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「闇に招く手」

 なんで?!

 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!
 私の方が頑張ってるのに!私の方が辛い思いをしているのに!私の方が大変なのに!私の方が苦しいのに!!なんであの子ばっかり優しくされるの?あの子ばっかり大切にされるの?なんで?どうして?何もしてないのに。神子でもないのに。戦にも出ないのに。ただただ邸にいるだけで。そこにいるだけで。私よりも後に来て。私の方が皆と長く一緒にいたのに。戦ってきたのに。出会ったのに。どうして皆あの子ばかり見るの?どうして?なんで?

 どうしてあの人は私を見てくれないの!!!

 なんで、どうして、嫌だ。嫌だよ。私を見てよ。私だけを見てよ。ねぇお願い。頑張るから。神子でもなんでも頑張るから。頑張ってるでしょう?私、頑張ってるでしょう?あなたの為に。皆のために。守りたいから、剣を取ったのに。何もできない、何もしない、いい子だけど、いい子だけど、でも、それだけなのに!

 私の方が、たくさん、頑張ってる、のに。

「そうね」

 私の方が、いっぱい、怪我だって、したのに。

「みんなのためにね」

 私の方が、みんなのこと、かんがえてるのに。

「そのために、苦しいことも我慢してきたのですものね」

 わたしのほうが、もっと、ずっと。

「あなたの方が、もっと、ずっと、立派よ」

 わたしの、ほう、が、

「あなたの方が辛い思いをしているのにね。痛い思いもしているのにね。苦しい思いも。悲しい思いも、全部全部、あの子よりも体験しているわ。可哀想な子。憐れな子。それでも報われないなんて。愛しい人に振り向いて貰えないだなんて。なんて可哀想。あんな普通の子に。なにもせずに安穏と生きているだけの子に。努力しているあなたが敵わないなんて。なんて滑稽。なんて憐れ。なんて悲劇。―――そんなの、可笑しいわ。あなたの努力は報われて然るべきものですもの。愛されるのもあなた。慕われるのもあなた。大切にされるのも、愛しい人を手に入れるのも。全部全部、あなたであるべきですわ。では、あなた欲しいものを手に入れるのに、いらないものは、何かしら?あの場所に、相応しくないのは、誰かしら?ねぇ。神子様。―――邪魔なものは、消しておしまいなさいな」


 わたくし、お手伝いしてさしあげますわ。


「まさ、こ、さま・・・・」
「うふふ。さぁ、可愛らしいお嬢さん・・・・わたくしに、全て委ねておしまいなさい」




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〔閉ざした翡翠に、赤い唇は弧を描く。〕

「ニアミスした話」

 必要なものをメモをした紙を持って、物資補給のために立ちよった島は、特別栄えてもいないが、かといって廃れているわけでもない極普通の港町だった。
 基本的に、私もジュラキュールさんも物欲には乏しく、島への立ち寄りは本当に必要なものを買い揃える、という意味合いが強い。余計なものを買うことも少ないのだ。
 資金は保護者が保護者なだけに恐らく事欠かないのだろうが、しかしながら必要なもの以外を買う異議が見出せない状況だ。なにせ基本的に過ごすのは船の上。引いては海の上。しかも近くにいるのは無愛想な男が一人。・・・・・・・・・・どないせぇっちゅうねん、という感じだ。
 さてもとにかく、当面必要な物資の購入に一人(彼が買い物に付き合うことはほぼない。ていうかいると逆に迷惑)町を練り歩き、大量の荷物をゴロゴロと荷車に載せて押し進む。
 いや、さすがに何か月分となる食糧を人の腕だけで持ち運びするのは不可能なので。こういうとき、荷物持ちがいればなぁ、と思うが荷車で事足りる範囲なのであえてあの人を借り出そうとは思わない。
 というかあの人堅気の空気じゃないからいると悪目立ちするんだよ。たまに剣士だか賞金稼ぎだか海賊だか知らないが襲い掛かってくる人いるし。時と場合を考えて行動して欲しいものだ。そして私を巻き込まないで欲しいものだ。いや、巻き込まれる前にほとんどが瞬殺されているんだけど。でもやっぱり、そういう空気はできるだけ感じたくないし。
 ガラゴロガラゴロ、車輪が音をたてて砂利道を進む中、ふと道端にハンドバックが落ちているのが目に入り、はて?と首をかしげた。誰かの落し物だろうか。それにしては大きな落し物だこと。
 そう思いながら、進路方向上どうしても荷車の邪魔になりかねないバックに足を止め、ひょいと拾い上げればずっしりとした重みが手首にかかり、なんだろう?と首をかしげた。
 重い袋を揺らすが、音はしない。しかし重い。・・・・はて?不思議に思いつつ、とりあえず落とし主の情報はないものかと鞄をためつすがめつ、くるくると回しながら確認してみるが、生憎と名前なり印なり身元がわかるようなものは入っていない。うーん、と唸りながら、気は引けるが止む無し、とばかりにバックのチャックに手をかけ、ジーーー、とジッパーを引っ張った。
 開いた口を開き、中身の確認を行う。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。

