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「もしも進学先が違ったら」

「透子ー!聞いて聞いて!私のクラスの担任超当たり!」
「んー?」

 入学式を終え、それぞれの割り当てられた教室で担任となる教師から自己紹介やら今後の日程やら明日の授業のことだとか、まぁ諸々の説明をされて帰宅の時間になった頃、今日はすっかすかの鞄をもって疎らになった教室に、中学の同級生が飛び込んできて興奮気味に手足をじたばたとさせた。
 それにきょとん、としながら小首を傾げて何が?と問い返す。私と同じ新入生たるクラスメイト達は、そんな私たちを尻目に部活見学やら学校探索やら、自由に動いて賑やかしい。その心地よいほどの雑音を聞き流しつつ、鞄をもって歩きだせば、友人はそれがね!と興奮気味に話し始めた。

「担任の先生が超!かっこよかったのー!色気ムンムンでとにかくめっちゃ顔整ってて!日向龍也みたいに超!おっとこまえ!しかも若くていい声してんの。もう入学初っ端からテンションあがりまくりで鼻血出るかと思った」
「鼻血て。入学初っ端からそんなことしてたら印象に残ってただろうね」
「確かに!ちっ。惜しいことしたわ・・・」

 いやでも鼻血の子として覚えられるのは嫌だろ。普通に考えて。接触のチャンスを逃してしまった・・・!と悔やむ友人に、もうちょっといい印象でいこうよ、と宥めて昇降口で靴を履きかえる。真新しい上履きを脱いで、外履きの靴を入れ違えで中に押し込むと、同じように友人も靴を履きかえてうきうきと短めのスカートを翻す。

「でもねぇ、本当にかっこよかったんだよ。もう私明日からの学校が楽しみすぎる」
「学校に楽しみができて何よりだよ」
「えへへー。あ、透子のとこの担任はどうなの?当たり?」
「顔で言うなら普通だったよ。担任としていいかどうかはまだわからないなー」
「そっかー。そうそう、顔といえばね、うちのクラスさ、担任だけじゃなくて男子も結構顔いいのがいたんだよ」
「君は顔しか見てないのか」
「いや顔に目がいくって。おかげで女子とも意気投合できたんだから。ま、透子と離れたのは不満だけどー?」

 そういって、そこだけが唯一不満だよ!とぷっくりと頬を膨らませる友人に、私も彼女がいてくれた方が幾分か気持ちが楽だったのになぁ、と思う。結構人見知りするタイプなんだよね、私。駐輪場に辿り着き、自転車に鍵を差し込みながら、まぁこれからおいおいと慣れていくさ、といえば、彼女は唇を尖らせる。

「でも、お昼は一緒に食べようね」
「それはなにを目当てにしてんの?」
「てへぺろ☆」

 口で言いながら舌を出す友人に、まぁいいんだけど、と思いながら自転車にまたがる。・・あぁ、そういえば。

「担任の名前って?」

 そんなにイケメンイケメン言われると気になるよね。故意的に見に行こうとは思わないが、目撃ぐらいはするだろうし。名前ぐらい知ってても罰は当たるまい。
 そう思いつつ、ちょっとした好奇心で問いかければ、友人は少し視線をさまよわせて、えーと、と口を開く。

「原田。原田先生。下の名前は左之助なんだって。綺麗な顔して古風な名前だよね、今時さ!」
「原田左之助?・・・左之助なんて、ほんと今時珍しいね」
「ねー。なんだっけ。確かそういう名前の偉人いなかったっけ?」
「うーん・・・あ、あれじゃない?新撰組の。偉人っていうか、有名人?」
「あ、そっか、新撰組ね。本物の原田左之助もあれぐらいイケメンだったらいいのにねー。あ、ねぇねぇ透子。今日バイトもないんでしょ?早く終わったんだし、遊びに行こうよー!」
「うん。いいよ。どこいく?」
「カラオケ!キャラソンメドレーいくわよー!」

 そういって自転車を漕ぐ友人の横に並びながら、きっとカラオケのラインナップはアニメやゲーム系の曲で埋まることだろう、と同類を見る眼差しでへらりと顔を崩した。
 
 私も似たようなラインナップになるんだろうな、ということはよくわかっているので、ね。いやー類は友を呼ぶって、本当そうだよね!


