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「希う」

 俺は、いつもあなたのその小さな背中ばかりを見ている気がするのです。
 ねぇ主。そんな小さな背中で、一体何を守ろうとするのですか?
 ねぇ主。そんな頼りのない華奢な体で、一体何が守れるというのですか?
 ねぇどうして俺は、いつもあなたの背中ばかり、見送らなくてはならないのですか。
 俺はあなたのサーヴァントではないのですか。あなたを守る槍ではないのですか。あなたの騎士ではないのですか。守ってねと言っていたではないですか。私がいなくてはならないと言っていたじゃないですか。命を、預けてくれると、言ってくれたじゃ、ないですか。なのに、あぁ、どうしてですか主。どうしてあなたは、いつも、いつもいつもいつも。

「主!!」

 不可視の壁に叩きつけた拳が痛みを帯びる。じんと痺れるような痛覚で、けれどその先に手を伸ばすことは叶わない。例えば後ろで驚いたような気配があったとしても。戸惑いの視線が向けられていたのだとしても。それに答える暇があるのなら、今目の前に立ち塞がる小さな背中に手を伸ばしたかった。
 なのに、まるで我々を庇うように包む大きな不可視の結界は、その先を堅く拒むように俺と主を隔てるばかり。溢れた泥が、主の小さな体を飲み込む様を、ただ見ていろとばかりに、押しとどめるばかりで。

「主、主、主、主!!!」

 殴りつけたところでこの壁は破れないのだろう。ともすれば声すらも遮っているのかもしれない。それは少女が作りだした、守るばかりの優しく残酷な壁なのだから。振り返りはしない小さな背中は、いつかを思い出させて絶望が胸に飛来する。あぁ、主。どうして。

「主ぃ・・・!」

 小さな背中を守る権利が欲しかった。最期まで共にいさせてくれる弱さが欲しかった。その華奢な体を、この背に庇う強さが欲しかった。例えこの世界で、あなたがマスターではなかったのだとしても。あなたを守れる、その全てが欲しかった。喉が裂けるぐらいにあなたを呼んで。こちらに留まって縋りついて。いっそ、最期まで振り向かないでくれれば、俺はただ嘆くばかりでいられたのに。
 振り返ったあなたが僅かばかり目を見張る。それから少しだけ、困ったように微笑んで。懐かしむように瞳を細めたりなんかするから。
 あなたは、最初から全てを知っていたのだとわかってしまったから、尚のこと。

「――――っ!!!」

 白い光が目を焼いた。神々しいばかりに荘厳な龍が空を昇る。誰もが言葉を失くす中、崩れ折れるように膝をついた。小さな背中はもうそこにはない。龍が全てを持って行ってしまった。泥と一緒に、無力だったはずの少女を奪って空を翔けた。



 俺の忠義は形ばかりだと謗られた。お前の忠義とはなんなのだと問い詰められた。
 当たり前だ。俺の忠義は今生のマスターになど存在しなかった。形ばかりだなどと当然のことだったのだ。知らなかったのは英霊であるが故。気づかなかったのは異なる世界線だったから?
 ならば、俺はマスターに請おうか。その手に持つ契約の証の一画を欲しようか。泥がなくなろうとも留まるこの世全ての悪のために、この聖杯が使い物にならないのだというのなら。
 この記憶を持って、座に戻ろうか。いつか再び、この時空に呼ばれたときに。
 今度こそ、あなたを守りきるために。


 

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〔つっづきから!〕

「千歳その先に、呪いあれ」

 あの男だけは許さない。
 絶対に。絶対に。例えこの身が消え失せようとも、この記憶が記録となり果て摩耗しようとも、もう二度と会うことがないのだとしても。あの男だけは、許してなどやるものか。