「なんちゅー大金なんだ・・・・・・」

 うおおおおい!誰か知らないが、なんてもん落としてるんだよ!鞄の中にはぎっしりと詰まった札束があり、思わず二度見してそれから慌てて周りを確認し、ジッパーを閉じると、私は変に焦る気持ちで鞄を両手で胸に抱きかかえた。うわぁ、うわぁ。どうしようさすがにこんな大金持ってるのが怖いよ・・・!
 誰か店の人の落し物だろうか?お金下したばっかとか?まさかヤバイ仕事してる人たちのじゃないよね?いや私のバックも相当ヤバイ人なんだがそれとはまた別次元の話で!
 ぐるぐると取り留めの無いことを考えながら、大金怖い、と恐れ戦きつつ、とりあえずこれはお回りさん、まぁここでいうなら海兵になるとか自警団とかその辺になるとして、まぁそれに預けるのが妥当だろう、普通の鞄のはずなのに突如として重要物と成り果てたそれを持って、詰め所に向かうかぁ、ととほりと肩を落とした。
 全く、本当に誰だよこんな大金落としたの!注力散漫!ていうか落すとか信じられない!!
 そう思いながら、詰め所に向かうために顔をあげた刹那。「ああぁぁぁああああぁぁぁ!!」と大きな声が聞こえてびくり、と肩を跳ねさせた。

「財布ーーーー!!!」
「うえ?!」

 吃驚して声がした方向を向けば、明らか船乗りですよ!みたいな格好をした男の人が、びしぃ、とこちらを指差して目を真ん丸く見開かせていた。その様子に目をパチクリさせていると、物凄い勢いでやってきたその人は、私の手ごと財布を掴むと、見るからに安心したかのようにほっと胸を撫で下ろした。

「よ、よかったぁぁぁ!お嬢ちゃんが拾ってくれたのか?」
「え、あ、はい」
「ありがとな!それなかったら隊長にどやされるところだったんだ!」
「そ、そうですか・・・」
「あぁぁぁ見つかってよかったぁぁぁぁ」

 最早涙目の状態で鞄・・・彼曰く財布にすりすりと頬ずりをする様子に、よっぽど怖い人なんだなぁ、と思いつつ、いや当たり前か、と考え直した。だってこんな大金、落せばそりゃ誰でも怒るわ。むしろ落すほうが信じられまい、と思いつつ持ち主が見つかってよかった、とこちらとしてもほっと胸を撫で下ろした。
 例えこれが実は偽者でした☆とかになっても、私に判断などできるはずもないしそこまでの責任は持てない。何より大金を持ち歩かなくて良いという安心感に重圧から開放された心地で、財布を胸に抱きしめて浸っている彼に、にこり、と笑みを浮かべた。

「落とし主が見つかってよかったです。駐在所に持って行こうとしていたところですから・・・」
「そ、そっか!ギリギリセーフだったな・・・」
「そうですね。それでは、私はこれで。もう落さないように気をつけてくださいね」
「あぁ。本当に助かったよ、お嬢ちゃん」

 何故そこできょどるんだろう、と思いつつ、もしかしたら脛に傷持ってるタイプの人なのかなー?と推測しながらも下手なフラグは自滅と知れ、とばかりに深くは考えず、片手をあげてその場に背中を向ける。
 相手もにっこりと満面の笑顔で手を振るぐらいで、私は再びガラゴロガラゴロと荷車を押してその場を去った。買い物した分、いささか車輪の進みもぎこちないものの、買うものはまだあるのだ。
  懐からメモを取り出し、チェックのしていない部分に目を通しながら、そういえば今日のお昼何にしようかな、と思考を馳せた。こってりよりあっさり系がいいよなぁ・・・うーん・・・・何がいいかなぁ。
 思考が主婦染みてるとかそんなの気にしないもんね!