 よもや、そんな呑気なこと言ってられない状況になるとは、露ほどにも予想してはいなかったけれど。







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〔つづきはこちら〕

「わんこ×ごはん」

 カリカリに焼いたトーストの上に緑も鮮やかなレタスと、瑞々しいトマト、厚切りのベーコンを重ねて、最後に突けばふるりと震えるポーチドエッグをのせてオーロラソースをかける。
 ガラスの器には真っ白なヨーグルト。そこにぽとりと、形が残るようにして作った手製の甘さ控え目のイチゴジャムを落として色味をつける。白に赤が溶け込んで、まるでルビーのよう。食事のお供である今日のお茶はミルクティ。ほんのり漂う甘い香りが香しく、準備が整えば、そっと庭で水やりをしている青年に向けて声をかけた。

「ランサー。朝ご飯できたから、こっちおいで」
「畏まりました、主」

 ホースの先を潰して平たくし、放射状にして虹を作りながら庭の木々に水をやっていたランサーが、くるりと振り返って微笑みを浮かべた。・・・朝日を浴びて爽やかに微笑む顔はなんだか後光がさして見える。うっかり目を細めつつ、ホースの先に繋がっている蛇口をきゅきゅっと捻って水と止めると、手馴れた様子でくるくるとホースをまいて蛇口に引っ掛け、ランサーは縁側から中に入ってきた。ここは日本なので、靴を脱いで上がりなさい、という最初の教えを律儀に守って、こちらで買い揃えた靴を脱いだランサーは、テーブルに並ぶ朝食をみて嬉しそうに目を細めた。

「今日もとても美味しそうですね」
「ありがとう」

 そういって口元を綻ばせ、食い入るようにポーチドエッグ乗せトーストを凝視する姿は、なんだか待てを強要された犬のようだ、と失礼なことを考える。微笑ましいというか、微妙な気持ちになるというか・・・。姿かたちは絶世の美男子、しかもいい年した兄ちゃんだというのに、無駄に色気も醸し出しつつなガチムキ野郎なのに可愛いなぁ、という形容詞を使うことにさしたる抵抗はないのはあれか。犬っぽいからか。てかこの丁寧ながらも食事に釘付けな状態、某白い子を思い出すわぁ。尻尾があればぶんぶんと振り回していたかもしれない。そう思いながら、椅子に座ろうとすればごく自然な動作でいつの間にか後ろにいたランサーが椅子を引いてくれた。・・・お前はどこの執事だ、という突込みも最初これをやられた時に内心でしてしまったので、今更だ。慣れてしまったわが身がなんともいえない。ありがとう、と椅子に座りながらランサーを振り返り言えば、彼はふんわりと目を細めて、いいえ、とあの麗しい声で答えるのだ。
 
 そして、ランサーも私の正面に回り、椅子を引いて目の前に座る。所作に隙がないのは、貴族的な動作というよりも、やはり武人独特の隙のなさに近い。それでも粗野な行動に見えないのは、顔のなせる技なのかもともと仕草が丁寧だからなのか・・・さておき。ランサーは椅子についたところで手を軽く合わせる。合わせてランサーも大きな手を合わせ、二人でいただきます、と声を重ねた。ま
 ナイフとフォークでトーストごとポーチドエッグを切れば、とろりとした濃いオレンジにも近い黄身が、形を崩してトーストや野菜の上に広がっていく。それを一口サイズに切り分けながら口に運び、咀嚼して嚥下する。うん。まぁまぁかな。ごくり、と喉を鳴らしたところでランサーをみれば、・・・うん。だらしない、というにはあれだが、それはもうほくほくとした顔でもっきゅもっきゅと口を動かしていた。うん。幸せそうに食べるな・・・こいつ。

「・・・美味しい?」
「はい!このポーチドエッグの半熟加減に、カリカリとしたトーストの食感、それに肉厚のベーコンの旨みがとても合っていて・・・!とても美味しいです!」