「ごしゅ、じん、さま・・・」

 体が上手く動かない。嗚呼。嗚呼。あの忌々しいサーヴァントのせいで、壊された回路が、こんなにも口惜しい。データの海に倒れ伏す、愛しい人に手を伸ばす。その体から溢れる鮮血など知らない。ぴくりとも動かない指先も。虚ろな目も。知らない、知らない、知らない、知らない!!
 ずるずると体を引きずりながら、必死に投げだされた手を取った。上から降ってくるまだ動けるのか、という感嘆符交じりの声も、呵々と笑う楽しげな声も知らない。そんなものに興味はない。あぁ、ご主人様。私です。キャスターです。あなたの妻です。あなただけの、サーヴァントです。ですから、お願いです、ご主人様。どうかこの手を握り返して。
 きつく握ったつもりだった。もうそんな力はなかったかもしれないけれど、それでもその小さな手を握りしめた。握り返してくると信じていた。虚ろな瞳が瞬いて、弱弱しくても小さくてもなんでもよかった。キャスターと、呼んでくれさえしてくれればよかった。たった一瞬。生きていると、確信させてくれればよかった。あぁ、でも現実はなんて残酷。
 握った手は握り返されないし、濁った瞳は光を灯さないし、血に濡れた唇はちっとも震えない。
 そこにあるのは死体だった。愛しい人の抜け殻だった。繋がっていたパスから感じた伊吹も、本当は、もう、切れていただ、なん、て。

「あ、ぁあ・・・・ああああぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁ・・・・・っ!!!」

 
 声はもはや獣の唸り声にも近かった。人語を介する意味もわからなくなりそうだ。消えた魂。事切れた心臓。データの塊になっだけの体。そこに意思も意識も記憶も思いもなにもない。ただの人形がそこにある。
 守れなかった。助けられなかった。守ると言ったのに。絶対にこの戦争を生き延びようと誓ったのに。絶対に、生かして見せると言ったのに。みすみす奪われた大切なもの。あぁ、なんてこの身は無力なのか!!

「ふむ。マスターの方はすでに死んでいるというのに、随分としぶといサーヴァントだの」
「・・・最期の足掻きだ。直に消えるだろう。行くぞ、アサシン」
「呵々!惜しいものだ。そのしぶとさ、直接闘えば実に胸躍る死合いになっただろうものを。が、これもまた運命よな」