「おーい、財布見つかったのか?!」
「あ、エース隊長!はい、見つかりました!ちっこい女の子が拾ってくれてたんすよ」
「おー!そっか、よかったなぁ!これでマルコにどやされずにすむぜ!」
「ホントっすよね。落としたときは肝冷やしましたよ・・・。これなかったら買出しもできませんし」
「全くだな。いやでも何時の間に落としてたんだろうな?」
「多分そこらでチンピラに絡まれたときだと思いますけど・・・」
「あぁ。あん時か!・・・・・とりあえず、財布落としたことと暴れたことはナイショな!ばれたらマルコがうるせぇし」
「マルコ隊長、散々注意してましたもんね・・・」
「な!な!ぜぇったいナイショだからな!」
「俺も怒られたくないんで」
「よし。じゃ、買出し行くぞー!」
「ッス!」




〔つづきはこちら〕

「癒し系!」

「すまん、お嬢ちゃん」

 そういって、ぐっちゃぐちゃに潰れたオレンジの残骸と私を交互に見たおじさん・・・・明らか人類という種族ではなさそうな、青い肌をした般若みたいな顔をした人は、大きな体を小さく丸めて、大層申し訳なさそうに頭を下げてきた。厳つい顔をしておきながら、そしてこの巨体で、なんと低姿勢な御仁だろう。
 普段唯我独尊な残念な人を相手にしているだけに、そのたかがオレンジの一つを踏み潰した程度でこんなに申し訳なさそうに謝ってくる人がなんだか珍しいことのように感じる。いやこれ多分普通のことなんだと思うんだけどね!なんか知り合う人知り合う人基本我侭っていうか、世界を俺中心で回してやんぜ!みたいな性格の人が多くて本当疲れるんだよね・・・。
 厳しい顔しておいてなんとも心温まる様子に、思わずほっこりとした気持ちになりながら私はにこ、と笑みを浮かべた。

「気にしないでください。落としたこちらも悪いんです」
「じゃが、折角買ったものをこんなにしてしまって・・・」
「不可抗力ですから、気にしていませんよ。お言葉だけで十分です」
「いや、しかし弁償を」
「いえいえ、本当にいいですから。オレンジの一つや二つ。それよりも、そちらこそ足元が汚れてしまったと思うんですが・・・」

 盛大に踏み潰してたものな、オレンジ。巨体からくる体重からみてもそりゃ盛大にぐしゃっと果汁と果肉が飛んだぐらいだ。服とかに跳ねてたらどうしよう。
 眉を潜めると、おじさんは巨体をカカと震わせて、それこそ心配には及ばんよ、と丸めていた背筋を伸ばした。ぽよんとしたお腹が魅惑的ですね。

「草履なんぞ汚れてなんぼ。この程度汚れのうちにも入らん」
「でも・・・服とか、裾に飛んでいるのでは?」
「そんなちぃさな汚れ気にもせんよ。お嬢ちゃんはいい子じゃな」

 そういってくしゃくしゃと顔に皺を寄せて笑う顔は厳つい顔とは裏腹に柔和さがにじみ出ていて、なんだかほっと和んだ。人は見た目じゃないね!見た目まんまの人もいるけどね!
 ふとドピンクな人が思い浮かんだが、即座にそれを頭から消して、それならいいんですけど、と小首を傾げる。おじさんは目を細めたまま微笑み、そしてその大きな手で私の頭をガシガシと撫でてきた。・・・なんか撫でられる回数多いよなぁ。小さいからか、小さいからなのか。いやしかし、この世界の人は基本的に人類として到達してはいけない高さに到達していると思うんだけどね。
 そう思いながら、他人ながらよほど安心できる掌にうっとりと目を細めた。