 うん。とりあえずランサーがすごく幸せそうなのは伝わった。というか毎日毎日同じようなテンションなのはどういうことだ。とりあえず食事時のランサーは、普段の騎士然としたものではなく正直アレンといるような・・・そう、食べ物を前にした子供のような、そんな微笑ましさを覚えた。・・・まぁ、ランサーの時代、食事の質はお世辞にもいいとはいえない代物だったらしいし、現世での食事は彼にとって色々カルチャーショックを覚えるものだったらしいし。こんなに美味なものがこの世に・・・!とばかりの彼の反応に、ケルトって一体、と思った私は所詮メシウマ国家日本の人間だ。いや今生はメシマズと名高い国出身ですけども、心は日本人なので!
 それにしても、サーヴァントに食事は必要ないといっていた時の様子が嘘のようだな、ともぐもぐと食べておかわりをしたそうなランサーに無言で立ち上がりキッチンに引っ込みながらくすりと笑う。
 サーヴァントに食事は必要ない。無論、魔力が足りない場合それを補うために飲食という方法を取ることはあるが、それは足りない場合の処置であって、今現在ランサーと私との間の魔力パスは十分に通っている。燃費もいいしね、ランサーのクラスって。だから食事をする必要はないのだが・・・・あれだよね。一人で食べるってわびしいよね。しかも身近に人じゃないけど人がいるのに、一人飯とか!寂しすぎる!!
 それをこうして同じ席につかせてご飯を取るように仕向けて、和気藹藹とするのにどれだけランサーとのやり取りが面倒だったか。そもそもランサーは騎士であることに重きをおいていて、私・・・つまり上司と一緒の席についての食事なんて滅相もない!とかそんな感じだったものだから大変だった。食べなくてもいいから余計に食事の必要性を感じてなかったっぽいのもあるし。まぁ、味覚がなくなっているわけではないので、食事自体を楽しむことができるのは幸いだった。
 そんな、さしたる昔でもないがちょっと昔のことを思い出しながらランサーのおかわりと作ると、ことりと彼の前に置いた。ランサーは恐縮していたようだったが、しかし食欲には勝てなかったのか、いやしかしなんかやたらと潤んだ目でありがとうございます!と声をあげるので、私は大袈裟だな、と思うしかない。まぁこれだけぱくぱく食べてくれれば作り甲斐もあるというものだが・・・あぁ、そうだ。

「ランサー」
「はい」
「今日はちょっと出かけるからね。準備しておいて」
「外出ですか。どちらに行かれるのですか?」
「うん。ちょっと同盟を組みにライダー陣営まで」
「・・・え?」

 ミルクティを一口飲んで、ふぅ、と吐息を零す。ランサーは、ナイフとフォークを構えたまま、ぽかん、と魔の抜けた顔をしていた。口、あいてるよランサー。・・というか、そんな寝耳に水!みたいな顔しなくても・・・。

「ど、同盟?」
「そう。やっぱり色々考えたけど、あの陣営とは手を組むべきだと思うんだよね。龍脈の調査にしても人手はあるに越したことはないし、昨日の参加者たちから見ると、一番手を組めそうなのはやっぱりあそこしかないと思うの」

 だって教え子だし。一番話がしやすいし、ここまで龍脈が穢れてるとなると聖杯の方も影響が出てそうだし、教え子にはその危険性を話しておきたいし。まぁ、彼がどんな願いをもっているかはわからないので、それ次第ではまた色々変わってくるだろうが・・・よっぽどでなければ協力するのも視野にいれている。何より。

「あの征服王と手を組めたら、そりゃ心強いと思わない?」

 昨日の様子からみても、彼らと組んでメリットこそあれデメリットの方はあまりないとみていいだろう。私自身に聖杯への望みがないからこそいえることではあるだろうけれども。あとあれだけ目立つと丁度いい隠れ蓑になりそうだし、征服王とちょっと話してみたいし!歴史上の大人物!超気になるよね!
 そんなちょっとばかしのミーハー根性と下心を交えつつうきうきといえば、ランサーはそんな私とは対照的に、むっと眉を潜めていささか不満そうに視線を下げた。・・・うん?