 
 声が遠ざかる。足音が消えていく。閉ざされた空間。冷たく広がる暗闇。ただ、消えゆくだけの。

「・・・・のろいあれ」

 呪いあれ。呪いあれ。あの男に、呪いあれ。紡ぐ言の葉に、光はない。あるのは凝る闇だけだ。

「けっして、けっしてゆるさぬ。ごしゅじんさまをころしたそのつみ、さだめられたいくさばでさえなく、そのてをのばしたつみ、けっして、ゆるさぬ」

 言の葉を紡ごう。憎悪を編み、形としよう。伸ばした腕で愛しい人を掻き抱いて、土気色の頬を両手で包み、その血に濡れた唇に舌を伸ばしてちろりと舐めた。

「――貴様の願い、決して叶えなどさせぬ」

 夢叶わぬまま、無様に破れ果てるがいい。くつりと嗤い、息を吐き出した。そして頬を摺り寄せて、瞳を閉じる。
 嗚呼。ご主人様。

「ごめんなさい―――」

 守れなくて、ごめんなさい。






〔つっづきから!〕

「シロツメクサの花冠」

 見つけたのは偶然だった。此度の聖杯戦争、マスターとなった人間との相性が、格別に悪いわけでもないがどうにも合わず、気晴らし程度にで出歩いた先で見つけた小さな花。
 小さな多年草が生い茂る中に座り込み、もくもくと手先を動かすひっそりとした行動が目についた。たった、それだけのことだった。
 声をかければ驚いた様子ながらも微笑を浮かべる。隣に座るとか問われて、ためらいもなく座ったのは少女があまりに無防備だったからだろう。この戦争の最中においてそれでいいのかと問いはすれども、少女は笑って濁すだけ。
 その様子に、わかっていながら受け入れているのだと容易に知れた。それは随分と性質の悪いマスターだ。よほど自分の実力に自信があるのか、はたまたどうにでもなれと投げやりになっているのか。サーヴァントの気苦労が伺い知れると思いながらも、少女の隣は存外に居心地がいい。
 あのマスターの、夢心地のように浮ついたそれとは違う、穏やかでひっそりとそこにある気配。彼女の小さな手で編み出されていく白い花のついた花冠は、余の趣向とはかけ離れていたが、少女にはよく似合っているので問題はないように見えた。あぁ、この少女に、華美なものは似合わないだろうと、そう思う。余は、派手なものが好きではあるが、本人に似合わないものを強要するようなナンセンスなことはせぬのだ。
 他愛もない会話を続ける。穏やかに返される確かな返答は心地よい。あの上滑りの言葉の羅列よりもよほど染み入るように鼓膜を震わせて、思わず綻ぶ口元を見せれば、少女もガラス一枚向こうの瞳を細め、小さな微笑を浮かべた。
 けれど、穏やかな時間はすぐに終わりを知らせる。終わってほしくないものほど、すぐに終わりはくるものだ。頭の中に響くセイバー!というマスターの声。溜息が出そうになり、僅かに眉を寄せた。
 まるで夢心地のように戦争を生きるマスター。きゃぁきゃぁと、アトラクションのように、アリーナを駆け回る。他者のサーヴァントを見つけては、女豹のように爛々と目を輝かせ、媚びるように笑みをばらまくその様は、女の性として否定はせぬが、闘いに身を置くものとしては頭が痛い。・・・何より、余を見ようとはせぬ。まるで余ではない何か別のものを見ているようで、気持ちが悪い。全てを見透かすようで、その実知ったかぶったように向けられるそれらは一体彼女の中で何がどう処理されているのか見当がつかず、気味が悪いとすら思う。確かに歴史に名を残す偉大なる皇帝たる余なれども、その歴史の人間を見る目でもない、全く別のそれで。
 悪いものではないのだろう。それは分かる。理解している。・・・月の聖杯は相性で組ませるというが、あまり相性がいいようには思えぬのだが。あぁ。頭が痛い。昔から持っているそれに、眉間に皺を寄せて俯く。セイバー、どこ!?と、金きり声のようにはやし立てるマスターの声が、煩わしい。心配しているわけではない。ただ、何故傍にいないのだと憤慨している声。その声に応えようと、言葉を形成し始めたところで、そっと何かが頭に触れた。
 目を丸くすれば、いささかの躊躇いと戸惑いと心配。それらを混ぜて、ただ案じるように潜められた声が耳朶を叩く。
 ゆっくりと上下する手の暖かさに、思わずすり寄るように俯けば、少女は止めることもなく、手を動かし続けた。
 とつとつよかけらる声に返答を返し、うるさいマスターの声をぴしゃりと遮って、その暖かさを甘受する。あぁ、頭を撫でられるなど、一体、いつぶりであったであろうか。
 しかし、それもやがて終わることが。触れていた手が離れ、サーヴァントが呼んでいる、とそういった少女に別れを告げられる。あぁ、離れたくない。少女の傍は居心地がいい。その手でもっとずっと撫でていてほしい。少女に、あの穏やかな声で「セイバー」と呼ばれれば、余は一も二もなく返事を返すのに。
 
 立ち上がった少女が、見上げる余の頭にふと作っていた花冠を落とした。可愛い、と一言いって、二言三言、会話を続けて少女は去っていく。その背中を見送って、頭上の冠に手を触れて、ぼんやりと思った。
 また、ここにくれば、少女はいるだろうか。
 これは戦争だ。次の保障などどこにもない。けれども、もしも次があるのならば。あぁ、そうだな。今度は、余は花を贈ろう。少女に相応しい花を。彼女が綻ぶような作品を。


 ただ、また会いたかった。たった、それだけのことだった。







〔つっづきから!〕

「泣いて欲しいと、我儘を言った」

 心臓を貫かれたキャスターが地に倒れる。彼女の名前を叫びながら、倒れたキャスターに駆け寄り抱き上げれば、胸元を真っ赤に染め上げたキャスターは口元から鮮血を滴らせながらも、微笑を浮かべた。

「ご主人様・・・申し訳ありません・・・不覚をとっちゃいました・・・」
「キャスター、キャスター・・・キャスター・・・!」

 なんの意味もないとわかっていても、止まることを知らないかのように、キャスターの青い着物を黒く染めていく胸元を片手で抑え、きゅっと唇を噛みしめる。じわじわと染み出す血液は、私の手のひらを赤く染めて尚まだ止まらない。あぁ。あぁ。唇を震わせながら、キャスターの血がべっとりとついた手で、制服のポケットを探る。制服にも彼女の千がついたが、そんなものは最早気にもならなかった。おぼつかない手つきで端末を取り出すと、キャスターのぐったりと力のない頭を膝において、カチカチと震える指先でなんとか回復系のコードキャストを呼び出すと彼女にふりかける。少しだけ、呼吸が楽になったかのようにふっと息を吐いたキャスターの頭を再度抱きかかえ、その血の気の失せた頬を血のついていない手の甲でゆっくりと撫でる。薄らと目をあけたキャスターが、少しだけ泣きそうに眉を下げた。