「残念なひと」


 あのドピンク男、マジ面倒なもの残していきやがった。
 うっかり内心で悪意を篭めた恨み言をぼやきつつ、目の前で正座して懇々と説教を続けるジュラキュールさんに、出そうになった溜息をぐっと飲み込んだ。ここで溜息など出そうものなら無駄に長い説教がまた伸びるに違いない。というかこの人こんなに話せたんだ、という軽い発見をしつつも、うんざりとした気持ちは隠せなかった。
 いつもは必要なことすらも単語程度で伝えるだけで大して会話なんて成り立たないくせに、なんでこういうときだけ流暢に話し始めるんだろうこの男。正座は別に慣れているので苦ではないが、それでも延々とお説教を聴かされる正座は如何ともしがたい。更に言うなら、説教内容が「妻たるはこうであれ」というぶっちゃけ何をいきなり言い始めたのこの人、とドン引きするような内容なのだ。聞き流しは可でしょうか。
 でも時々「聞いているのか?」とか言ってくるのでうかうかスルーもしていられない。だからといって、「妻たるもの貞淑であるべき」とかうんたらかんたら、お前さんは見た目十二歳に何を求めいているのだね、とこちらが逆に問いただしたいぐらいだ。
 夫以外の男を優先するなど言語道断とか、どこの亭主関白。ジュラキュールさん、今時それ流行らないよ。というかユキ先輩たちの前でそんな発言とかしたらフルボッコフラグは免れないだろう。
 あの時代、男尊女卑がまかり通る時代のはずなのに女子のヒエラルキーの高さ半端ないし。くの一超強ぇ。というかこの世界も女子の強さ半端ないし。・・・・・・・女子強し、という認識を改めつつ、しかしながらそれが自分にも適応されればこんなわけのわからない状況も打破できただろうに、と思わずしょんぼりと項垂れた。
 もっと強ければ、彼に強く出ることも出来ただろうに・・・・・・・そもそも私あなたの嫁さんじゃないっていう根本的なツッコミから、さ。いやもう本当に、この四十路そろそろいっちゃうようなオジサマは十二歳、現代ならまだ小学生でまかり通るお子様に向かってなんで嫁発言かました挙句自分ちゃっかり夫の位置についているのかしらね。私あなたと籍いれた覚えもなければ結婚した記憶もないですよ。
 中身はともかく年の差考えろー。せめて娘と父親設定にしようよ。何故ぶっ飛んで嫁にいったんだ。
 それでいいのか世界一の大剣豪。ロリコンのレッテル貼られるぞ大剣豪。なんて残念なんだ大剣豪。そもそも私にも夫を選ぶ権利があるはずなのに有無を言わさないこの流れはなんなのか。
 突っ込みたい、根本的問題に突っ込みたい。だけど言えないチキンな私をどうか許して。しかしこのままだとなんていうか、うん。・・・・・・・・嫁確定されそうで怖いんですけど。しかし否定をしても通じるのかどうか。
 この人、いらんところで天然というか、会話が噛み合わないことがあるからな!(すでにこの説教タイムに入る前でさえ噛み合わない会話を繰り広げたところだ。「アナタ(二人称)」は断じて「あなた(夫を呼ぶ二人称)」の意味ではない)
 至極先の見えない様子にどんよりとしていると、流れるように続いていた要約すると「旦那様を優先させなさい」的な説教がピタリと止まっていることに気づき怪訝に思いながらそろそろと顔をあげた。
 この人基本が真顔なもんだからぶっちゃけ顔怖いんだよね。通常モードならまだしもお説教されながらやたらと鋭利な目で見られると萎縮しちゃうっていうか。びくびくしながら窺うようにジュラキュールさんの顔を見ると、彼はむっつりと口をへの字に結び・・・・ちょっと焦った様子でむぅ、と口を閉ざしていた。
 はて。この真顔標準装備の男の顔色がわかるようになってきた自分に天晴れと言えばいいのか、どうしたんですか?と問い返せばいいのか・・・・どちらが正解なのか。
 こてん、と首を傾げると、ジュラキュールさんは珍しくも視線をうろ、と少しばかり泳がせてから、ぎこちない様子でまぁ、いい、と口を開いた。

「・・・・以後、気をつけるように」
「・・・はい」

 語尾によほどクエスチョンマークをつけたかったが、ここでそれをするとまた面倒な説教タイムに入りかねないので、なんでこんなほっとしたような顔をしているのかわからないながらも神妙なフリをして頷く。
 ようやく終わった説教にほっとしながらも、とりあえずお腹が減っているだろう彼のためにご飯を炊きなおすことから始めねばならない。・・・まぁ、私も、普通に家主差し置いてあんな怪しさ大爆発のピンク男にご飯全部あげたのはまずかったかな、と思わないでもないのだ。嫁とか旦那云々はさておき、一応お世話になっている身なのにそれはちょっとなぁ、とか。嫁とか旦那とかはさておき、まぁ別に、彼を優先させることは何も間違ったことではないと思うし。嫁とか旦那はさておき、恩返しの意味合いでは要求は普通のものだろう。嫁とか旦那はさておき。大事なことなので何度も言うよ!