「・・・俺では、力不足でしょうか・・」
「え?」

 聞き返せば、ランサーははっと目を瞬いて、あわてた様子で顔を伏せた。

「も、申し訳ありません。主がそう望まれるであれば、俺は何も」
「・・・ランサー?」
「彼の有名な征服王。確かに、戦力として加えることができれば心強いでしょう。さすがは、主です」
「ランサー」
「はい」
「・・・・私は、あなたも十分に強いと思っているし、征服王に劣っているとも思ってないよ。それこそ私なんかによくしてくれて、感謝してる。あなたが私のサーヴァント。それだけは間違えないし、間違えようもないよ」

 どっちがどうというわけじゃないし、ランサーの強さに不満なんてあるはずもないし、疑ってるわけでもない。でもまぁ、さっきの言い方だと確かにランサーの実力じゃ不足、といってるように聞こえるよなぁ、うん。反省反省。ランサーのプライドを傷つけてしまったかな、と申し訳なく思いながらちょっと眉を下げて彼を見つめればランサーはさぁ、と頬を紅潮させて、琥珀色の双眸をしきりに瞬かせて破顔した。

「勿体ない言葉です、主。このランサー、身命をかけて、主を守り通します!」
「うん。任せたよ、ランサー」

 いやマジでね。本気でそこはちょっとお願いね。私死にたくないんで、本当!ぐっと拳を握り、決意も新たに、とばかりのランサーを眺めながら、もう一口、ミルクティをすすった。さて。なんかランサーの士気はあがったはいいとして、どうやってウェイバー君に接触しようかな。いきなり家に突撃するのはちょっとなぁ。かといって街中で声なんぞかければ他の参加者の目に映るかもだしなぁ。ふむ。どうしようかな。




「IF夜はお静かに」

 
 それは、ひどく見慣れた背中だった。
 ランサーが地に落ちた黄薔薇(ゲイ・ボウ)を蹴り上げ、光を吹き上げながら突撃してきたセイバーと交錯しようとした、まさにその瞬間に、鈍い鍔競り音が張りつめた戦場に鳴り響く。止められた刃に、息を飲んだのはサーヴァントだったのか、マスターだったのか。
 ふわりと、赤い外套が膨らんで翻る。分厚い筋肉に覆われた逞しい背中が、異様なまでの存在感で目を惹いた。
 その両腕に握られた白と黒の剣は、確かに今まさに重なり合うはずだった刃を受け止め、ぎりりと悲鳴をあげている。ぶつかりあった衝撃で舞いあがった風と砂埃が、もうもうと立ち込める中。聞き覚えのある低音が、シニカルな調子で水面を揺らした。

「この勝負、しばし私が預かろう」

 
 な、と声を零したのはランサーだったかもしれない。二人のサーヴァントの一撃を受け止めた赤い外套の武人は、いかほどの衝撃の名残も見せずに、ギンッと腕に力をこめて鈍い音をたててランサーとセイバーを跳ね除けた。サーヴァント、しかもあれほどの力を見せつけたランサーとセイバーの攻撃を片手ずつで受け止めて、絶対にその衝撃は並大抵のものではなかったはずなのだが、内心はどうあれおくびにも出さないのは、さすが、と褒めるべきだろうか。
 咄嗟に距離をあけた二人は、それでもすぐさま武器を構えて突然の乱入者に対して警戒を見せる。もうもうと舞い上がっていた砂埃は、その段になって、ようやく落ち着きを見せ始めた。靄がかかったようだった空間は、俄かにクリアになっていくと、背中しか見えなかったサーヴァントの顔もよく見えるようになった。まっすぐに伸びた背筋。褐色の肌。色素の抜けた髪。不適な笑みを浮かべる口元は、あぁ、どうして。

「・・・アヴェン、ジャー」

 
 