「ごしゅじんさま・・・」
「キャスター・・ごめ、ごめん、ごめんねぇ・・・!キャスター・キャスター・・・っ」
「いいんです、よ・・・ご主人様・・・ご主人様は何も、わるく、ないですから・・・えへへ、ご主人様のひざまくらなんて、役得ですよぉ」
「っきゃすたぁ・・・」

 あぁでも、まもりきれなくて、ごめんなさい。そういって、ゆっくりと重たげに手をあげて、キャスターはまるで何かを拭うように目じりに触れてくる。そこに、涙は存在していないのに。ぐっと言葉に詰まって、キャスターの手を握った。強く、強く握りしめて、ちがうよ、と小さく、呟いた。謝るのは私の方だ。悪いのは私だ。あの時、あの瞬間。迷ってしまった、私の、せいだ。
 

「透子」

 正面から声がかけられる。びくりと肩を跳ねさせて、キャスターから顔をあげて前をみれば、対戦相手・・・今まさに勝利を迎え、また私を負かした少女が、きつく眉を寄せて佇んでいた。その横で、赤い槍を持った男も並び立ち、なんとも読み切れない顔をしてこちらを見下ろしている。
 
 その二人を見上げて、言葉を投げかける前に、私と彼女たちを隔てるように、赤い格子状の壁が瞬く間に形成された。敗者と勝者を分ける壁。幾度か私自身も見てきた、この無慈悲な壁の出現に、私は恐怖とも安堵とも取れない奇妙な心地で、キャスターの手を握りなおした。今までは、私が彼女のように、立ってこの壁の向こう側を見つめていた。けれど今は真逆だ。私は地面に膝をつき、敗者となって勝者を見上げている。私に負けた人たちもこんな気持ちだったのだろうか。そう思いながら、険しい顔をしている彼女――遠坂凛を見つめ、ぎこちなく口元を歪めて見せた。
 瞬間、凛の目がカッと見開き、激昂したかのように赤い壁を殴りつけた。ダァン、と、その細い手からは予想外の大きな音が響いて反射的に肩を跳ねさせる。凛のサーヴァント・・・ランサーもまた、驚いたように凛を見つめていたが、キャスターは煩わしげに眉を寄せただけだった。

「あんた、最後、手を抜いたでしょう・・・!」
「・・ぁ」
「ふざけんじゃないわよ!!あんた今までどんな覚悟でこの戦争を闘ってきたの!?生き残りたいって、死にたくないって、その程度のものだったの!?」
「凛・・・私は」
「最っ高に不愉快だわ!!侮辱よ、これは!私の覚悟も、今まで闘ってきた相手のことも、全部馬鹿にする行動だって、あんたわかって・・・!」
「うっさいですよ、痴女」

 爛々と怒りに目をぎらつかせて、唾を吐く勢いで激昂する凛に、返す言葉もなくて口を閉ざしていると、鬱陶しい、という様子を隠しもしないで、ややかすれ気味の声が割って入った。驚いて下を見れば、データの分解を進める黒い痣が浮かんだキャスターがよろよろと上体を起こして、じろり、と憤怒に顔を真っ赤にしている凛を睨みつけた。

「誰が痴女よ、誰が!!」
「ご主人様の体触りまくった人が何を言うんですか。公然わいせつ罪でペナルティでも受けてくれればよかったのに・・・てか、人がご主人様の膝枕で極楽天国気分を味わってるときにぎゃぁぎゃぁ喚くのやめてくれません?」
「なっ。あ、あれは事故でしょ!?って、そうじゃなくて!」
「あーはいはい。全く、最期の時間ぐらいもっと穏やかにできないんですかねぇ?ねぇ、ご主人様」
「えっと・・・キャスター・・・?」

 あれ、さっきまで結構ぐったりしてたんだけど、何故にそんなに元気?軽やかな口調で凛をあしらうキャスターに戸惑うように目線を向ければ、さきほどの回復で割と元気になったんですよぉ、ときゃぴ、とした口調で言った。あ、そうなんですか・・・いやいいことだけども、あれなんか違うような。

「まぁでも心臓の穴は塞がりきってないんで、きついっちゃきついんですけど。一張羅が台無しです」
「うん・・・?」

 そういう問題じゃないよね・・・?と、言いたいけれど、胸元を抑えてやや苦しげに眉を潜めたキャスターにぐっと言葉を飲み込み、その手に手を重ねた。キャスターは、少しばかり目を丸くて、それから穏やかに瞳を細めて私の手を握り返してくる。

