がスレ立てしたよ!って奴です。傍観される傍観主。そしてそれを傍観する傍観主。
まぁ、本来なら傍観主の身近な人に0-10が出て、それを傍観主が見てるっていうスタンスが一番ベストなんですけど、折角ですし、当事者系でやってみました。第三者視点の傍観主、な感じで。傍観主視点も書いてみたいですね。





〔つっづきから!〕

「先生と王様」

 温めたとっくりをお盆において、いそいそと広間に向かう。ぱたぱたとスリッパの音をたてながら廊下を歩き、中に入ると、散乱する酒瓶と空になったお皿が重なり、全く酷い有様だった。これ片づけるの私だよね、と思いつつも、その散乱した中心で上機嫌で杯を傾ける巨漢の大男にそっと近寄りその横にお盆をおいた。

「おぉ、ランサーのマスター。新しい酒か?」
「はい。日本酒を熱燗で」

 そろそろ締めに入らないかなーと思いつつ、にこやかな顔で杯を差し出すライダーに慣れた手つきで酒を注ぐ。透明色の液体が並々と注がれると、嬉しそうに顔を寄せてぐいっと煽る。沿った太い喉がごくごくと美味しそうに上下する動きを下から見上げて、その間に空になった酒瓶を持ってきたお盆の上のとっくりと入れ替えるようにして片づけた。
 彼のマスターであるウェイバー君は早々にぶっ倒れてご就寝中だ。ちなみにランサーもぶっ倒れている。うん。騎士は王様のペースに耐えられなかった。お酒、弱くはなさそうだが、この人のペースなど顧みないライダーに合わせて、いや合わせられて半ば無理やり飲まされていたようなものなので、致し方ないというものだろう。幸いなのは、英霊なので多分二日酔いなんてかっこ悪いことにはならないだろう、ってことぐらいか。・・・ならないよね?というか英霊って酔えるんだーという新たな発見、これはこれで貴重な情報だよな、と胸に留めつつ、料理担当兼お酌係として酔い潰されることを回避した私は、明日買い物にまたいかないとなぁ、と思いながら、再び差し出された杯にお酒を注いだ。
 それをあまたぐいっと煽って、ライダーはぷはぁ、と酒臭い息を吐く。

「うむ。この国の酒も中々美味だな!」
「お褒めに預かり光栄です」

 魂の故郷のものを褒められるのはやっぱり嬉しいものだね。にこり、と笑みを浮かべれば、ライダーは目を細めて口元を笑みの形に歪める。

「それにしても、お前さんの飯は美味いなぁ。どうだ?やはり余の配下とならんか?」
「身に余るお言葉ですね。ですが、私には荒事が向きませんので、お気持ちだけ頂きます」
「この腕前、実に惜しいのだがな・・・。それに荒事に向かないという割は、今日のあれは中々の腕前ではなかったか」
「多少経験があるだけですよ。それにしたって、ランサーとライダーがいなければ正直死んでいた可能性の方が高いですし」

 飯炊き係っすかライダーさん。・・・世界征服に手を貸すのはちょっと。苦笑を浮かべながら、もう一杯、とわざとらしくとっくりを掲げると、ライダーは豪快に笑いながら杯を目の前にもってくる。こうやって乗ってきてくれるのがこの人のいいところだよなぁ。今度は一気に煽るのではなく、ゆっくりと口につけながらライダーは今日のことを思い返すようにふと真面目な顔で呟いた。

「怨霊だったか。なんとも厄介なものだな」
「あれも、龍脈の汚染が原因でしょうね。・・これから、ああいうのが増えてくることでしょう」
「ふぅむ。あまりこちらの力も効かないようだったしな。しいていえばランサーの・・・破邪の赤薔薇だったか。あれが有効なぐらいか」
「全く効果がない、というよりはましですよ。正直、あなたに戦力外通知を出すかもしれませんでしたし」
「宝具を使えばあるいは、といったところだが、さすがに坊主の魔力がなぁ」
「あんまり使うものじゃないですしねぇ」