 それとも、アーチャーと呼んだ方がいいのだろうか?二つのクラスの記憶をたどりながら零れた声は、ひどくか細い。水鏡の縁を掴み、覗き込むようにして食い入るように見つめる。かつて、そうかつて。共にいたサーヴァントの姿に。ひどい動揺を覚えた。
 どうしてまた、彼がいるのだろう。水鏡越しに。誰何の声を投げるランサーの声を聴きながら。応える彼の声に懐かしさを覚えながら。
 その後の怒涛すぎる展開に、最早頭は飽和状態だった。
 空から轟音をたてて征服王は登場するし、教え子はその戦車に乗ってるし、征服王が挑発したらなんでか色々出てきたし?!金ぴかに黒いのとか。あと他のマスターとか。とりあえず、誰にも聞こえてないとは思うけど。

「なんでセーラームーンのお面やねん」

 アヴェンジャーのマスターが、なぜかコンテナの上からライトアップされつつ月に代わっておしおきよ☆と懐かしすぎるフレーズとポーズつきで登場をした瞬間には、なんかもう色々と空気が台無しになっていた。ポカーンとか、三点リーダーつきの沈黙とか、多分こんな感じ。あ。アヴェンジャーが悲しいぐらいに項垂れてる。そしてマスターの方、コンテナから降りれなくなっている。じゃぁ登るなよ。

―――主、どうしましょう・・・。

 ふと、アヴェンジャーを呼びつけてコンテナから降ろしてもらってるマスターという、微笑ましいのか最早空気は吸うものだとばかりの場の雰囲気に、ほとほと困り果てた、とばかりのランサーの声が聞こえて、私は少しばかり沈黙すると重々しく口を開いた。

「成り行きをしばらく見守んなさい」

 とりあえず、眺めてる分にはシリアスクラッシュすぎてぶっちゃけ面白いから。当事者にだけはなりたくないがな!
 渦中にいるような、蚊帳の外のような、微妙な立ち位置になってしまったランサーを労いつつ、私は最早コメディ映画をみるような心地で、水鏡の中へと、思いを馳せた。アヴェンジャー、随分と面白いマスターに出会えたんだねぇ。
 それをよかったというべきなのかは、よくわからないけれど。







イレギュラー乱入バージョン。傍観主はエクストラループで出戻り鯖経由で成り代わりという経緯にしてみた。そっちのが美味しいのかな?って。思って。イレギュラー鯖は赤弓さんか兄貴かで迷った。二人とも召喚されてても美味しいけどね。
もしもこうだったら、なのでちょっとしたお遊び感覚です。
次は傍観主とヒロインの接触にいくよー!てかこれどこまで書けばいいのかな・・・思いのほか続いてしまっていることが解せない。


「夜はお静かに」

 あぁ、うん。

「現場に行かなくてマジよかった」

 なんだあの阿鼻叫喚。ランサーが宝具の解放を請うてきたが、正直こんな序盤で出すのもどうかと(様子見だけのつもりだし、倒すことが目的ではない)思って、その案は却下した。が、とりあえず武器になど頼らず己の技と力だけでセイバーを圧倒してみせろ!的なことを言ってみたら「主・・・!」とやたら感動してくれたので問題はなかったと思いたい。
 イケメンなのに、ランサーは割と脳筋気味だなぁ。まぁ、とりあえずその発言通りに宝具は解放せずにまさに技と力だけで遣り合えているのだから、いいんじゃないかな。別に。
 まぁ問題はその後なのだが。ランサーの黄薔薇がセイバーの片手を傷つけたとほぼ同時期に、なんか空から牛が引いた戦車に乗った大男が現れるわ、しかもその戦車に教え子が乗ってるわ、ちょ、なにやってんのウェイバー君!?と思わず水鏡の器の淵をひっつかんだ私は悪くないはずだ。