「――ご主人様が躊躇った理由なんて、一つっきゃないに決まってるでしょうが」
「っ」
「そりゃ、私よりもこんなあばずれを優先しちゃうなんてご主人様ひどい!てなもんですけど、でもまぁ、ご主人様最初っから言ってくれていましたし?私もまぁそういうこともあるかなーって納得しちゃってるんで、そんなことはどうでもいいんですよぉ。だからご主人様、そんな顔しないでください」
「キャスター・・・」

 壁の向こう側の凛に、はん、と鼻で笑いながら、私に向かって愛しげの頭を撫でてきたキャスターに言葉に詰まる。
 ご主人様ちょう可愛い、とうっとりと囁いたキャスターは、まるで聖母のようにほほえみを浮かべて、凛を再び見上げた。

「友を殺したくないって気持ちをもって何が悪いんです?」
「そんなの!この戦争に参加した瞬間から、敵同士だなんてわかりきったことのはずよ」
「だから?人の感情がそんな理屈でどうにかなるとでも?大体、今まで闘ってきた相手の気持ちだとか、あんたの気持ちとか、どーでもいいんですよそんなの。大事なのはご主人様の気持ちで心で思いで考えであって、別に死んだ人間のあれやこれやなくっそ重たい上になんの足しにもならない感情論なんて糞食らえ。ご主人様はあんたを殺したくなかった。それが全てで全部で事実で結果。ご主人様まじ優しい超天使。さっすが私のご主人様!」
「・・・私は!」
「手加減抜きで戦って勝敗を決めたかったのはあんたの言い分。あんたを殺したくなかったのはご主人様の言い分。相容れないにしても、ご主人様を怒鳴りつけるのはこの良妻が許しません」

 そこまで一息で言い切って、キャスターはくったりとこちらに身を預けてきた。肩に頭をのせて、だから、ご主人様は何も悪くないんですよ、と言ってくれる、その優しい声に、泣きそうになる。ぎゅう、とキャスターを抱きしめて、私は、唇をかみしめる凛を見上げて、ふっと力なく笑みを浮かべた。

「凛。ごめんね」
「っ」
「正々堂々と、全力で、闘う、つもりだったんだけど、でも、私、凛を、死なせたくないなって、思っちゃって」
「・・・」
「私自身、死にたくなんて、なかったけど、でも、・・・もしも凛が死んじゃったら、私、ダメになるんじゃないかなって、思って」
「透子、」
「今まで、闘ってきた人たちにも、悪いなぁって、思ってるんだよ?でも、でもねぇ・・・っ」

 鼻の奥がつんとして、目頭が熱くなる。それでも、涙は流さなかった。私は、泣くべきではない。いや、泣いたら、私は、きっと。

「ともだちを、ころすのは、たえられない、よ」
「・・・っ馬鹿!」

 死にたくない。消えたくない。黒いノイズはただただ恐怖対象で、消えていく感覚に体の震えは止まらない。心は喚き散らしたいほど荒んでいる。それを押し殺すように、泣き笑いの顔を浮かべると、凛はくしゃりと顔を歪めて、縋るように赤い壁に両手をついた。ランサーは、ひどく苦々しい顔をしていて、それがまた申し訳ないな、と眉を下げる。マスターの士気下げるようなこといってごめんね、ランサー。黒いノイズが、右足を消していく。スカートのすそも、キャスターを抱きしめる手の指先も。キャスター自身の体でさえ、黒いノイズは浸食して。私は、ぐっと唇を噛み締めて、何かに耐えるように震える凛に、そっと消えかかる手を伸ばした。壁に触れて、ぺとりて手のひらをつけて。

「凛」
「なに、よ」
「あのね、最期にね、一個だけ、我儘いってもいい?」
「我儘?」
「うん。だめ、かな?」

 あぁ、もう右目が見えなくなった。片目だけで見える凛は訝しげに眉を寄せて、突き放すように言ってみなさいよ、と了承の返事を返してくれた。凛は、ツンデレだなぁ。と思いながら、消えかかるキャスターを抱きなおしてこてりと首を傾げた。

「私がいなくなったら、泣いて欲しいな」
「え」
「ほら、私なんでここにいるのかとか全然わからないでしょ?もしかしたら、現実世界で私のために泣いてくれる人なんていないんじゃないかなって。ていうか、私を知る人間がいないっていうか・・・誰にも泣かれないのは、やっぱりちょっとさびしいから」

 本当は、笑って、とかいうところなのかもしれないけど。でも、どうせなら、私を惜しんで泣いて欲しいというのは、ひどい我儘なのかもしれない。でも泣くということは、それだけ思ってくれたことの証でもあるかと思うから。それに、凛ってば言わなきゃ泣いてくれないだろうし。まぁ強要するようであれですが、できたらでいいんで!