 それに、まだこちらに手の内の見せるわけにはいかないだろうし。まぁ、同盟は結べたし、龍脈の汚染の調査も協力してくれるっていうし(なにせあれだけ汚れてたらねぇ)、こっちとしては万々歳なわけだが。さすがに、あれを見たら聖杯にも問題があるかもしれない、ってことでひとまず聖杯戦争よりもこちら優先、ということでまとまってよかった。そりゃ大事な願いを叶えてくれる(だろう)ものなら最善の状態で使いたいだろうし。問題をなんとかする方が先だよね!

「ウェイバー君が手伝ってくれるなら、龍脈の調査ももっと進みそうですし。問題が解決したら、ライダーさんの願いが叶うように頑張らないとですねぇ」
「お主は坊主を随分と評価しているのだな」
「そりゃ、可愛い生徒ですし。実際ウェイバー君は出来がいいですよ?まぁ、実技はまだまだですけど」
「ははは!なるほど、正当な評価だ!さすが、坊主を聖杯戦争に参加させるだけの教師よの」
「それは・・・正直、そこまでしてもらえるような人間だとは、自分では思わないんですけどね」
「それが人というものだ。いつの時代とて、自分で自分を評価することの方が難しいものよ」

 そういって、世の中を広くみてきた、深い眼差しでこちらを見下ろすライダーに、困ったように眉を下げて微笑んだ。確かに、身の丈を知ることがどれほど難しいことか。自己PRとか苦手なタイプの人間です。え?違う?まぁいいとして。
 しかし、本当に、どうして、何がそこまで、と思わざるを得ない。私普通に接してただけなんですけど。え?あれぐらい普通の教師ならだれでもするでしょ?ってぐらいのことしかしてないんですけど。・・・いくらクロックタワーが特殊な学び舎とはいえ、そんな目立つようなものではないと思うのだが・・・。それに、だ。

「・・・たとえどうであれ、こんなことに関わってほしくはありませんでした」
「まぁ、穏やかではないからな」
「本当に。・・・ただ、平和で、平穏で、あってくれればよかった。私のことで、こんな危険に、飛び込まないでほしかった。本人が気にしてないのだから、過敏になることもなかったのに」

 ぽつりと、愚痴のように呟く。理由を聞いたとき、どういえばいいのか正直わからなかった。そこまで思ってくれたことは嬉しい。幸せなことだと思った。誰かにこんなに思われて、嬉しくないはずがない。けれども、同時に、そんなことで、とも思った。呆れて、悲しくて、苛立ちがあって。戦争の意味を理解していない、なんて浅慮な行動。自分が死ぬかもしれないなんて考えてない。人を殺すかもしれないことを、人に殺されるかもしれないことを理解していない浅はかさ。
 相反する感情を持て余して、苦笑いを浮かべてしまったのはすぐの記憶だ。
 それでも、きっと何を言っても無駄なのだろうとわかってしまったから。今更、返してこいともいえないだろうし。彼の思いを、のっけから否定することなんて、できないまま。受け入れてしまったのは、私の弱さだろうか。
 一度目を閉じて、再びあけるとライダーを見上げる。歴史に名をはせる英雄。豪快で豪胆で、深い懐を持った人。まっすぐで、だけど強かな、ただただ、心の強い人。

「・・・あなたが、ウェイバー君のサーヴァントでよかった」
「うん?」
「きっと、貴方でなければ勤まらなかったことでしょう。・・・これからも、彼をよろしくお願いいたします」

 姿勢を正して、床に手をつき頭を下げる。彼に、もう親はいない。ならばこれは、私の役目なのだろう。そんな私の上に、「応」という、彼の声は、ひどく優しく、明るく、芯がこもって、あぁ、彼が幸せものだな、と小さく、微笑んだ。








〔つっづきから!〕

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