「え、ちょ、えぇ?!」

 まずマスターを引き連れて特攻かましてきたサーヴァント・・・いや、本人隠す気もないらしく、堂々と征服王イスカンダルを名乗っていたのだが・・・そうか、君だったのか。聖遺物盗んだの。
 いや、それはいいんだけど。むしろグッジョブと思っていたぐらいだが(結局サーヴァントは召喚する羽目になったけど)それにしたってどうして彼が?叫びながら征服王・・・ここはとりあえずライダーと呼ぼうか。ライダーをぽかぽか殴っている見た目には和むが、しかし戦場に似つかわしくないコミカルさに毒気は抜かれつつも、眉間に皺を寄せてウェイバー君をでこピン一発で黙らせたライダーの勧誘に耳を傾けた。ランサーはきっぱりと断っているが、正直その申し出は、ひどく魅力的だ。別に下につくことに抵抗なんてないしー?聖杯なんていらないしー?ぶっちゃけ死にたくないだけだしー?そも、私は誰かの上に立って行動するには向かない人間なのだ。あれぐらい堂々と我が道行く人の方が、いっそ楽だったかもしれないなーと、ランサーには悪いがちらと考えた。いや、彼は彼でいいサーヴァントなのだ。こんな私の言うことだって聞いてくれるし例え形だけなのだとしても敬ってくれるし甲斐甲斐しい、ちょっと過保護気味なのはいかがだしちょっとばかり発言があれなところはあるが、至って真面目な性格をしていて私には勿体ないぐらいのサーヴァントである。ただ、うん。やっぱり、主従関係ってのは慣れないなぁ、ってだけで。いや、私が従ならまだしも主ってのはなぁ。それに、ライダーのマスターは教え子だ。全く知らぬ仲でもなし、それなりにクロックタワーでも良好な関係を気づけていたと思っている。下につかずとも、同盟、協力関係を結ぶにはまたとない相手先だろう。
 まぁ、意外といえば、ウェイバー君に聖杯に望むほどの願いがあったことが意外といえば意外だったか。

「彼が変なことを考えてるとは思えないし、手伝ってもいいしな」

 彼が聖杯を掴むためのバックアップもやぶさかじゃない。まぁ、戦力になるかといわれるとランサーはともかく私うーん?だけども。それと、龍脈の調査にも付き合ってほしいしな。彼の手伝いがあればきっと今よりもスムーズに調査は進むに違いない。うん。臣下だろうとなんでもいいが、彼とは接触しておくに越したことはないはずだ。ライダーがなんかどえらい啖呵を切っているが、つらつらとそんな思考を巡らして考えをまとめる。うん。ちょっとこの夜が終わったらウェイバー君とコンタクトを取ろう。そうまとめると、懐から札を一枚取り出し、ふぅ、と息を吹きかける。瞬間、ぱきぱきと音をたてて札は折れ、形を変え、やがて月明かりに照らされるようにして黒い揚羽蝶へとその姿を変えた。
 自分でやっておきながら言うのもなんだが、私も大概ファンタジーな技術を身に着けたもんだ。・・・・・平凡に戻りたい。さめざめと思いつつ、指先に留まった使い魔がその黒い羽を上下させているのにふっと笑みを浮かべ、囁くように命じた。

「ライダー・・征服王イスカンダル、そのマスター、ウェイバー・ベルベットの元へ」

 
 命じた途端、ふわりと翅を動かし空へと飛んだ揚羽蝶は、ひらひらと舞いながら月夜の空へと溶け込むように飛んで行った。あれで普通に早いし、事が終わるまでには彼らの元に辿り着くだろう。彼らの拠点がわかれば、接触も容易いはずだ。そうして一つの布石を打ったことにほっとしながら、戦況はどうなった、と改めて水鏡に向き直れば、そこはまさしく阿鼻叫喚だった。いつの間にやら登場人物が増えている。え。ちょ、人が考えに耽ってる間に何が?!
 真夜中だというのに、眩いほどの王気と鎧を纏った金色のサーヴァントが虚空から呼び出したあらゆる武器という武器を乱射し、黄金のサーヴァントとは全く対照的な漆黒の鎧に淀んだオーラを纏う黒い騎士はそれらをとりあえず人間じゃない動きで回避しては、武器を取って反撃している。
 ・・・・・・・・・とりあえず尋常じゃない戦いなのはわかる。普通にあそこに人がいれば巻き込まれて死にそうだし器物破損も半端ないしお前らいくら隠ぺいするからってちょっとは周囲の迷惑考えろよと思ったり思わなかったりしつつ、自宅待機を選んでてよかったと心底思いつつも、悲しいかな、人外魔境な戦闘を見慣れている自分がいた。
 あぁ、うん。怨霊とやりあったこともありますしね。エクソシストなんぞの近くにいればそれこそこれぐらいの戦闘は普通に行われておりましたしね。うん。・・・・・うん。