「今後あの男は船に上げるな」
「あぁ、それは。はい。善処します」

 しかし善処してもどうにもならないタイプな気もするので、今後近寄らないことを祈るしかないだろう。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、なんか、色々手遅れなのかなぁ、って、思ったりもしてるんだけど。
 正座から立ち上がり、椅子に座って新聞を広げ始めたジュラキュールさんを見つめながら、はぁ、と今度こそ殺していた溜息を大きく吐き出した。嫁って、どうやって否定して言ったら通じるのかな・・・。
 諦めるしかないのだろうか、いやそれでは私の今後が!と思いながら、最終的にもうどうもでいいや、で終わらせてしまいそうな自分に、ちょっと遠い目をしてしまった。・・・やってること別に何も変わらないだろうしなぁ。あーあ。大剣豪、色んな意味で残念だ!




〔つづきはこちら〕

「突撃!剣豪の晩御飯」


 紅茶よりもコーヒーが好きで、その癖ブラックはあまり好きではないのかミルクをいれるのが好き。
 砂糖はいれないらしいが、甘いものは好きで最近は和菓子が気に入っているらしい。洋菓子とは違う甘みを好んで、お気に入りはみたらし団子と酒饅頭。和菓子には日本茶が一番という私の主張を聞き入れ、緑茶にも興味を持ち始めたようだ。しかしお茶器が揃わないからティーカップで緑茶なんて邪道な行為はそのうち止めさせたいと思う。でもあの人の趣味は和風よりも洋風でアンティーク系が好み。だがティーカップで緑茶は何か納得できない。湯のみの購入を虎視眈々と狙いつつ、せめてマグカップにまで妥協して欲しいと思っている。
 変なところでこだわりを見せると思いつつ、じゅわわわわ、と油の跳ねる音に心持距離を取った。油怖い。
 浮き上がる衣のついた豚が狐色になるまで待って、ほどよく色づいたら油から引き上げて網の上へ。油を落として熱々の時にサクサク、と衣の音を立てながら包丁で一口大に切り分け、ご飯の上へ。
 それから上にたっぷりのカレールーを乗せて、ことりとテーブルの上に置いた。銀色のやたらと細かい細工のされたスプーンを並べて、グラスには水をいれる。氷はどうしようか、と思って問いかければなくていいとのことなのでいれない方向で。
 更に脇にはサラダをおいて、ドレッシングは市販のものだがまぁいいか。

「お口に合えばいいんですけど・・・」
「フッフッ、・・・いや、美味そうだ」

 今日のメニューはカツカレーって奴ですが、なんていうか、果たしてこの巨体の胃袋を満たすだけの量があるかどうか。もっさぁ、とど派手なピンクの羽毛?を着込んだ、やっぱりど派手且つ長身の男を首が天を向くほど見上げながら、フッフッフ、と面白そうに笑う口元を見つめる。
 ていうかあの羽の上着は邪魔ではないだろうか。カレーとかついたらどうしよう。私のせいじゃないよって言って聞いてもらえるのかな。そんなことを思いながら、カツカレーを口に運ぶピンク男・・・突如船にやってきてジュラキュールさんは所用で遅くなるという伝言を伝えてくれて、何故かそのまま居座り晩御飯を所望しやがった不審者、もといジュラキュールさんと同じ王下七武海とかいう大層な肩書きを持つ海賊らしいドンキホーテ・ドフラミンゴという男は、さくっとカツを歯で噛み千切りながら、一言呟いた。

「割と美味いな」
「ありがとうございます?」

 割とって褒め言葉なのか?・・・まぁ、なんか見た目からして舌が肥えてそうな相手に割とでも「美味い」という評価が頂けたのだから上出来じゃないか?ドンキホーテっていうと某激安店が思い浮かぶわぁ、とか思いながら、いや、なんか、店じゃねぇけど、なんか、と歯切れの悪い言い方で、パクパクを口に運ぶドンキホーテさんはあっという間にお皿を空にして、それから、ずいっとその皿を突き出してきた。・・・・ん?

「おかわり」
「わかりました」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ジュラキュールさんの分、余るかなぁ。カレー皿にカレーをよそいつつ、割りと旺盛な食欲に、炊いたお米とかが足りるのかが不安に思った。だって、客の分なんて想定外だよ・・・。ていうか客でいいのかすら不明だけど・・・・海賊?なんだよねぇ?普通に船にあがっちゃったけど(上げたっていうより、勝手に上がってきたといった方が的確だ)、大丈夫なんだろうか?と首を捻る。
 とりあえず、今か今かとカレーを待っている分には、無害そうではあるんだけどなぁ。



 

〔つづきはこちら〕

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