「凛なら、泣いた後に笑えるだろうし。・・・凛、ありがとう。大好き。ラニにも伝え・・られたらでいいよ?」
「ご主人様、私は?!」
「もちろん、大好きだよ。大好き、キャスター」
「みこーん!私もご主人様を愛してますーーー!!」

 そういって、ぎゅう、と首に被りつくように抱きつくキャスターも、着物の下の腕はもうない。その着物も、最早青い部分なてないくらいに真っ黒になって。私も、きっと同じことになっているのだろうな、と思いながら、霞んできた左目で凛を見つめ、唇を動かした。



ばいばい。



 凛が、こちらに向かって手を伸ばしたようにも見えたが、すべてが真っ黒に染まった今では、それが幻だったのか現実であったのか、私に知るすべはなかった。






BAD END

〔つっづきから!〕

「家族仲が微妙です」

 姉は、なんというか。一般的に言えば引きこもりである。いや私も大概引きこもり気質だが、姉はその上を行く引きこもりで、基本的に家の外へと出ることがない。まぁまだ大学生という学生の身分なので、外に出る機会はあろうが、これで就職できなかったら引きこもりニート路線一直線じゃなかろうか。・・・まぁ、本人の進路なのでやいのやいの言われたくないだろうし、説教染みたことも嫌だろうから、あんまり強く言えないのだが・・・。でもあんまり言わな過ぎてもどうかと思うので、ちょいちょい声かけぐらいは試みている。どうも、姉は昔から私や両親をあまり好きではないらしく、壁があるとでも言おうか。あんまり関わろうとしてこないのだ。両親もそんな姉に手を焼いているようで、色々口やかましく言ったりもしているし、コミュニケーションを取ろうともしているが・・・まぁ、あんまりうまくいってないみたいだ。
 
 ここ最近というか、姉が高校入学した当たりから、ほぼ冷戦にも近い様子だし。
 なんてか、ぎこちないんだよね。よそよそしいというか、嫌いじゃないんだけど、でもちょっと・・みたいな、この微妙な空気感。一緒の部屋にいても、まるでいたたまれない、とばかりに即行で自室に戻る姉に、父や母がため息を零すのを何度みたことか。これでも仲を取り持とうと頑張ったけども、私に対しても同じような態度なので、結構きついものがある。
 一体、姉の何がそこまで頑なにさせるのか。そりゃ、私だって転生してこれが今生の両親だと言われても、微妙な気持ちにはなる。けれども、まぁ正直何回それ経験したことか。それでも親は親だ。私には確かに別の両親がいる。「私」の親は、あの人たちだけだ。できるならば会いたい。また、一緒に過ごしたい。
 認められない気持ちは、何回転生してもトリップしても、そのまま残っているけれど。それでも、それは、「愛さない」理由にはならなかった。だって、彼らは確かに、「私」を愛してくれているのだから。
 姉さんも、愛されてるって、認めてくれたらいいのになぁ。そしたら、もうちょい楽になれるんじゃないかと思いつつ、部屋に引きこもったままの姉の分の食事をテーブルに並べる。
 ちなみに、両親は単身赴任で不在だ。父の移動に歯はがくっつく形で、私と姉を残したのは一重にタイミングが悪かったというほかない。だって普通に地元の高校に受かった直後に移動決まるとか。一緒に行くという選択肢もあったが、再度受験する気力はなかったので潔く残る決断をした。まぁ生活資金は送られてきてるし、週末には父も母も帰ってくる。現在は学生でも中身はあれな私とすでに大学生にもなっている姉なのだから、置いていくことにもそんなに心配はなかったのだろう。家のことも、私に任せろと胸を張って言えたし。
 そんなこんなで家事全般をこなしつつ、晩御飯の準備を終えたところで姉に声をかけようと二階に顔を向けた瞬間、異常なまでの魔力の高まりを感じて目を見開いた。
 高密度の魔力が、一か所に集まっていく。・・・・しかも、これ、姉さんの部屋・・・?え、ちょ!!

「姉さん・・!?」

 一体、何が起きたっていうんだ?!






〔つっづきから!〕

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