「だからといってこんなものに巻き込まれたくはないがな!」

 てか無差別だな金ぴか!黒いのもなんかもう無茶苦茶だし!・・・今のうちにランサー離脱させとこかな。巻き込まれる前に逃げちまえ!とりあえず、どんなサーヴァントが召喚されたかは概ねわかったし、相手の戦い方もなんとなく判明した。まさか一夜のうちにこれほど多くのサーヴァントが一か所に集まるとは思わなかったが、まとめて情報を収集できたので良しとしよう。
 セイバーとの勝負を邪魔されて不服そうなランサーに、念話で戻ってくるように伝えると、彼はしかし!と珍しくも抵抗を見せた。そんなにセイバーと闘いたいのか。いやでも、もうそんな空気でもないし、また今度、仕切り直しの方が気持ちも入るってもんだろう。そう説き伏せて、不満そうながらもランサーは頷いてくれた。
 あ、なんか金ぴかも唐突に消えたし。・・・マスターから帰還命令が出たのかな?まぁ、あんまり派手にやらかすのもどうかと思うしな。どうやら、あの黒いのと金ぴかの相性はよくはなさそうだし、妥当な判断か。

「後でランサーからも詳しいこと聞かないとなぁ」

 あの金ぴかがどういうサーヴァントか、黒いのもそうだし、セイバーの戦闘力も。集められるだけの情報は、集めなければ。それで如何に危険を回避するか、対策も立てないとだし。あぁ、やることが多いなぁ。

「・・・とりあえず、ランサーにおにぎりでも作っておくか」

 何やら映像の向こう側では、黒いのがセイバーに襲いかかっていたが、それ以上何があるわけでもないだろう、と映像を消して立ち上がる。同盟先は見つけたし、戦争初日にしては、まぁまぁの出だしだろう。
 具材は何がいいかな、と考えながらひらりと服を翻した。








気が向いたらイレギュラー乱入verも書いてみたい。基本的に傍観主が絡む原作キャラはヒロインと征服王ぐらいじゃないかなー。後は運が良くて(悪くて?)狂犬陣営とか?とりあえずヒロイン陣営と同盟フラグは立てておきました。


「こちら自宅待機組」

 水を張った盆に月を浮かべる。満たされることのない黄金色が、底の見えない水面に歪みを帯びながらゆらゆらと揺れ動いた。やがて、それは静かに静かに落ち着いていく。波は引き、波紋は消え、歪みは正され―――水底に映るのは、最早月などではない。最初に写し取った夜空の姿は消え、まず見えたのは赤と黄の二槍と持ったボディスーツを身にまとった自身のサーヴァントの姿。アングル的に斜め上ぐらいから見えたそのやや伏し目がちにも見える横顔は美辞麗句を書き連ねたところで表現するには難しいだろう。相変わらずのイケメン、いや美形、というべきか。むしろ美貌というべきか。
 琥珀色の双眸を縁取る長い睫、すっと通った鼻筋に彫の深い男性的な色気を匂わせる作り。女性的に見えなくもないが、全体を見れば間違いなく男の顔であるそれは、やはり彼の貴人とは別物だな、と思う。彼の人はどちらかといえば男性的というよりも女性的な中性さを匂わせる美貌であったのだろう。両性を窺わせる中性的な美貌は、なるほどこの槍持つ騎士よりもより耽美な危険性を孕んでいたのかもしれない。無論、文官であったが故に、あの騎士のような男性さを見た目から窺い知れることが難しかった、というのもありそうだが。
 
 ランサー、騎士というだけあってすっごい鍛えられた肉体!って感じがするもんねぇ。また、彼の恰好もその肉体美を惜しげもなく晒すようなものであるから、ついつい目が盛り上がった胸部の筋肉だとか、筋肉の陰影が見える二の腕だとか、太ももだとか、割れた腹筋だとか、その辺に目がいくわけで。正直顔よか体に目が行くよ?
 
 しかし気になるんだけど、ケルト時代にあんな感じのボディスーツってあんの?それともあれは英霊仕様なの?英霊になると服装までクラスチェンジしちゃうものなの?・・・ファンタジーだからなんでもありなのかなぁ。
 ぼんやりと考えながら、すっと水鏡に手をかざして払う仕草をする。そうすると、ランサーは遠ざかりより広く周囲を見渡せる。そうして、ランサーと対峙する側には、鎧を纏った金髪碧眼の美少女が威風堂々と立っていた。
 その後ろにはこれまた目を引くような美女が立っている。印象でいえば、まるで雪のような女性だ。恰好もほぼ白で埋め尽くされているのもそうだが、長く腰まで伸びた髪は白を見紛うほどにきれいな銀色をしている。
 表情が緊張にひどく強張っており、どこかぎこちない。戦場に慣れていないのだろう。まぁ、普通に過ごしていればこんな殺し合いなど無縁なのだから当たり前だが。
 あの美しい、争いごとには縁のなさそうな女性があの少女サーヴァントのマスターなのだろうか?あれほどの美貌と、聖杯戦争に参戦できるほどの実力があれば、大概のことはなせそうなものなのに。それ以上に何を望むのか―――理解しがたいな。
 元より聖杯にかける望みのない自分からしてみれば、こんな危険しかない戦いに進んで参加しようなどという自殺志願にも等しい行いを平然とこなす人たちの願いなど、到底理解できるものではないだろう。
 そんな、自分の手で叶えることができないほど途方もない願いなんて―――ない、とは言えないか。私も、ないわけじゃない。叶えて欲しい望みはある。叫びたいほどに願う祈りがある。けれども、同じぐらいに死にたくないという願望があり、結局、手を伸ばせずじまいだ。だって、私は命が惜しいのだから。
 
 生き汚いな、とわずかな苦笑を浮かべつつ、さて、考察に戻ろう、と意識を戦争に向ける。
 あのサーヴァント、ともすれば美少年に見えなくもないが、あれはきっと女の子だろう。はて。あんな覇気のありまくる女の子の英霊なんぞ誰かいたっけかな。女性の英霊、しかもランサー相手にあぁも堂々と現れるぐらいだ。多分接近戦に自信があるのだろう。ということは、キャスタークラスではないな。穴熊するようなタイプには見えん。というか出てきてる時点で絶対違う。アサシンでもないだろうな。暗殺者があんな堂々と出てきちゃ色々ダメな気もするし。いや、いいんだけど。暗殺者が正々堂々闘っちゃいけません!とか決まってるわけじゃないからいいんだけど、しかし突っ込まずにはいられないというか。・・・まぁ、とりあえずアサシンも除外して。んでもってランサーと正常な会話をしてるしきりっとした眉に意思の強い目には確かな知性と理性が窺い知れる。あの感じからしてバーサーカーもない。そうなると残るクラスはアーチャー、ライダー、セイバー―――あれ?

「セイバー・・・?」

 なんだろう、見たことがあるような。不意に焼けつくような感覚がじりっと脳裏をよぎったが、それを深く追いかける前に体から魔力が抜けていく感覚を覚え、あぁ、と嘆息した。一瞬外していた視線を再び水面に戻せば、ランサーとセイバーがぶつかりあっている。あぁ、うん。楽しそうだなランサー。パスから抜けていく魔力と共に、こちらに押し寄せてくるランサーの荒ぶる感情の波があまりに高揚として溌剌で、喜々とした感情を伝えてくる。
 これもこれで理解しがたいものがあるな。

「・・まぁ、今は他のマスターがいないか確認するか」

 恐らく、この戦いはほとんどの陣営に感知されているはずだ。ならば、どこかに偵察として何かしらの影があっても可笑しくはない。できればサーヴァント情報もほしいなぁ、と思いつつ、ちゃぷりと水面に指を差し入れた。








現場にはいかない傍観主。いやだって、安全なところにいたいよねって!まだこの段階だと正式勝負!ってよりは様子見だし。なので情報収集を頑張ります。まぁ、この後なんか色々鯖が出てきて大方陣営の把握ができるわけですがね。

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